第1章 沈む世界 第1-2話 ある警察官の日常

 交通課で切符を受け取って、2人はバイクで市内の交差点へ向かう。

 強盗のこともあり、銀行の見える場所で携帯電話の違反の取り締まりを始める。

 違反の現認げんにん係と車の停止係に別れ、無線で違反を伝える。

 星斗は3台目の違反を現認し、森岡に違反を伝えたところで、そろそろ交代かなと考え始めていていた。その時……


 ――バンッ!――


 乾いた破裂音が鳴り響く。

 聞き覚えのある発砲音に心臓が跳ね上がる。

 すぐにでも硝煙の匂いがしてきそうな射場しゃじょうの光景をフラッシュバックしながら、星斗は我に帰る。

 すぐさま発砲音のした銀行の方へ目をやると、悲鳴と共に蜘蛛の子を散らすように逃げてくる人々が目に入った。

 金融機関の出入口には黒色のキャップ帽を被り、サングラスに白マスク姿の男が1人。右手には鈍色の鉄の塊を片手で構えていた。

 男は逃げ出してくる客を尻目に、悠々と入り口から銀行中に入っていった。


「マジか!?」


 一瞬、現実を受け入れられず、星斗の思考が固まる。しかし即座に頭を切り替え、森岡に向かって叫ぶ。


「森岡ー!!拳銃強盗!!集合!!」


 森岡の返事を待たず銀行へ向かって走り出す星斗。


 ――バンッ!――


 更なる発砲音。

 

「ックッソ!」


 逃げ出してきた女性客がこちらに気付き駆け寄ってくる。


「――中で、男の人が、撃たれたんです!!金を出せって叫んでいて!!」

「っ!すぐにここから離れて!そしたら110番通報して!お願いします!!」

 

 星斗はすぐさま無線機のマイクを取り、プレストークボタンを押す。そして一気に至急報しきゅうほうを告げる。


「至急至急!!深山305から埼玉本部!!深山市元町地内るそな銀行にて拳銃使用の強盗発生!!丸被まるひ男1名!拳銃を所持し2発の発砲音を確認!!なお銀行内に撃たれた負傷者がいる模様!!丸目まるもくに110番通報を依頼した事から詳細聴取願います!!現在本職含め2名で銀行の外から確認中、至急応援願います!!」


 一息で状況を喋り、女性客を近くのコンビニに避難して110番するように指示する。

 緊急の場合、目撃者等から直接110番通報して貰うことがある。110番通報することによって本部通信司令課の警察官が状況を聴取、そのまま同時進行で県下の警察官へ司令を出す。これにより活動中の警察官に素早く状況を伝え、より多くの警察官で現場対応することができるのである。


 そうこうしている間に森岡が合流する。


「仁代部長!!」

『至急至急、埼玉本部から深山305宛、一方的に送ります。丸被まるひ拳銃使用が予想されるため、無闇に現場げんじょうへ飛び込むことなく、応援勤務員と合流、受傷事故防止資機材完全着装の上対応願いたい』

 

 森岡が合流するもこちらは2人だけ。防弾衣ぼうだんいや防弾盾、防弾ヘルメット等の対拳銃用装備資機材はない。本署かPBピービー(交番)勤務員と合流しないと銀行内の確認もできない。


 ――キンコーン、キンコーン――


『埼玉本部から各局。深山PS管内、拳銃使用の強盗発生につき、緊急配備を発令する。現場げんじょう、深山市元町一丁目2番3号るそな銀行元町支店。丸被まるひ男1名。拳銃を所持し、現在までに2発発砲。丸目まるもく女性から聴取したところ、銀行内で男が発砲、男性が撃たれ負傷しているとのこと。急行する各局は防弾衣等受傷事故防止資機材を完全着装の上、緊急走行で向かえ。到着後、無暗に現場げんじょうへ飛び込むことなく、他の勤務員と合流、対応に当たれ。発生署深山、指定署熊山、木庄、堀居。応援協力隊機捜きそう北部とする。司令番号1001番、司令時間10時15分、扱い佐藤。解信かいしんを取る、深山からどうぞ。』

『深山了解』

 熊山どうぞ

『熊山了解』

 木庄どうぞ

『木庄了解』

 堀居どうぞ

『堀居了解』

 機捜北部どうぞ

『機捜北部了解』

 以上埼玉本部』

 

緊配きんぱいがかかったな、応援はまだ来ないよな」

「ですね、近付きますか?」

「いや、負傷者は気になるが……この装備じゃ厳しいだろ。万が一の為に拳銃は抜いておけ。拳銃使用になるから後で報告書を書くぞ」

「……了解……」


 銀行の出入口から目を離さず、2人は拳銃をホルスターから取り出し、そのまま両手で把持はじし地面に水平ではなく、前斜め下方へ銃口を向ける。

 拳銃使用に当たる為、後に報告書の作成が必要になるが、致し方ない。

 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

 ――もう少し――

 

 星斗がそう思った瞬間、銀行の出入口からスーツの男性が現れた。更にその後ろから自動式拳銃をスーツの男性に突きつけ、左手に札束を握った被疑者の男が顔を出す。


「なんだよ、もうサツ居るじゃねーかよ!通報するなっつったろうが!!」


 被疑者がスーツの男性を蹴り飛ばし、男性がうつ伏せに倒れる。被疑者の右腕がスッと男性に向けられる。その手に握られた鈍色の自動式拳銃の銃口がスーツの男性に向けられる。


 ――バンッ!――


 男は何の躊躇ためらいもなく拳銃を発射する。

 

「「拳銃!!」」


 警察官2人の声が重なる。

 2人とも右足を素早く後ろに引きながら腰を低く落とし、拳銃を男に向け両手で構えて、叫ぶ。


「「銃を捨てろ、捨てないと撃つぞ!!」」


 射撃の警告を発しながら、自身の被弾面積はなるべく少なくするため身を屈める。照星照門しょうせいしょうもんは見ない。大凡おおよそで狙うしかない。それより被疑者の動きを注視しながら、撃たれた男性を確認する。

 呻きながら男性は左足の太もも辺りを抑えているのが見え、地面には血溜が広がっている。


「何だよ、外れちまったじゃねーか。つーか、てめーらなに物騒なものこっちに向けてんだよ!!」


 ニヤニヤと笑ったかと思ったら、いきなり激昂する被疑者。


「銃を捨てろ!!撃つぞ!!」


 再度警告をしながら被疑者の男に狙いを定める。星斗の脳中はアドレナリンが溢れかえり、極度の緊張と興奮状態になっていた。

 

(あれはシャブ中か!?ここから被疑者まで約10メートル。当たるか!?被害者に当たらないか!?てか威嚇射撃は……いとまがない!!撃てるか!?報告書がやばそうだ!!!!!)


 被疑者がおもむろに2人の方に向き直り、拳銃を構えようとする。その瞬間、引き金に指がかかっているのが見えた。


「撃つぞ!!!!!」


 星斗が叫び、覚悟を決めて引き金を引こうとした、その時。


『これより神罰術式を発動します』


 世界を終焉へと導く言葉が、世界に鳴り響いた。

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【新連載 第1章は毎日18時に更新】暁の世界、願いの果て 蒼烏 @ragu-karasu

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