第八話 目つきの悪い愚痴る妹

南灯から解放され、今度こそ家に向かう。

…と、帰宅中にLINEが届いた。

嫌な予感がするぞ…。ポケットからスマホを取り出し、名前を確認する。

思わずため息が出た。


「えー、マジか。三ヶ月間何もなかったじゃん。」


LINEに書かれてあった内容はこうだ。


まことにい、公園で待ってる』


差出人は冬神霜枷ふゆがみそうか、銀也の妹だった。




公園に着いた俺は、ベンチで座っている人物に声を掛ける。

「よっ、霜枷ちゃん、おまたせ」

「真にい、久しぶり。って、え、もしかして学園帰りだった?」

「いいのいいの、気にしないで。それで?今日は何があったの?」


呼び出した事は何とも思ってないんだな、とは流石に言わない。かわいそうだし


俺が呼び出されたのは初索公園はつさくこうえん、近所にあるブランコに小さい滑り台、砂場にベンチで構成されている小さな公園だ。

名前の由来は『木登学園シリーズ』を製作したアダルトゲームブランドの『ハッサク』だ。何とも安直である。

木登学園シリーズでは一作目の主人公ととあるヒロインが昔一緒に遊んでいたという、まぁありがちな設定の為に作られた場所だ。

そして、二作目ではヒロインの一人である冬神霜枷が親友キャラの土暮真に愚痴を言う場所として登場している。用途がおかしい

…そう、愚痴である。つまり俺はこれから霜枷ちゃんからも愚痴を聞く事になるのだ。勘弁してくれ


「そう!聞いてよ真にい!ゆきねえってば私に内緒でぎんにいとデートしたんだよ!」

今朝も聞いたなそれ


雪ねえというのは霜枷ちゃんの姉の雪音ゆきね、銀にいは銀也のことである。

ちなみに俺は真にいと呼ばれている。

銀也とは小学生の頃からの付き合いだからな。妹達とも接点はあるってもんよ。


「買い物の間違いじゃないの?」

「二人でだよ!?デートに決まってるじゃん!」

二人でも買い物になると思うんだが


「真にいも知ってるだろうけどねぇ!雪ねえは!!昔から抜け駆けばっかなんだよ!!」

「抜け駆けねぇ…」


雪音ちゃんは確かにお淑やかな見た目に反して結構積極的だ。それはもう…ちょっと酷い

だがいくらここがゲームの世界とはいえ、流石の奴も妹ルートなぞ選ばんだろう。


「雪ねえってば私もいるのに銀にいだけに料理手伝ってとか言うしさぁ!しかも私の目の前で!」

あー、雪音ちゃんはやる。そういうことやる。

冬神家は両親が多忙の為、家事はほぼ雪音ちゃんがやっている。………そう考えるとマウント取るのも当然の権利なような気もするな


「銀にいもチョロすぎ!雪ねえの裸エプロンなんかに気を取られちゃって!!」

それは直視するだろ普通………いや実の妹相手にそれはないな。気持ち悪いぞ銀也


雪音ちゃんは料理をする際、銀也がその場に入れば必ず裸エプロンになる。

親がいようが俺のような奴がいようがお構いなしだ。強すぎるよね

だがそんなのは冬神家では当たり前だ。こんな事はお家デートにもならん


「この前なんて二人でカラオケ行ったんだよ!?」

「ちょっと待て、カラオケ?」


それが本当なら話は別だ。二人でカラオケは明らかにデートではないか。

『冬雪霜』の雪音ちゃんルートには実際カラオケイベントがある。

絡んできたチャラ男を撃退し二人はカラオケルームで…という流れだ。

待ってくれ、二人はもうそこまでいったのか?

ここがゲームの世界とはいえ親友が実の妹ルートに入るのは勘弁してほしいんだが


「そう!しかも雪ねえってばその時の事はぐらかしたんだよ!絶対何かあったんだって!!」

嘘だろ信じたくないんだが


雪音ちゃんは霜枷ちゃんに対してかなりマウントを取る子だ。はぐらかしたってのはわざとのはずだ。

嘘を言う子でもない。マジなのだろう


「だからさ、真にい、銀にいに聞いてきてよ。」

「え、嫌だよ。霜枷ちゃんが聞けよ。」

「聞いたから真にいをこうして呼んだの!!銀にい『何の話だ』って言ってとぼけるんだよ!!」

あっ、実践済みでしたか


どうするか。いや、俺個人としてはすげぇ気になる。

だってシスコンのアイツがそんな重大イベント俺に話さないわけねぇもん。何かあったのは事実だ。

実際アイツは例え妹関連でも本当に大事な事は話さないしな。実は付き合ってましたって可能性は十分あり得る。 

…だが時期が気になる。なにせ雪音ちゃんのルートに入るのは今年のクリスマスだ。

この世界が俺が前世を思い出したせいでバタフライ効果が起きたってなら理解できなくもないが、霜枷ちゃんはさっき、はっきりとと言った。

つまり、俺が前世を思い出す前の出来事という事だ。

そうなると…………さっぱり分からん!出てこん!


「でも銀也、霜枷ちゃん達の事独占するって言ってたぞ。まだ大丈夫なんじゃないか?」

「独占!?えぇ、銀にいってば…えぇ!?えー本当に!えへへ///」

えっ、照れるところですか?俺ならドン引きするぞ


「まぁそれとなく聞いとくよ。まぁどうせ何もないだろうけど」


絶対マシンガントークになるだろうからあんま聞きたくないんだけどね。

頼むからボロは出さないでほしい。俺を色んな意味で困らせないでくれ


「ありがと、それとさ真にい」

「ん?どした?」

「なんかさー、見ない間になんかあった?」

えっ


待ってくれ、なんでそんな話になる。


「どしたの急に」


だがそこは適応能力の高い俺氏、冷静に問い返す。


「いや、うーん。まぁ、なんとなく」

なんとなく!?

なんとなくじゃ困るんですよ霜枷さん。


ヤバいな、霜枷ちゃんはシリーズの中でも上位に来る観察力の持ち主。

絶対なんか気づいているはずだ。

今の短時間でダメなところなんてあったか?

いや、特に無い。俺は土暮真をちゃんと演じていたはずだ。


というか待ってくれ。霜枷ちゃんでこれなのだ。

には既にバレているってこと!?

超困るんですけど!!


「あー、ごめんね真にい、変なこと言っちゃって。多分気のせいだ。」

絶対気のせいじゃない!

その目つきの悪さが何よりの証拠だ!!


「真にい、今失礼な事考えなかった?」

「いや、別に」

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