神話世界の暗殺者~やりこんだゲームの悪役殺し屋一家に転生した俺が最凶最悪の英雄となるまで~

鬼怒藍落

第1話:プロローグ

 ……薄暗い最低限の明かりしかない地下室で目を覚ました俺は、混濁する記憶に襲われながらも意識を戻す。


「……えっと、どこだここ?」


 我ながら呑気なそんな言葉。

 最後の記憶は部屋でゲームをしていたというもので、どうしてこんな場所にいるか全然わからない。


「って――えぇ、誰だこいつ」


 そして周りを見渡しているとふと目に入った鏡で今の自分の姿に驚き、そんなことが自然に出る。

 動けば連動して鏡に映るのは顔の整った黒い長髪の少年。銀の瞳をした明らかに自分ではない何者かだった。


「……アルク様、食事の時間です」


 ……そんな俺に音もなく声をかけてくるのは老紳士といった装いの男。

 急に現れたその人は、俺の挙動を見て不思議そうに声をかけてきて……もう一度声をかけてくる。


「大丈夫ですか……アルク様?」


「だい……じょうぶ? ってアルクって?」


「アルク・ヒュドロスである貴方のことですが……本当に大丈夫ですかアルク様?」

 

 心当たりのあるその名前……さっき鏡でみた容姿に当てはまる一人のキャラクター。それは俺の最後の記憶にあるゲームの悪役で――俺がかっこいいと憧れた男の名前だった。


「えぇ……なんで?」


 背景友人へ、なんか気づいたらゲームの推しキャラになってたんだけど、どうすればいいとおもう? 

 追記:パソコンのデータ消しといてください……届くか知らんけど。


――――――

――――

――

 

【ラグナサーガ】……というアクションRPGがある。

 それは古今東西の神話を参考に作られた闇鍋ゲームであり、主人公と仲間による自由度の高い戦闘と中二病患者特攻のシナリオによって繰り広げられる世界観が楽しいそんな作品。


 仲間との信頼度を深めたり、自分のお気に入りキャラで最強パーティーを作ったりと色々な遊び方ができるそれは、ラグサガという愛称で親しまれかなりの人気作となった。


 かくいう俺もその魅力に取り憑かれた男の一人で、キャラの個別シナリオを見るために死ぬほどそのゲームをやりこんだのはいい思い出。

 そしてそんなラグサガには推しともいえるキャラがいた。


 それが【アルク・ヒュドロス】という暗殺者キャラ。

 仲間になることのない終盤のボスなのだが、ストーリーでは結構序盤から強敵として主人以降に立ちふさがり、主人公に対する悪役として最後まで矜持を貫き通したイケメン。

 どこまでも純粋に世界をよくするために信念を貫いたかっこいい奴で、最期は主人公を助けるために「おまえが救え」というセリフを残して犠牲になった男。

 ……それが記憶にある限りのアルクのことなのだが。


「……どう見てもこれ、転生ってやつだよな」


 違和感のある慣れ親しんだ自室。

 豪華なベットに腰掛けながらも装飾品がおかれた壁の高い部屋で、俺は鏡を見ながらひとり呟く。


「えぇ……なんで俺が?」


 夢かとも思ったが、気づいてから二日たってるし夢の中で寝るという奇妙な体験を二度繰り返した時点でその可能性を消えたも同然。

 なんでただの一般オタクが推しキャラになってるんだよと心底思いながらも、この先のことを考える。


「えっと、アルクの過去ってどんなのがあったっけ?」


 ゲームをやりこみ、彼のバックストーリーを見たことのある俺はそれを思い出しながらもノートに書きこんでいく。


「確かぁ……幼少期に家族全員を殺して、ラスボスに拾われて? そのまま育てられて……主人公と敵対……一騎打ちの末に武器を託して死亡」


 並べてみて思うのは過酷すぎないということだけ。

 簡単にまとめただけだが初っ端から重すぎるし、何より割と救いがない。

 え、これからその運命辿るの? と心底不安になってきたし、何より一般人メンタルでそれに耐えられる気はしない。


「そもそもアルクの家の自身が中立の暗殺一家だし、なん色々過酷なんだよなぁ」


 あの日の記憶を思い返すと俺の意識が目覚めるまでは拷問の勉強をさせられてたっぽいし……それまでの記憶も定着してる。

 ……というか、俺このままだと死ぬの確定してる感じだよなぁ。


 前世の自分がどうなったかなんてわからないけど、意識がある以上死にたくない。

 なにより……俺の魂がアルクを死なせるのを否定している。

 

「なら……どうするか?」


 アルクの人生の転換期、それは家族を殺したことで始まる。

 それにそれがなければ軽いイフとして主人公の仲間になってた未来が軽く公式から示唆されていたのを俺は覚えている。

 せっかくの大好きなゲームへの転生、それも推しキャラへのものだ。

 ならばこの世界を冒険し尽くしたいし、俺の推しが最強であることを証明したい。何より主人公のことも気になるし……ほかにもいろんなキャラに会ってみたい。


 そう思えば限りなく欲が湧いてくる。

 ……あぁそうだ。訳の分からない二度目の人生、どうせなら楽しもう。幸いというかなんというかアルクにできることは暗記済み。


 前世で憧れた暗殺者である彼を目指して少しでも頑張ってみようじゃないか。

 


 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神話世界の暗殺者~やりこんだゲームの悪役殺し屋一家に転生した俺が最凶最悪の英雄となるまで~ 鬼怒藍落 @tawasigurimu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