第15話 水族館の魔法のなせる技

薄暗い水族館の通路を走る二人。

霞 晴子(かすみ はるこ)はマーくんの腕を引っ張りながら走る。

一旦止まって、左右をキョロキョロ。

逃げ出した高井 舞子(たかい まいこ)を探している。


「わかったから、もう離してよ。」

腕を掴まれているマーくんは、晴子に言う。


「あ、ごめんね。痛かった?」


「それは大丈夫だけど。

俺、引っ張って来て、どーすんだよ。」


「マーくんは、どぉ思ってても構わないけど、

一度舞子とちゃんと話をして。

それが誠意だよ。」


「誠意って、俺、関係ないじやん。」


「あんたさぁ、あれだけ思わせぶりしといて、

それはないよ。

自分のしたことと、舞子の素振りで、わかんないの?

だから男は鈍感!って言われるのよ。」


「あ、いた。舞子!」






高井 舞子は、自販機コーナーの壁にある、

お尻を引っ掛けるだけの簡易シートで休んでいた。

もう、逃げるつもりはないようだ。

「晴子、ハロー!」

「何しに来たのよ、マーくん。」


「何だよ、それ。来たくて来たんじゃないよ。」


「ちょっと、マーくん、話があって来たんでしょ。」

晴子は促す。


「べぇっつにぃ、話なんか、」

晴子に強く背中を押されて、言葉が途切れるマーくん。


「ちゃんと二人とも言いたいこと言って。

ケンカするなり、仲直りするなり、先へ進もうよ。

このままモヤモヤのままではダメだよ。」






晴子が退場して、

二人だけになったマーくんと高井ちゃん。


「霞ちゃんは、相変わらずお節介だな。」


「そうね。」


「、、、、おまえ、水族館、好きだよな。」


「そうよ。」


「ほんとは、水槽に入って一緒に泳ぎたいんでしょ。」


「なにぃ!水泳部だからってバカにしてるのかぁ!」


「違うよぉ、シンプルにそう思っただけ。」


「でも、イルカとは、一緒に泳いでみたいな。

メッチャ速かった!すごかった!やばぃやばぃ!」


「うん、速かった、びっくりした。」

「、、、俺さぁ、小学校の遠足の時、ここでおまえに告白したじゃん。」


「うん、覚えている。」


「俺、振られたのがショックでさぁ、」


「ちょっと待った!!!」

ここまで静かな会話が続いていたが、ボリュームを上げる高井ちゃん。

「私、振ってないでしょ!」


「うっそ!だって、おまえ、しばらく黙り込んだ後、逃げちゃったじゃん。」


「ぇえぇ!私の返事、聞こえてなかったの!?」


「マァジかよ、マジかよ!、、、、で、何て言ったの。」


「えーーーー、もう、今更いいよ。」


「何だよぉ、気になるーーー!教えて!」


「、、、、私も好きだよ、って。」

恥ずかしそうに下を向く高井ちゃん。


「わぉーぉ!」


「だから、小3の私が言ったんだからね。」


「そっか。」

「、、、俺、今、1組にちょっと気になる子がいてさ、」


「うん。」


「別に、今すぐどうこうしようってわけじゃないけれど、」


「うん。」


「ちょっと、見守っていこうかな、って。」


「うん、、、、、それでいいの?」


「えぇっと、まあ、そうだな。」


「じゃあ、その時が来たら、応援するね。」

ちょっと痛々しいニコニコ笑顔の高井ちゃん。


「あ、あぁ、ありがとう。」


「私もありがとう。話ができて、よかったよ。」


「行こう、みんな待ってるよ。」


「うん。」






水族館の魔法のなせる技。

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