第二話 素っ気ない鈍感系主人公
「そういや今日転校生が来るって話だったよな」
「あぁ」
銀也は俺の隣を歩きながら素っ気なく答える。
先程親友が轢かれたというのに全然心配してくれない。
理由は一つ、これが普通だからだ。
雨の日は必ずといっていいほど雷に当たるし、風の強い日は倒壊に巻き込まれるし、雪の日は雪崩に遭うしで散々だ。
そんな目に合っているのにも関わらずピンピンしているのだからもはや皆これが当たり前だと思っている。
おかげで俺はこの辺でかなりの有名人だ。
ちなみにだが、何故かこんな目に遭うのは外に出ている時が大半で、家や学園などの建物内ではあまり不幸が訪れない。
「いやー、ラノベとかで見た事はあったけど本当にあるんだな。突然転校生がやってくる展開。」
「そうだな」
俺はいつも通り銀也に話をする。
そう、いつも通りだ。
いつも通りの土暮真を演じるのだ。
例え前世の記憶を思い出したってそれをやめてはいけない。
そう、やめちゃいけないんだ。
前世の頃から適応能力だけは高かったのだ。俺になら出来る。…そこ!ご都合主義とか言わない!……いや誰に言ってんだ俺は
理由は二つ
一つはもちろん周りに悟られないようにするため。
もしここで変な動きをしてしまったら鈍感のくせに変なとこは勘のいいコイツや周りが変な心配をするだろう。不幸体質を心配しろよ
二つ目は厄介な奴らに巻き込まれるのを防ぐため。
ゲーム本編での土暮は不幸な目に遭うくらいで特にゲーム本編の面倒な事に巻き込まれるキャラではない。
だが、この学園には人体実験が大好きな奴や生体観察が好きな奴などイカれた奴が多過ぎる。前世の記憶持ちなんてバレたらどんな目に合うか分かったもんじゃない。
自身の身を守る為にも演じ切らなくてはならないのだ。
学園に着き、クラスに入った俺達はそれぞれ席に着く。
俺は窓側から三列目の上から四番目の席、銀也はその右だ。
「そういや転校生って席どこになるんだろうな」
「ん?あそこじゃないか?」
銀也が指を指した方向は窓側の一番奥の席。
え、昨日までなかったよな。あの席。確定じゃん。
っと、俺はその空席の隣でうつ伏せになっている男に目が入る。
あぁ、そういやコイツも主人公だったのか。
五作目『リベンジノーマル』の主人公、
中学の頃、とある事件を起こし転校してきた神玉は、目立たないように生きる事を決意していたが、転校生の登場により平穏な日々は崩壊してしまう…といった感じの話だ。
まぁ、転校生が事件に関わってるわけじゃ無いんだけどね。
……あれ?転校生?
そういや、『リベンジノーマル』の物語開始って六月だったよな。
今日は六月十日…………確定じゃん。
「え、なになに?今日転校生来るの?」
後ろから元気な声が聞こえた。
そいつは俺の机の前に来るとなんのためらいもなく俺の机に座った。
「
「嫌だよ、なんで冬神君に失礼なことしなくちゃいけないの。」
「俺にはいいのかよ」
この失礼な女は
彼女を一言で表すなら日焼けスポーツ女子といったところか。
「というか昨日先生が言ってただろ」
「え、だって体育以外の先生の話って全部眠くなるというか」
「あの先生の話を聞いて眠くなるとかすげぇよお前」
「そう?ASMRって感じするけど」
「「それはない」」
「二人してツッコむの!?」
コイツは体育以外の成績が本当に酷い。
中学の頃は良かったはずなんだがなぁ…とはトラックに撥ねられる前の俺の思考だ。
コイツがこんなに酷くなったのもちゃんと理由がある。
それを思い出した今、そう思うわけにもいかない。
「そうだ、冬神君、今日よかったら一緒にお昼食べない?」
「いいぞ」
「えっ?ホントに!イイの!?」
「あぁ、それと
西鶴の表情が固まる。
ホントコイツは…
「えーっと、なんで、
「ん?綺夏が昨日誘ってくれたんだ」
「あ、あぁ、そうなんだ」
マジでダメだコイツ。鈍過ぎる。
「あー、ごめん、やっぱ私今日予定入ってたんだ。また今度二人で食べよ?」
「あぁ」
ホントに今更だが銀也の奴、返事薄いな
俺の机で落ち込んでる西鶴。
それに一切気づかない銀也。
ただ眺めてるだけの俺。
中等部の頃から見慣れた光景だ。
その時、この空気を振り払うように電話が鳴った。
「ん?」
銀也がポケットからスマホを取り出す。
画面に映っている名前を見たのだろう。溜め息を吐く。
「すまん、ちょっと席を外す」
「いってらー」
銀也が教室から出て行った。
まぁ、発信者は大体想像つくが。
「冬神君、ちょっと鈍過ぎるって…」
西鶴は引き攣った笑顔を浮かべていた。
ハイライトが無い…これがベタ目ってやつか
多分出て行ったことにも気づいてないなこりゃ
二作目『冬雪霜』主人公 冬神銀也視点
真に席を外す事を伝えた俺は廊下に出る。
廊下の壁に寄りかかり、着信に応答する。
「ことみ、どうした」
『すみません、銀也。朝っぱらから電話してしまって』
「構わない。それで、要件は」
『率直に言います。今日私の家に来てください。』
やはりそうか、思わずため息が出そうになる。
「何があった?」
『インターネットが壊れたんです』
正規の大事件ではないか。
『どうしましょう銀也。私、直せる気がしません。』
俺だって知らん。
「どんな症状か分かるか?」
『そうですね、電源を押しても付かないのですよ。』
「……ケーブルが抜けているだけなのでは?」
『ケーブル……アレが抜けているとパソコンは起動しないのですか?』
それを知らないわけないだろ、パソコンマニアのお前が
「とにかくそれを挿せ、恐らくそれで解決だ」
『ふむ、それならばやはり銀也に来てもらいましょう。解決するのか見てもらうんです。』
「行かんぞ俺は、今日は
『………シスコンですね、銀也は』
「断じてブラコンではない。妹に一緒に来てくれと言われたら行くのが兄というものだろう」
『………………本当にシスコンですね、銀也は』
「だからシスコンではないと……切りやがった」
電話の相手の名は
初対面で何故か俺に対して幼馴染を自称してきた引きこもりである。
だが完全に引きこもりでもなく、来る日もあるのだ。
彼女曰く『私、最低日数ピッタリしか学校に来る気ありませんので』とのことだ。
本当かどうか疑わしい。
そして、彼女は先程の様に何かと俺を家に招き入れようとするのだ。
まだ二ヶ月の付き合いのはずだが、既に六回家に入った
距離感がバグりすぎていると思う。
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