第一話 不幸体質で体が丈夫な親友
目の前に映るのは大型トラック。
なぜ運転手はクラクションを鳴らさないのか?
なぜスピードが落ちるどころか上がってきているのか?
そもそもなぜ車両進入禁止エリアにそんなのが走っているのか?
疑問など考えれば山程出てくる状況なのだが、俺にそんな考えは無かった。
こんなのはいつもの事だからだ。
あぁ、トラックに轢かれるのは初めてだわーぐらいしか思わなかった。
吹っ飛ばされる俺。地面に打ち付けられる俺。
横たわっている俺の脳内に流れてきたのは……これは……走馬灯?
馬鹿な、トラックに轢かれたぐらいで俺が死ぬというのか?
二人組作ってと言われ余る俺、便所飯をしている俺、好きだった人に振られ一人寂しく晩酌する俺。
ちょっと待て。なんだこれ、記憶にないぞ。
いやマジで記憶に無い。
俺には友達どころか親友がいるし、昼飯も食堂で食ってるし、そもそも俺は高校生だ。
ではなんだこの悲しい記憶は、まず間違いなく俺の記憶ではない
なんか休みの日は引きこもってゲームとかラノベばっかだし
そんな典型的なブラック企業に働いてないし
そもそも俺そんな普通に生きてないし
そして、トラックに轢かれた俺の姿が見えた。
…………思い出した。
そうだ、俺は今のように車両侵入禁止エリアに入ってきたトラックに轢かれてそれから…待て、俺なんて名前だ。
………前世で何度も見た名前だ。キャラ設定もまんまだ。親友だって名前が同じなんだ。間違いない。
……そっか。俺エロゲの世界に転生しちゃったのか。確かにラノベとかでよくある設定だよね。好きなゲームに転生って。
…………だがなぜよりによってこのシリーズなんだ、神よ!!
俺が転生したのは、アダルトゲームブランド『ハッサク』が発売しているカルト的人気シリーズ『木登学園シリーズ』の世界だ。
俺はそのシリーズのモブ兼主人公の親友キャラに転生していたらしい。
★
まず木登学園というのは俺の通っている学園の名前だ。
中高一貫校の私立校で、偏差値が国内でもトップレベルのバケモノ校だ。
そして、その木登学園を舞台にしたシリーズこそが『木登学園シリーズ』である。
学園の名前がシリーズ名に使われているのは作品名に統一が無いためである。
土暮真は元々そのシリーズ一作目のゲーム『ブルースプリング』のモブキャラだった。
だがモブキャラのくせにやけにキャラが濃かった俺は製作陣に何故か気に入られ、次回作の『
そのキャラ設定は『不幸体質な上、異常なほど体が丈夫』というものだ。
俺がトラックに対してほとんど何も思わなかったのはこんな事が日常茶飯事な上、どうせ大したダメージも受けないと思っていたからだ。
実際今、かすり傷で体が少し痺れてる程度で済んでるしな。骨は一本も折れてる気配が無い。
この木登学園シリーズ、こんな濃過ぎるキャラばっかなのだ。
それはヒロインにしろ、主人公にしろ、先生にしろだ。
俺よりもヤベーキャラなんて山ほどいるし
あまりにもキャラ設定が濃過ぎる為、一般受けこそしなかったものの、一部に熱狂的なファンを得たシリーズだ。
かくいう俺も全シリーズプレイしたファンの一人だ。
………だが転生はしたくなかった。
当然だろう、誰があんなヤベー奴らがいる世界に飛び込みたいと思うのだろうか。
こういうゲームは外側から見て楽しむものなのだ。マジで背景にいる様な奴やモブAくらいのポジションにいるキャラならまだ許せたのだが、親友キャラだ。ガッツリストーリーにも入ってくるキャラじゃないか。
ちなみに、こういうゲームシリーズって前作の何年後…みたいな舞台設定が多いのだがこのシリーズの時系列はあまり変わらない。
五作目が過去の四作品より二ヶ月、六作目と七作目が四ヶ月、八作目が一年後の話であるくらいだ。
時系列が同じという事は、他作品のメインキャラがモブとして登場する事もあるわけである。俺のように。
「
後ろから俺を呼ぶ声がした。
「あぁ、スポーツカーやパトカーは経験あるけど、トラックに轢かれたのは初めてだったからな。感動で打ち震えてたよ」
「気持ち悪いな」
痺れも治ってきたので立ち上がる。
「気持ち悪いとは失礼な。初めての経験なんて皆そういうものだろ?」
「一緒にするな」
「ごもっとも」
俺は後ろにいる人物へと振り向く。
俺の目の前に立つ男は
俺の親友にして、二作目『冬雪霜』の主人公だ。
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