第14話 神楽坂くるみと神楽更沙①

 俺の名前は神楽坂くるみ。

 最近、夜想豪高等学校に転校してきた美青年だ。

 転校の理由は、そう。この高校に、神楽更沙こと更沙がいると聞いたからだ!

 

 俺と更沙が初めて出会ったのは、小学生のころだ。

 更沙は小学生にして、とんでもないイケメンで、ハイスペックな人間だった。

 だけど、その理由を聞いてみても、毎回『僕はただの陰キャだよ』だけしか返ってくることはなかった。

 

 ――彼は一体何者なんだろうか。彼はどうしてそんなに自己評価が低いのか。

 

 俺は嬉しかった。俺は初めて自分以外の人に興味が持てたと嬉しかったんだ。

 幸いなことに、俺は更沙とすぐに仲良くなることが出来た。

 更沙は自分の他の友達からの誘いも断って、俺に話しかけてくれた。

 

 当時、俺は冴えない陰キャだった。

 前髪は目が隠れるくらいに長くて、口を開けば『あっ……えと……』しか話せない。俺は完全にクラスから孤立していたんだ。

 

 それでも、更沙は話しかけてくれた。

 

 だけどそれにつれて、あることを思ってしまった。

 更沙はクラス、いや学校中でモテているし、大人気だ。そんな彼と俺が一緒にいても良いのだろうか。そんなことを思ってしまった。

 

 それから俺は、更沙のことを避けてしまった。

 話しかけてくれたのに、俺は走って逃げてしまった。


 流石に悪いかなと思った。

 だから、謝ろうと教室に戻ったこともあった。

 でも、教室の中を見ると、他の友達と楽しそうに話す更沙が見えた。

 まるで俺がいなくてもいい存在かのように思えた。

 

 俺は学校に来るのが嫌になった。

 どんどん日を重ねるごとに、ネガティブになっていった。

 

 

 そんなある日、授業が終わって、俺はいつも通り逃げようとしたときだった。

 顔を上げたら、更沙が真剣な表情で俺の正面に立っていた。

 

 「(いつの間に……?)」

 

 俺だけじゃなく、クラスのみんながそう思っただろう。

 だって、まだ俺は席に立つ予備動作もしていなかったんだから。

 それに終わりの挨拶を言い終えた瞬間だった。

 

 俺は無視して、立ち上がろうとすると。

 更沙に前髪をぐいっと自然な流れで上に上げられた。

 

 「なっ、なに急に……」


 「お前、イケメンなのになんで顔隠してんだ?」


 更沙は真剣な表情でそう言った。

 その目は嘘をついているとは思わなかった。

 

 すると、後ろで見ていた女子達が俺の顔を見てきた。

 俺は恥ずかしくて、やめろ! と言おうとしたときだった。

 

 「えっ!? くるみ君めっちゃイケメンじゃん!?」


 クラスのリーダー的な立ち位置の女子がそう言った。

 それに連なるように、他の女子たちからも俺の顔を褒めるような言葉が投げられた。

 

 「なんで僕のこと避けてたのかは知らないけど、もっと自分に自信持てよ」


 更沙はそう言うと、『トイレ行こうぜ』と行って俺の手を取ってくれた。

 

 俺は心の底から嬉しかった。

 自分がまさかイケメンだったなんて! 思っても見なかったことだった。

 

 

 それから俺は前髪をバッサリ切って、髪型を気にするようになった。

 すると、クラスのみんなから二大イケメンなんて呼ばれるようになってしまった。

 更沙は別に気にしていない様子だったけど、俺はめちゃくちゃ誇りに思っていた。

 

 さらに更沙は俺のことを『くるみんは唯一無二の親友だ』と言ってくれた。

 

 俺はその場で泣いてしまったけど、それは絶対に嬉し涙だ。

 

