第5話 圧倒的ラブコメ的存在

 「えっ……なんで葵が神楽くんのこと名前で呼んでるの?」


 白雪さんがそう言い放った一言で、今まで騒がしかった教室が一瞬にして静まり返った。

 誰もが感じた共通のこと。そう、修羅場だ。

 

 僕のラブコメ展開危険アラートがガンガンと頭の中で鳴り響いている。

 『今すぐここから逃げ去れ』と。

 

 「言わなきゃいけない?」

 

 僕の後ろにいた葵が、いつの間にか白雪さんの目の前に移動していた。

 余裕のある、勝ち誇ったかのような顔をして。


 「あっ、当たり前でしょ?! 質問しているんだから!」

 

 「そう、、、」

 

 葵は顎に手を当てて、数秒『う〜ん』と考える素振りをしてから、もう一度白雪さんの目を見て口を開いた。

 

 「そうね……私と更沙は ”そういう” 関係ってことかな?」


 それを聞いた白雪さんの顔がみるみるうちに蒼白になっていく。

 白雪さんの横にいる神埼さんは口を開けてポカーンとしている。



 「でっ、でも付き合ってないんでしょ……!?」


 「ええ、付き合って "は” いないね」


 ”は” をわかりやすく強調して言い放つ葵。

 白雪さんは顔を真っ青にしながら、後ずさった。

 

 「どっ、どういうこと神楽くん……」


 やっぱりか。

 やっぱり僕のところにも話が振られるよな。

 

 「勝手に葵が言ってるだけだよ。気にしなくて良い」

 

 「あっ、葵って……!」


 ここは『西宮さん』っていうべきだったかな。

 いや、それを言ったら葵にまた変なことを言われるに違いない。

 

 「葵も……変に勘違いさせるようなことは言うな」


 「ごめんね? ちょっとからかってみたくて」

 

 顔の前でパンッと手を合わせて、いつぞやの白雪さんみたいにテヘペロ☆なんて言ってる。

 まぁ……これで誤解をされることはもうなくなっただろう。


 「もうっ! 葵のバカッ!」


 「えへへっ」


 ……もう早く席につきたい。

 気づいてるのかな……? あなた達めちゃくちゃ注目されてるんだよ? 僕も含めて。

 

 「さっ早く席に着こっか」


 気を取り直したのか、葵がみんなをまとめるように手を鳴らした。

 ふぅ……これでようやく僕の平穏が帰ってきた。

 

 「はぁ……なんで朝からこんな……」


 なんて不満を垂れていると、隣の席に着いた白雪さんが僕の方をトントンッと叩いた。

 何やら嫌な予感がする。


 「ねぇ……私のことも名前で呼んでよ」


 「えぇ……」


 「嫌なの?」


 「嫌ではないけど……なんで今?」


 もうすぐ先生来るし、ホームルーム始まるっていうのに。

 場所と時を弁えてほしいなこの人には。


 「私も神楽くんのこと名前で呼ぶから」


 「そういう問題じゃあ無いんだよなぁ」


 とか話してたら先生がやってきて、強制的に話は終了した。

 助かったぜ先生。

 

 

 ◆

 

 

 放課後。

 

 「じゃっ僕は帰るんで! さよなら白雪さん!」


 ラブコメ展開危険アラートがガンガン鳴っている。

 これは一目散に帰るが吉っ!!


 「ひょいっと」


 「うわっ」


 教室から出た瞬間、神埼さんに後ろから抱きしめられてそのまま教室に戻された。

 はぁ……二日連続で告白は逆に蛙化ですよ白雪さん。

 

 「まだ帰っちゃだめだよ神楽ぁ〜」

 

 「絞め殺そうとしてます? 姐さん」


 「誰が姐さんじゃ」

 

 「痛い痛い! 本当に死ぬ!」


 この人……ギャルじゃなくてもうヤクザだろ……。

 ちなみに神埼さんは身長176cmらしい。僕が170cmだから……そんなに変わらないね。変わらないよね。

 

 「あの……神楽くん……」


 「あっはい何でしょう」


 姐さん(神埼さん)と戯れていたら、目の前に白雪さんがやって来た。

 すっごく失礼だろうけど、僕は神埼さんと戯れている方が愉しいです。


 「私も名前で呼ぶね?」


 朝の疑問形では拒否られると思ったのか、今度は決定事項で来やがった。

 くっ……白雪さんめ。考えたな。


 「どっ……どうぞご自由に」


 これ以上拒否してたら白雪さんのメンタルが崩壊しそうだからな。

 あと未だにくっついている姐さんが恐い。


 「良かったぁ! よろしくね更沙くん!」


 僕から許しをもらうと、今まで自信無さ下だった白雪さんの顔が急にパァッと明るくなった。不覚にも思ってしまった。可愛いと。


 「……うん、で、いい加減離してくれないか姐s神埼さん」


 「なぁ……神楽さぁ」


 えっもしかして意外に『姐さん』って言われたことに対して怒ってる!?

 今度の今度こそ死んだかも。


 「なんか女慣れしてね? 彼女でもいるん?」


 「えっ……」


 なんてことを聞くんだ神埼さんよ。ほら見ろ白雪さんの顔がまた暗い顔になってしまった。


 「更沙くん……彼女さん……いるの?」


 「僕なんかにいるわけないだろ陰キャなんだから」


 「でもウチらと話しても平然としてるじゃん」


 これはあれだろうな。

 三大美女と話しているんだから、多少なりともドギマギはしろということだろうな。

 

 「そうだね……君たちとはなぜか緊張しないんだよ」


 「男友達と同じ感覚ってこと?」


 「僕に男友達はいないよ」


 「えっお前友達いないの? もたいなぁ〜面白いのに」


 「えっ神埼さん達って僕の友達じゃなかったの?」


 嘘……勝手に友達だと思ってた。

 これはあれか? 陰キャ特有の勘違いっていうやつか?


 「えっ……あっ……そうだな、友達だな」


 「良かった」


 どうやら勘違いではなかったようだ。

 これで勘違いだったら死んでてところだ。


 「さてと、用事も終わったし僕は帰るよ」


 「ねぇ、更沙っ」


 「わぁ!?」


 急に葵が目の前に出てきた……心臓飛び出るかと思った。

 今までどこにいたんだこの人。


 「みんなで放課後デート、しよっか」


 「えぇ……」


 なんでそんな事するの。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る