第4話 美女を振った翌日

 朝か……。

 いつもならスッキリと起き上がれるのに、今日は一生このまま寝ていたい。

 その理由はもうあれしかない。昨日、三大美女の一人である白雪さんを振った。

 

 「腹いせとして良からぬ噂を流してなければいいけど……」

 

 これまで話していた感じから、そんなことをするような人ではないと知っている。

 だけど……


 「神埼さんがやるかもしれないなぁ」

 

 三大美女唯一のギャル神埼希。

 彼女と話したのは、昨日が初めてであまり彼女の人間性はわからない。

 

 「あ〜……憂鬱だ……」

 

 なんて考えていたら、突然バンッと部屋のドアが開いた。

 鍵……締め忘れたのか?

 

 「お兄ちゃん! 朝だよ!! 起きよう!」

 

 神楽家で一番活発な義妹が入ってきた。

 

 「不法侵入だぞ雛田」

 

 我が義妹の名は神楽雛田 (15) 。

 普通に可愛いし、普通にいい奴。容姿淡麗で頭脳は……。

 

 「お兄ちゃんのためなら犯罪も厭わない」

 

 「そうか……じゃあ今度銀行強盗しに行こうか」


 「わかった!!」


 「わからないでくれ」


 我が義妹は見ての通り、超絶ブラコン(自称)だ。

 中三と高一というのに、未だに一緒にお風呂に入ってくるような変態である。

 

 「そんなことはおいといて……お兄ちゃん早く起きて」


 「なんでそんなに急かすんだ……」

 

 「早くお兄ちゃん成分を接種したいんだよ」

 

 ……どこで育て方を間違えたのやら(泣)

 お兄ちゃんはそんな娘に育てた覚えはないぞ?


 「今日は学校行きたくないからもう寝る」

 

 「皆勤賞取るんでしょ! 早く起きて!」

 

 「やめろ! 布団を剥がすな!」

 

 絶対にこの砦からは出ないからなっ!!

 ふっふっふっ……義妹よ、お兄ちゃんに力で勝てるかな?

 

 「早く起きないと私ラブコメ的存在になるよ」

 

 「うーん! いい朝だ」

 

 僕がラブコメ的存在とラブコメ展開が嫌いということは家族には伝えてある。

 そのときに母さんから『義妹って……ラブコメあるあるじゃない?』って言われたけど、『別に義妹でもイチャイチャしなかったらラブコメじゃないもんね』って

 言ってやった。まぁ今はこの様だけど。

 

 「あとお兄ちゃん、家の外に人が待ってるよ」

 

 「それを真っ先に伝えなければならないことだろうが」

 

 「だってぇ……w」

 

 なにわろてんねん。

 

 「待たせるわけには行かないからな、さっさと準備しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ行ってきます」

 

 朝ご飯を急いでかきこんで、髪を整えるのに十分。

 適当に鞄に詰めて、いざ学校へ!

 

 「あっ更沙くん」


 なんということでしょう。

 家の前で待っている人とは、あの三大美女が一人、西宮だったではありませんか。

 うっ……ラブコメ展開な予感。

 

 「お……おはよう西宮……」

 

 「うん、おはよう更沙くん」

 

 「なんで西宮がここに……?」


 「一緒に登校しようと思って」

 

 ちなみに西宮とは家が隣同士である。

 別に幼馴染ではない、中学は西宮が女子中に行ったからな。

 昔は西宮のこと葵って呼んでたけど、なんか西宮が三大美女って言われだしてから

 名前呼びするのが億劫になってたんだよな。

 

 「お友達の白雪さん達は……?」


 「先に行かせたよ、だから私達も早く行こう?」 


 くっ……策士め。

 

 「しょうがないな……」

 

 とりあえず登校しないといけないので、仕方なくだ。

 それよりものすごくこれからラブコメ展開が待っている気がする。

 どっかコンビニに寄るって言って逃げ出せないかな。

 

 そんなことを考えながら、僕は学校の方向へ歩き出した。

 その隣に西宮がついてくるように。

 別に僕はコミュ障ではない、陰キャなだけで。

 

 「? 手、繋がないの?」

 

 「はい?」


 「男女が一緒に歩くときは、手を繋いで歩くんだよ?」

 

 「初耳なんですけど」

 

 どこで覚えたんだそんなこと。

 一緒に登校するために手を繋ぐって……もうカップルじゃねぇーか!

