第6話 三大美女+僕

 「なんで僕まで……」


 現在、三大美女の御三方の後ろを歩いている。

 こうなったのも、すべてあの葵が元凶だ。

 なんで放課後デート? なんかやらないといけないんだ。

 

 それに……場違い感が凄い。

 僕イケメンじゃないし、普通の人、凡人なんだが。


 「いいじゃん別に。どうせ暇でしょ」


 ものすごい偏見。


 「葵、更沙くんは義妹さんのお世話で忙しいんだよ」


 「からかうなよ」


 いつぞやの適当な言い訳じゃないか。

 

 それにしても、三大美女の中で神埼さんが一番背が高いんだなぁ。

 神埼さん>白雪さん>葵の順らしい。

 葵は背 ”も” 小さいんだな。

 

 「更沙になにかものすごく失礼なこと思われた気がする」


 「きっ……気の所為じゃない?」


 バレたら半殺しどころじゃすまん。

 

 「それで葵、どこに向かってるんだ?」


 「私の家って言ったらどうする?」


 「引き返す」


 「嘘だよ笑 今はカラオケに向かってるんだよ」


 カラオケだと……?

 

 それはライトノベル作家誰しもが描くthe・ラブコメ展開の王道じゃないか!

 まんまと罠に引っかかっちまった!


 「僕……歌えないよ?」


 「大丈夫大丈夫、萌音も下手だから」


 「そ、だから大丈夫!」


 そんな自信満々にドヤ顔で振り向かなくても……。

 

 「ということは葵は上手なのか?」


 「私も上手だけど、希の方が上手だよ」


 葵は謙遜という言葉は知らないのか。

 そこは『私より希の方が上手だよ〜』っていうとこだろ。


 「神埼さんが一番上手なのかぁ……なんか意外」


 「悪かったな上手で」


 「いやっ!そういう意味ではなく!」


 そんなにギロッて睨まなくてもいいじゃん……。

 ラブコメ的存在は嫌いだけど、一度関わった人間に嫌われるのが一番嫌いなんだから。


 「っというか神埼さんはいいの?」


 「何が?」


 「本来なら三人で遊んでるんでしょ?」


 「そうだな」

 

 「なら……僕がいたら邪魔でしょ」


 「まぁた更沙はそんなこと言う!」


 葵がムスッとした顔で僕の方を見てきた。

 あっ可愛い――なんて思ってないんだからね!

 

 「別に邪魔じゃないけど」


 その理由が『存在感がないから』だったら泣く。

 

 「だって神楽、面白いし」


 芸人になったつもりはないんだが……。

 

 突然神埼さんが立ち止まって振り向いた。白雪さんと葵も少し遅れて立ち止まった。

 

 「神楽ってさぁ、私達のこと異性として見てないでしょ」


 「そうなの?!」


 ものすごく急なことを言うな神埼さん……。

 あと白雪さんはいちいち反応しなくていいんだよ。


 「どうして神楽は私ら見ても男子を見る目と変わらないの?」


 「異性とは見てるぞ?」


 「そういう意味じゃなくて、他の男子みたいに下心丸出しじゃないじゃん」


 ほうほう。

 つまり神埼さんはこう言いたいわけだな?

 『どうして三大美女と一緒にいるのに他の男子のように下心丸出しで緊張してないの?』と。

 

 それは簡単な話だ。

  

 「だって好きじゃないし」


 「それが理由?」


 「そうだよ、だって好きでもない人を見てもドキドキなんてしないでしょ」


 むしろ嫌いまであるが。

 

 「へぇ……そこだよ」

 

 「そことは?」


 「神楽が私達と友達感覚で接しているところ、そこが面白い」


 どこらへんが面白いのだろうか……。変わった感性の持ち主なんだなぁ神埼さんって。

 帰ったら義妹にどこが面白いのか聞いてみよ。


 「更沙くんって好きな人いたことある?」


 「……あるぞ一応」


 「あるんだ」

 

