第11話 ラブコメ展開警戒アラート
「更沙くんが普段、雛田ちゃんの服を選んでるの?」
「そうですよ。すべて兄さんが選んでくれてるんです」
「へぇ〜神楽ってセンス良いんだ」
ふと思った。
神崎さん、神楽は今この場に二人いるんだけど……。
せめて雛田のことは名前で呼んであげな。
「希さん……神楽呼びだと分かりにくいので、私のことは雛田って呼んでくれますか?」
「ん? あっ、そっか。わかった雛田って呼ぶわ」
雛田は僕の思考を盗聴しないでもらいたい。
随分と雛田は白雪さんや神崎さんと仲良さそうにしているな。
そのまま雛田のこと好きになって、僕から離れていってほしいな。
で、問題なのは葵の方だ。
雛田との話から戻ってきたとき以来、一言も喋らずに俯きながら歩いてる。
どうせ雛田になんか言われたんだろうなぁ。
ここは一つ、励ましてやるか。
「葵」
最後尾でトボトボと歩いている葵に声をかけてみた。
葵は一瞬ビクッとしてから、恐る恐るというように顔を上げた。
「なっ……なに?」
僕を見て、かなり怯えているな。
ほんと……雛田は何を言ったんだよ……。
「雛田に何を言われたかわからないけど、気にすんなよ」
「でっ……でも……」
「う〜ん……いつまでもそんな状態だったらなぁ……」
「私が悪い……の。普段のノリで更沙に近づいたから……」
そういうことか。
雛田に言われたこと、段々とわかってきたぞ。
「僕は普段のノリの方が好きだけど」
「ふぇ……?」
葵の足が止まって、急に顔を真っ赤にしてしまった。
多分僕の『好き』という言葉に反応したんだな。
「だから……気にせずいつものノリで来ていいよ雛田は関係ないし」
すると葵は俯きながら僕のそばまでやって来た。
関係ないけど、やっぱり葵って小さいよなぁ。
「言ったからね? 『そのノリやめろ』とか言っても聞かないからね!」
葵がぐいっと背伸びをして僕の頬を人差し指で突いてきた。
僕の頬よりも……葵が突き指していないかが心配なんだけど……。
「いつもの葵のほうが可愛いし、そんなことは言わないよ」
「……///」
また俯いて顔を真っ赤にしてしまった。
そろそろこんな茶番終わらしてもいいかな。ラブコメ展開警戒アラートがうるさいんだよ。
「ほら、行くぞ」
「うん!」
僕は別に手を差し伸べたつもりはないのに、葵は僕の手を握ってきた。
握手はお断りだぞ。
そのまま葵は白雪さん達の方に駆け出した。
もちろん手を繋いでいる僕はそれに転びそうになりながらもなんとかついていった。
「萌音! 何の話ししてるのー?」
後ろから白雪さんにバァン! と突撃した葵。
白雪さんが可哀想。
「わぁ!? びっくりしたぁ……こらもう葵ったら……」
「おぉーやるなぁ葵」
僕がその後ろを歩いていると、一瞬雛田がこちらを向いた。
雛田には、帰ったらお仕置きだな。
「そうだ! 更沙くん!」
「あっはい何でしょう」
「私達の服も選んでよ!」
「え?」
は?
◆
「ほらほら早くぅ〜」
どうしてこうなった……。
なぜ僕が三大美女の服を選ばないといけないんだぁ!
なんとか誤魔化して抜け出せんかな。
「遅いぞ神楽ぁー」
「早く歩いてよぉ更沙ぁ」
お前らが早いんだろ! 急に速歩きになりやがって!
「はぁ……」
疲れた……。
僕が歩くスピードを落とすと、最前線にいた白雪さんがこっちに走ってきた。
何だ何だ。また変なこと言うなよ?
「ほら、手出して」
「??」
「もう!」
僕が意味がわからずぽかーんとしていると、白雪さんがいきなり僕の腕を掴んだ。
「ちょっと!」
そのまま猛スピードで女性服のところへ走らされた。
神崎さんは『神楽って足も速いんだなぁ』とか感心してたけど。
なんやそれ。
「あんまり走って大丈夫なの? 髪型崩れるよ?」
「あ"っ!」
僕がそう言うと、白雪さんは走るのをやめた。
女子って前髪が命とかなんとかほざいてなかったっけ。
「萌音も馬鹿だなぁ〜」
「私達は髪型崩さないようにしてたのにw」
やっぱり白雪さんはド天然。
いや、ド天然というより馬鹿だな。
「どうせ服試着するんだからいいの! それで髪型なんて崩れるでしょ」
「自暴自棄になった」
さて、ここからは僕の問題だ。
問題点は一つ。女性服が売っている場所に、果たして男が入っても良いのだろうか。これで不審者なんて言われでもしたら最悪だぞ?
