第6話

水族館、ついに来たよ。

下見という名の2人だけの本番。

で、やっぱり、これこれ、クラゲの水槽が好き。

わざと室内は薄暗くしてあるんだろうな。

水槽にだけ照明が当たって、

キラキラ、ふわふわ、クラゲが一番綺麗に見えるように。

この子達見ていると、穏やかで優しい気持ちになれる。

こんな時に、隣に気になる人がいたりすれば、

そりゃもう、気持ちが盛り上がっちゃうよね。

武佐士も、私のことをそう思ってくれているかな。






「告白タイムしようか?」

クラゲを眺めて、しばらく無言だった2人の間に、突然の武佐士の発言。


「えっ!」

何!武佐士から来るの!?それとも私に催促しているの!?


「来週の本番、ここで告白タイムとか、どう?」


「あっ、本番ね。いいね。素敵。エ!クセレント!」

あーーーびっくりした。心臓がちょい止まった。

幹事としての企画案ね。


「男の子が、1人ずつ告白するのね。

面白そう!!いいね!いいね!武佐士ナイス!」


「じゃあ、男どもには根回ししておくけど、

女子にはサプライズでどうだろう?」


「うーん、いいんじゃない。サプライズ!」

ちょっとだけ嫌な予感もしたが。

こういうのって、この場限りのゲームみたいなものだよね。

事後のわだかまりは気にするほどではないよね、と考えた。

私の性格ゆえに。


ところで、武佐士は誰を選ぶつもりなんだろう。


クラゲを離れて、順路を進むが、ボーっと水槽を眺めるだけで、

魚の解説など、もちろん頭に入ってこないし、

来週のシミュレーションも浮かんでこない。

武佐士は要所要所で、建物の写真を撮りながら進む。

その後ろ姿を追いかけるように私は進む。

武佐士の今日の一番の目的は、実はこれだったのかな。

ちょっと、がっかり。







「じゃあ、もうバイトの時間だから行くね。」


「私も行く。駅まで一緒に行ってもいい?」


「うん、行こう。」


これがラストチャンスかな。

武佐士と2人きりって、そうそうあるわけじゃない。


「バルセロナ、行ってみたいよね。」


「行きたい!現役で受かったら、自分へのご褒美にしようかな。」


「《私も一緒に行きたい!なんて軽々しく言ったらダメだよね。》」

「夢が叶うといいね。」


「あぁ、今が頑張りどころ。」


「それじゃ、今日はありがとう。お弁当おいしかった。」


「うぅん、私こそ、日付間違えて、こんなことになって、ごめんね。」


「いいや、俺にはラッキーだった。ありがとう。またね。」


「またね。」

ラッキーだった、なんて言われた。

別に特別なことがあったわけじゃない。

でも、今日のことは、私は一生忘れない。

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