 小六になるまでだけどな。

 まぁ……好きだった人はもう近くにいるんだが……。


 「そうだよね〜、だって更沙の好きだった人って私だもんね」


 「えっ」


 だからいちいち反応しなくても良いんだよ白雪さん……。

 これに関しては神埼さんも驚いたのか、ものすごく僕のことを見ている。

 やめて? また姐さんって言うぞ。


 「過去形だからな」


 「なんで私のこと好きじゃなくなったんだろ」


 それ……今じゃないとだめかな。

 

 「あの……カラオケに行くんじゃないの?」


 めちゃくちゃ移動中に話してますけど。日が暮れたらどうするんだ。


 「そうだね行こっか」


 僕たちは止まっていた足を再び動かした。

 めちゃくちゃ通行の邪魔になっていたことに気づいたのは僕だけだった。



 

 

 ◆






 「着いたー! ここが私達の普段行ってるカラオケだよ!」


 カラオケに着くまで、みんなで白雪さんのことをイジったのは何故だろうか。

 あまりにも可哀想すぎる白雪さん。


 「過去一いじられたかも……」


 人気者だなぁ。


 「さ、早く歌おー!」


 めっちゃハイテンションな葵と疲れ果てている白雪さんとの温度差がすごい。

 

 とりあえずどっか適当なところに座るか。疲れたし。

 カラオケなんて家族としか行ったことないなぁ。ま、それはそれでラブコメ展開にはならないから楽だったけど。


 「隣失礼〜」


 「ん?」


 十人は入れそうな部屋に通されたのに、なぜ神埼さんは僕の隣へ?

 白雪さんは葵のとこにいるし、神埼さんもあそこ行けばいいのに。

 

 「神楽ー何頼む?」


 だからなぜ僕に?


 「……コーラで」


 「じゃあ私もコーラにしよ」


 うっラブコメ展開危険アラートが動き出しそうだ。

 

 「私もコーラね! 萌音は?」


 「私オレンジジュースで」


 統一性皆無だな。白雪さんよ。いや、ド天然白雪さんよ。

 ってかオレンジジュースとか白雪さん可愛いかよ。


 「ねぇ神埼さん」


 「何だ?」


 「なんで僕の隣に来たの?」


 「嫌だったか?」


 「いや……別に」


 質問を質問で返すんじゃあないよ。

 神埼さんって意外にいい匂いするんだなぁ。

 

 「神埼さんよ」


 「もぉ……なに?」


 「何のシャンプー使ってんの?」


 「「「ブッ!?」」」


 僕がそう聞いた瞬間、三人とも吹いた。

 ここで無駄な統一性ださなくても良いんだよ。


 「きゅっ……急になんだよ!」


 「いや、いい匂いするなぁって」


 もしかして匂い嗅がれるの嫌なタイプだったかな。

 でもそんな人がこんないい匂いするシャンプー使うかな?


 「……あとで送ってやるから」


 「……何を?」


 「あっ? そうか連絡先交換してないのか」


 「いや気づくでしょ」


 「まぁいいや、とりま連絡先交換しようぜ」


 「はいはい」


 何気に家族以外で初めてかもな連絡先交換したの。

 一応例の親友の連絡先も持ってるけど、あいつもう死んでるだろ。

 死んでなくても死んだものにしよう。


 「「あっ……」」

 

 何やら白雪さんと葵が言いたげだぞ?

 どうせろくでもないことだろう。


 「神楽もいい匂いするけどな」


 「なんか複雑な気持ち」


 神埼さんにシャンプー教えてもらったら義妹に教えてやろ。

 あいつ『お兄ちゃんが好きな匂いってなに?』とか聞いてきたからな。

 恐らく好きな人がいて男子の好きな匂いを知りたかったんだろ。

 

 「希……」


 「ん?」


 「抜け駆け……」


 「抜け駆け??」


 なんか言ってるけど、誰も歌わんのですか。

 

 

 

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