第四話 クセの強い木登学園の奴ら そのニ

午前の授業が終わったので、食堂へと向かう。

銀也の奴に一緒に食べるかと誘われたが、どう考えても霧垣にとって俺は邪魔な存在なので断った。

アイツはマジで察する事を覚えろ


そんな事を思いながら教室を出て左に曲がる。

ちなみに俺達のクラスは1年B組で旧校舎の一階にある。

隣のクラスのA組を素通りすると新校舎に繋がる通路がある。

食堂はその通路の間にある枝分かれした道を通ったところだ。近くて助かるぜ。


「あれ?つっちーじゃん。また一人で食べようとしてんの?」

「ん?あぁ宴額えんがくか、よく聞け?モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で なんというか自由で救わr「一緒にたーべよ!」

最後まで言わせろ


この女の名前は宴額薫えんがくかおる

三作目『ハーレム作って何が悪い!!!』のヒロインの一人だ。

ストーリーは…………タイトル通りだ。察してくれ



結局断れなかった俺は今、宴額と昼食をとっている。


「つっちーホントに一人でよく食べてるよね。あんなに友達いるのに。」

「おめーには言われたくねぇよ」


彼女はいわゆる陽キャで、誰とでも仲良くなれる魔性の女だ。

だってコイツ高等部からこの学園に入学してきたのにもう全校生徒の三分の一とLINE交換したんだぜ?しかも中等部も含めてだ。俺も交換した。

まだ二ヶ月ですよ?怖いでしょこの女


……と、なるのが轢かれる前の俺。今となっちゃ別の意味でも恐怖の対象だ。


「どしたの、目逸らしちゃったりしちゃってさ。」

「いや、なんでもない」


コイツを恐れる原因は、コイツ自身の身分に関係する。

この女、巨大財閥『宴額グループ』の御令嬢なのである。

本人はその身分を隠してこの学園に入学している為、知っている者は学園内でもほんのわずかである。

わざわざ食堂で食べているのもそれを悟られない様にする為なんだとか。


え?そんな珍しい苗字でなんでバレないのかって?そんなのご都合主義に決まってるだろ。

実際俺だって轢かれる前はそんな事一ミリたりとも考えた事なかったしな。

…っと、いかんいかん。目なんて逸らしてたらに怪しまれる。いつも通り、いつも通り。


ちなみに俺がよく一人で食っているのは製作陣の意図で、ヒロインとの昼食イベントを邪魔させない為なんだとか。


「というか晴夢はれゆめはどうした。この前付き合いだしたんだろ?」

「あぁ、はれくんね。はれくんなら今別の子落としに行ってるよ。」

「あっ、そうなん。ちなみに誰を?」

「えーと、確か三年の核林かくばやし先輩って言ってたかな。」


なるほど、核林か。確かに今逃せば攻略できなくなるからな。妥当な判断だ。


晴夢星蔵はれゆめせいぞう、三作目の主人公だ。

ルッキズムな上、とにかくハーレムを作る事しか頭に無いヤベー奴だ。

だが、周りはそんな奴の異常な行動を当たり前だと受け止めてしまう。それはヒロインも同様だ。ヤバいってホント


だってこの国別に一夫多妻制じゃないんだぜ?

それなのにこんなのがまかり通ってるんだからおかしいよこの世界。

いや、この世界を創り出した『ハッサク』が一番おかしいよ。





午後の授業も終わり、俺は一人で家に帰っていた。

サークルに所属しているが、今日は休みなのだ。

銀也は置いて帰った。どうせヒロインと帰るに決まってる。また誘われても面倒だしな。


本当は神玉と波道の行動を見てみたかったのだが、そんな事すればに怪しまれるからな。我慢だ我慢。

仕方ないのでゲームのストーリーを思い出すとするか





五作目『リベンジノーマル』主人公 神玉蓮視点


放課後、美術室にて掃除を終えた俺は帰る準備をしていた。


「クソッ、あいつらめ、もっと綺麗に描けってんだ」


先輩どもは、揃いも揃って岡本太郎の例の言葉に影響を受けた奴らばかりである。

どういう描き方をすればそうなるのか、いつも床や窓、道具には絵の具が飛び散らかる。


奴らは『美術室とは絵紙だ!その絵紙を塗ってこそ作品として成り立つのだ!!これは芸術だ!!』とか言って掃除しようとすると怒ってくるので、わざわざ時間を空けてから一人で掃除をする。

あいつらバカだから『ぐおおお!!またやられた!!黒板アートではないのだぞ!!』と俺を疑うことすらしない。あいつらバカだから。


高等部に入学してはや二ヶ月、もはや慣れたものだ。今日なんて三十五分で隅々まで綺麗にした。新記録である。


……さて、帰るか。

そう考えながら美術室のドアを開け

「うおおおおおお!?」

思わず叫んだ。目の前に絶世の美少女が立っていたのだから当然である。


「な、波道さん!ど、どうしたのこんな時間まで」


波道佳奈、今日俺のクラスに転校してきた子だ。


「神玉さん…ですよね?まだちゃんと挨拶をしておりませんでしたね。初めまして、波道佳奈です。」

「いやもう十分知ってるから。それで、どうしたの?」


一体何の用だ、思い当たる節なんてないぞ…と思いたいがメチャクチャある。

今朝、俺は彼女と曲がり角でぶつかってしまったのだ。

その拍子に転んだ彼女のパンツも覗いてしまった。青の縞パンでした。


「えっと…今朝のことなんですけど…。」


あぁ、やっぱりそうか。つまり俺はこれから彼女から制裁を受けるという事か。

きっとこれから学園内に俺のよからぬ噂が流れてくるのだろう。

さよなら、俺の平穏な日々、こんにちは…俺の不穏な日々。


「ずっと謝りたかったんです。神玉さんに」


あぁ、どうか願わくはこのまま誰にも変な目で見られる事なくボッチのまま生活ができますように。


「今思えばぶつかったのはあんな所で地図アプリを見ていた私の方に責任があります。」


あぁ…見える…殺意の目が向くのが見える…中学の頃に嫌になる程見た光景だ。


「それに下着を覗いてしまったのだってあれは不慮の事故です。神玉さんは何も悪くありませんでした。むしろ、覗いた事に腹を立ててビンタしてしまった私の方がダメです。ダメダメです。」


あぁ…今更になって嫌になってきた。許してほしい…許してもらいたい…


「こんな事言って許されるはずがないとは思っているんです。ですが、どうか言わせてください。」


こんなのは許されない…だがどうか…どうか…


「「許してください!!何でもしますので!!!」」





とまぁ、あの二人にはそんなイベントがこの後発生するであろう。

明日からの変化で確認するとしよう。

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