第六話 ラブコメシチュエーション好きの強気な転校生

五作目『リベンジノーマル』 波道佳奈視点


「波道さん、運動って得意な方なの?」


一時間目は体育の授業。

クラスメイトのはかなきさんが声を掛けてくる。


「いえ、私はあまり得意な方ではないですね。儚さんは?」

「うち?うちも微妙かな…」


今日の体育は持久走と聞いた。

正直保健室に逃げ込みたい。


「そういやさ、うち恋愛小説にはまってるんだけどさ。最近人気なのが持久走モノなんだよねぇ」

「持久走モノ…ですか…」


聞いたことのないジャンルだ。


「うん、持久走モノ。例えばラブコメの定番イベントで振られた子の写真立てを持ちながら好きな子に告白するってのがあるでしょ?」

「ありますね。君はこんな奴よりも全然可愛いし綺麗だ!って言いながら写真立てを捨てて一途なことをアピールするやつですね。」

「そうそう、それの持久走バージョン。前を走ってる振られた子からわざと距離をとって、その後ろに走る好きな子に、僕は前に走る彼女には追い付けないが、君となら一緒に走れるってアピールするんだ。」

「確かに良いとは思いますが、それでは振られた子への未練がまだ残っている様に感じ取れます。何か別のアピールもないと…」


儚さんが待ってましたと言わんばかりの表情をする。


「そう!そのアピールの仕方が良いのよ!持久走を終えて汗をかく二人。彼は好きな子に振られた子を見てという。するとそこには汗一つかかず澄ました顔の振られた子。そして彼は言う!君は奴のようなバケモノじゃない。僕と共に汗を流せる人間だ!僕にあのバケモノの隣は無理だが、君の隣にならいれる!…って。」


「……素晴らしいじゃないですか!」

「そう!そうなの!」


恋愛小説…あまり読んだことがなかったのだが、今度読んでみようかな。




「神玉さん、一緒に食べましょ♪」


昼休み、急いで出ていこうとする神玉さんの腕を掴む。


「波道さん、やめて。他人でいさせて。周りが怖いから」


神玉さんが腕を振り解こうとするができるわけがない。

私は握力が強いのだ。


「痛たたたたたたたた!!!痛いって波道さん!爪!爪食い込んでる!」

「じゃあ、一緒に食べてくれますね?」

「分かった!分かったから!!手を放して!!」




「へぇ、神玉さんコンビニ弁当なんですか。」

「うん、親が共働きでいないことが多くてさ。」


今私達が食べている場所は屋上。

神玉さんが周りの目が嫌だからと言って、私を連れ出したのだ。

神玉さんと教室を出た直後、ゾロゾロと他の方も追ってきていたが、何故か屋上の前に着く頃には誰もいなかった。


まるでラブコメの展開でよくある、この空間には入らせねぇよと謎の圧(物理)が邪魔者に催眠術を掛けて排除していく感じだ。


「波道さんは、お母さんに作ってもらったとか?」

「いえ、私は手作りです。小さい頃から母に叩き込まれたんですよ。」

「へぇー、花嫁修業ってやつ?」

「そうですね。って神玉さん、その弁当、野菜がほぼ入ってないじゃないですか。」

「え?だってコンビニ弁当だし。」

「それに余りに肉が多すぎると思います。唐揚げ、ハンバーグ、油淋鶏、生姜焼きにとんかつって!」

「え?だってコンビニ弁当だし。」

「ここまで肉尽くしは流石にないですよ!?」

「だって実際売ってあるし。」

「そういう問題じゃなくてですね!?」

というかそんな弁当が売ってるものなのか。


「明日から私があなたの弁当を作ります!!」

「はい?」

「見てられません!神玉さん、きちんとバランスを考えた弁当を食べてください!」

「いや、でもそれは流石に悪いよ。」


神玉さんが戸惑ってるが関係ない。このまま押し通す。


「悪いのは神玉さんの方です!私、絶対に作ってきますからね!!」

「あっ…はい。」




午後の授業も終えた私は神玉さんに声を掛ける。


「神玉さん、一緒に帰りませんか?」

「………波道さん、視線気にしたことある?」


何か言っているが無視です無視。

私は座っている神玉さんの腕を掴み、強引に立たせる。


「さっ、部活もお休みなんですし、一緒に帰りましょう♪」

「いやなんで部活休みの日知ってr痛たたたたたたたたたたた!!!」




「波道さん、流石に教室で誘うのはやめてほしいかな。」

「神玉さん、ああでもしないと一緒に帰ろうとしませんよね?」

「いやそうだけどさ…」


やはりそうか。これからも誘い続ける事にしよう。


「そんなに嫌でしょうか、ああいう目で見られるのは。」

「嫌に決まってるでしょ!?多分いつか殺されるって俺!?」


この二日間でこんなに何回も目を見開く人は初めて見たかも。


「えっ?殺されるとしたら私の方じゃないですか?」

「…え?なんで?」

「神玉さん、転校二日目の人間が普通好かれるわけないじゃないですか。」


神玉さんがポカンと口を開ける。


あれ?私、何か変なこと言ったっけ?

やがて意識を取り戻した神玉さんが猛烈に否定してくる。


「いやいやいやいや!!俺が好かれてる方がおかしいって!!」

「え?」


それこそないだろう。何度も言うが転校二日目ですからね?私?


「逆に波道さんはあんな目で見られてなんとも思わないの?」

「私は覚悟の上で神玉さんに話しかけてるんですよ?」

神玉さん、何故かドン引き。


「じゃあ、波道さん。俺は波道さんがそんな目で見られてほしくない。だから人前であんなことするのはやめてくれ。」

えっ


「神玉さん、それ無自覚ですか?」

「ん?無自覚?何の話?」


…………なるほど、天然キャラですか。

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