 余談だけど、更沙は見た目はクールなイケメンだけど、話してみたら意外に面白くて冗談も言う。その証拠に俺のことを『くるみん』って呼んでくる。

 

 

 そして小学六年生のころ。

 好きな人が出来た。隣のクラスの西宮葵という女子だった。

 一目惚れだった。廊下ですれ違っただけだけど、完全に俺の心を射抜いた。

 

 このことを更沙に言うと、更沙は嬉しそうにこう言ってくれた。

 

 「お前が僕以外のことを人を好きになれて良かったよ」

 

 この言葉を聞いて、俺は告白しようと思った。



 告白した。

 俺はイケメンと言われたし、めちゃくちゃ自信があった。

 心臓バクバクの中、更沙に見守ってくれている中だった。

 

 「確かにかっこいいと思うよ? でもね……顔はイケメンでも陰キャなのは変わらないでしょ? 私明るい人が好きなの」


 振られた。

 そうだ。そうだった。

 顔はイケメンでも、性格を変えないとただキモい陰キャなのだ。

 間違えた。告白するタイミングを。

 

 俺は目の前が真っ白になって、唯一聞こえてきたのは更沙の『励ましてやるから立てよ……』だった。

 

 俺は自分の惨めさより、更沙にこんなことを言わせてしまったことが許せなかった。

 

 次の日、俺は学校でなぜかとてつもなく引かれたような視線で見られた。

 聞こえてくるのは『あの陰キャさぁ、あの高嶺の花に告って玉砕したらしいぞ』だった。どうやら二大イケメンと言われていたのは俺ではなく、更沙の他の友達のことだったらしい。

 

 それから俺は毎日いじられた。

 俺はそれが嫌で、更沙に何も言わず、引きこもった。

 

 親に心配され、学校は転校。

 更沙ともう二度と会うことはないと絶望していた。

 

 引きこもっている間に俺は更沙のことを思い返していた。

 そのとき、ある言葉が頭の中に浮かんだ。

 

 『もっと自分に自信持てよ』

 

 この一言で俺は救われた。

 

 もう一度更沙に会えたとき、恥ずかしくないように、陰キャだと言われないように、俺はを成功させるために努力を始めた。

 

 その結果、中学校ではモテにモテまくった。

 何度も女子に告白されたが、すべて断った。

 

 なぜならもう俺の目には神楽更沙しか映っていなかったから。

 いつしか、憧れを超えた恋心に変わっていた。

 

 

 高校に入学して少し経ったころ。

 俺はお母さんからあることを聞いた。

 

 『更沙くんがいる高校がわかった』と。

 

 俺はすぐにその高校について調べた。

 なんと偏差値は七十以上で、都内でトップクラスだそうだ。

 

 俺は死ぬ気で勉強を頑張った。

 そして母さんに頼んで、その高校に転校することができた。

 

 

 約三年ぶり。

 更沙のことは一番最初にわかった。

 見た目は大きくなったからか、最後に見たときよりかっこよくなっていて、

 面倒くさそうに頬杖をついていた。

 

 更沙は俺のことに気づいていなかった様子だった。

 だから頑張って話しかけてみた。

 

 すると、一度は『オレオレ詐欺は間に合ってますんで』と言われた。

 嬉しかった。あのころと変わらない面白さで。

 

 俺のことを教えてあげると、更沙は思い出したかのように笑顔になった。

 再会。

 幸せだった。これからまたあの頃のように更沙と学校生活ができるなんてと。

 

 「僕もくるみんが好きだよ!」


 更沙にそう言われた。

 俺は一気に体の体温が上がった気がした。

 俺は再確認した。

 

 「(やっぱり俺……更沙のこと好きだ……)」

 

 それなのに、なぜか更沙の周りには三人の女子がいた。

 更沙もその女子とは親しい距離感だった。

 

 だから俺は聞いてみたんだ。

 

 「あなた達、更沙とはどういった関係?」


 と。

 

 

 

 

 

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