 僕は別に普通の人とならいいけど、相手が三大美女の一人なら話は別だ。

 

 「ほら、早く繋ご」

 

 「いや……さすがに……」

 

 「私の手……汚かった?」 

 

 「いやいや! そんなことはないけど……」 


 「じゃっ繋ごっ?」 

 

 ニコッと笑う西宮。陽キャオーラではないまた別のなにかが溢れている気がする。

 これは断ったら……あんなことやこんなことをされそうだな……。

 

 「は……はい」

 

 渋々、手を差し出すとギュッと手を繋いできた。

 しかも恋人繋ぎで。ん? 恋人繋ぎ?

 

 「あの……」

 

 「どうしたの?」


 「なんで……恋人繋ぎなんすか」

 

 恐る恐る横目でチラッと西宮のことを見てみると、わかりやすく俯いている。

 なにか気に触ること言ったかな……。僕今度こそ殺される?

 

 「恋人同士でするものだと思ったの? この繋ぎ方」


 「えっ違うの?」 

 

 「へぇ〜更沙くんは恋人だって意識してくれたんだぁ」

 

 何かとんでもない誤解をされてしまった気がする。

 

 「まぁ……西宮がこれでいいならいいけど」

 

 「……」

 

 えぇ……なんで黙るん……。

 えっ嫌だったの? あの反応で? 嘘でしょ?w

 

 「なんで西宮って呼ぶの?」

 

 「えっ」


 どうやら気になってたらしい。

 まぁ確かにね……西宮って馴れ馴れしいか……

 

 「ごめんね西宮さ――「葵って呼んでよ!」

 

 「ん?」

 

 おっと……人の話は最後まで聞けって習わなかったのかな?

 それよりもなんかすごいこと言ってたよね。

 

 「だから! 葵って呼んでよ!」

 

 わぁ……一気にラブコメ的存在になってしまう。

 くっ……だがここで呼ばなければ……刺されて死ぬ未来が見える!

 

 「絶対呼ばなきゃだめ?」

 

 「うん、呼ばないと刺す」 

 

 刺すって言った?


 「じゃあ……葵……」

 

 言っちゃった……。

 うぅ……これで僕もラブコメ的存在か……。

 いや待てよ……。まだ西宮が僕のこと呼び捨てにしてない! ということは……

 まだラブコメ的存在ではないということ!!

 

 「うん! 更沙!」

 

 かっ………。

 

 「じゃあ行こっか」

 

 そのままニッコニコでスキップでもしてるかのように西m……葵が歩いていった。

 その後ろを放心状態の僕がトボトボとついて行った。

 








 「おおおおはよぉ! 神楽くん!」

 

 学校に着いて、教室に入ると一目散に僕のところに走ってきた白雪さん。

 葵は学校に付く前に手を離して、どこかへ行ってしまった。

 そんなことより白雪さんよ、なぜ君は平然? としていられるんだい?

 多少は気まずいだろうに。


 「あー……うん、おはよう白雪さん」

 

 「おっ来た来た、神楽おはよー」

 

 白雪さんの後ろから、神埼さんがひょっこり出てきた。

 なぜ神埼さんも僕に挨拶を??

 

 「おはよ……神埼さん」

 

 早く席に着かせてもらっていいかな……。

 男子共からの視線が痛いせいでラブコメ的存在になりつつあるから勘弁して。

 

 「神楽くんあのn――「おはよっ更沙!」

 

 白雪さんがなにか言おうとしたのを遮るように、僕の後ろから葵がやってきた。

 どこへ行ってたんだこの人。

 

 「えっ……なんで葵が神楽くんのこと名前で呼んでるの?」

 

 修羅場の予感……。

 

 

 

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