「早く入りますよ兄さん」
おい、ここで思考盗聴を発揮しろよ。
そういえば、まだ白雪さんに腕掴まれたまんまなんだけど。
そろそろ離してくんね?
「白雪さん」
「ん? 何ー?」
「早く腕離してください」
「あっ」
気づいてなかったのか。
僕が指摘すると、白雪さんはパッと離してくれた。
そのまま顔を真っ赤にして、神崎さんの後ろに隠れてしまったが……。
「ごっ……ごめんなさい……///」
なぜ謝るのか。
もしかして僕がラブコメ的存在のことを嫌いというのを察して!?
いやぁ〜やるではないか白雪さん。
「兄さん。あれは恥ずかしくてした行動ですよ」
「えっそうなの?」
腕を掴むくらい別に堂々とすればいいのに。
葵だってさっき耳真っ赤にしながら手繋いできたぞ。
「更沙ーこの服どう思うー?」
どこから持ってきたのか。
葵がゴスロリ服を二つ持って走ってきた。
そして僕はいつのまにか店内に入っていた。雛田め。
「葵……」
「葵ってそういう趣味あったんだな」
「えっ? 普通に可愛くない?」
どう反応すればいいかわからん。
これで僕が肯定したらゴスロリ服を着て街中を歩くのかこの人は。
どう反応しても炎上する気がする。
「葵……それはコスプレというのだぞ」
「コスプレ?」
「ん? コスプレと言うのはだな。漫画やアニメ、ゲームなどのキャラクターの衣装を――「それは知ってる!」
なんだよ。
「葵ってファッションないよね」
「う"っ……」
白雪さん辛辣〜……。
多分無自覚なんだろうけど、あまりにも攻撃性能が高すぎる。
「葵、ちょっと選んであげるから待ってな」
先に白雪さんや神崎さんの服を見なければ。
「うっ……うん」
「更沙くん! ワンピース! 白色と茶色、どっちが良い?」
”どっちが良い?” って何?
「僕は白色のワンピースの方が好きかな」
ここは正直に。
だって茶色のワンピースって……パピコやん。
「わかった! 買ってくるね!」
判断が速い。
僕が好きだからっていう理由で買って良いのか?
試着とかしないのかあの人……。
「なぁ神楽、スカートとスボン、どっちが良いと思う?」
だからなぜそうやって聞くのだ。
「いつも神崎さんはスカートを履いてるイメージがあるから、僕は気分転換にズボンの方が良いと思うけど」
個人の感想です。
「ほーん。わかった」
そう言うと神崎さんはレジの方へ走って行った。
もしかして神崎さんも天然……?
「お兄ちゃん」
「あっそうか雛田の服も選んであげるからな」
「そうだよ。で、これとこれどっちが良い?」
そう言って雛田が持ってきたのは、白色のトップスと黒色のトップスの二つ。
色しか違わないじゃん。どっちも買えばいいのに……。
「雛田は天使みたいに可愛いから白色の方が似合ってると思う」
「てっ……天使……?」
ラブコメ的存在ではなかったらいつも通りに褒めることができるんだが……。
「お兄ちゃんがそう言うなら……」
雛田はそう言って、白色の服ばっかりを持ってレジの方へ走って行った。
騒がしいやつだな。
「で、後は……」
「更沙ー」
「今度はコスプレ衣装みたいなものもってくるなよ」
反応に困るんだよ。
「持ってきてないよ! はい! これとこれ!」
葵はバッと黒色のショートパンツとデニムのショートパンツだった。
葵はスカートというよりこっちのほうが好きらしい。
今回はまともだったな。別にゴスロリ衣装がまともではないというわけではなく。
「葵は明るい雰囲気だからデニムの方がいいと僕は思う」
ちゃんと”僕は思う”って言ったからな!
「おぉ〜さっすが〜!」
何が流石なの?
僕は別にファッションセンスが良いとかでは無いんだけど。
「買ってきたよ〜更沙くんは買わないの?」
「僕の服は腐る程あるからな」
「神楽センスいいなぁ」
「これから更沙に選んでもらおうかな」
「流石です兄さん」
まずい。ラブコメ展開警戒アラートが鳴り止まなくなってきた。
そろそろ解散でもいいかな。僕もう限界。
「雛田ちゃん。これから暇?」
「はい。後は帰るだけですが……」
「なら昼飯一緒に食べようぜ」
わぁ……(泣)
「私は別に構いませんが……兄さんは……」
「更沙も良いー?」
「あっ……うん良いよ」
ここで断ったら気まずい空気になって、地獄になるからな。
まだ僕のラブコメ展開警戒アラートは鳴り止まない。
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