第3話 ラブコメ展開は嫌いです
――私と付き合ってくださいっ!!
とんでもない爆弾を投下されてしまった。
教室内に静寂が訪れ、後ろにいる二人は静かに僕の返事を待っているのだろう。
白雪さんは顔を真っ赤にしながら頭を下げている。
これは僕の大嫌いなラブコメ展開そのものだ。
本当に後悔している。早く帰ってればと。
「……ごめん僕は君と付き合えない」
まぁこれが最善だろう。
多少、白雪さんとは気まずくなるだろうが、すぐに慣れる。
このまま告白を受け入れてしまったら、両想いだったということになる。
そしたら色々と面倒くさいのだ。そういう人を何回も見てきた。
断れない告白の仕方をされて、仕方なく受け入れて付き合いだしても
好きじゃないから誕生日も記念日も覚えていなくて、どうせ別れる。
好きじゃないなら告白を断って振るべきだ。
これがお互いの平穏のためだろうから。
「……なんで?」
「えっ?」
「なんで……付き合えないの?」
理由を聞いてくるパターンか。
付き合えない理由はさっきの通り。だがそれを白雪さんに言うのであれば
もっと違う理由を述べなくては、多分僕は後ろの人に絞め殺される。
白雪さんが傷つかず、すぐに納得してもらえる理由……。
『ラブコメ的存在は嫌いだから』なんて言っても他の人には通用しない。
やはり正直に言うべきか、それとも『彼女がいるから』と嘘をつくべきか。
だけどその彼女の名前と写真を見せてと言われたら?
その時点で僕の死は確定する。
義妹の写真を使うか? いやこれは後々面倒なことになる。
「えっと……」
「理由がないのに萌音のこと振ったのか?」
やばい。そろそろ理由を言わないと死ぬ。
冷静になれ、考えろ! この場の全員が納得し、白雪さんが傷つかない理由を!
君に魅力がないから? これはだめだ。白雪さんのモチベーションを損ねる。
じゃあ無難に『好きな人がいるから』でいいのでは?
いや、これでは白雪さん達と気まずくなるだけだ。
あぁ……今こそ時を止める能力が欲しい。
「私……魅力無かった……?」
やばいやばい。
段々と白雪さんの顔が曇っていく。
……正直に話すか。
だって白雪さんには嘘が通じないんだもの。
嘘をついてもすぐバレて羽交い締めにされるだけだ。
「えっと……白雪さんは十分魅力的だよ」
「じゃあ……なんで……」
「僕は……どうやらまだ君のことが好きじゃないみたいだ」
僕がそう言い終えたとき、白雪さんは顔を両手で覆ってしゃがみこんだ。
後ろから神埼さんと西宮が白雪さんを囲うようにしてしゃがんだ。
「これが付き合えない理由だよ、じゃあね」
神埼さんがなにか言おうとしていたが、僕はそれを見て見ぬふりして
教室を出ていった。
余談だが、僕が女子を振ったのは今日で”二回目”だ。
一回目の告白もラブコメ展開だった。
当時僕にはその告白してきた相手に嫌な感情を持っていた。だから断った。
僕は特別モテるわけではない。せっかくなんだから付き合えばいいのにと
親友に言われたが、僕は親友のことを思って理由を言わないことにした。
ましてやメンタルがボロボロの親友に言えるわけ無いだろう。
一方その頃、教室では。
「萌音、大丈夫か?」
「萌音……」
先ほど私、白雪萌音は人生で初めての告白で、初めて振られた。
結構自信あったんだけどな……。
だって容姿淡麗だし、前々から神楽くんに話しかけていたし。
こんな美少女が話しかけていたんだから、それなりには意識してもらっていると
思ってたんだけど……。
「萌音、まだチャンスあるよ」
「……えっ?」
「だって更沙くん『”まだ”君のことが好きじゃない』って言ってたじゃん」
あっそうだ。そうなんだ。
きっと神楽くんは私にまだ諦めてほしくなかったんだ。
じゃあ……まだ告白できるってことだよね。
「決めた」
「えっ? どうした急に立ち上がって……」
「私、神楽くんを堕とす」
希は目を丸くして、葵はなぜか笑みを浮かべていた。
「そうだね萌音、それでこそ私の親友だ」
「今気づいたけど、なんで葵は神楽くんのこと『更沙くん』って呼んでるの?」
なんで神楽くんとは接触ないはずの葵が……?
まさか神楽くんの言っていた幼馴染って……
「私は更沙くんの幼馴染じゃないよ、小学校が一緒だっただけ」
「そっそうなんだ」
「あと……家が隣同士っていうとこかな」
堕とすと決めた早々にライバル出現?
葵が神楽くんのこと……嘘でしょ。だって今までそんな素振り見せなかったし。
私の告白にも協力してくれたのに……。
「萌音には知ってほしかったんだよ」
「なにを……?」
「更沙くんに振られる気持ちを」
「えっ?……葵っ……告白したの?」
葵が私の顔を見て不敵な笑みを浮かべた。
そのとき私は確信した。
私のライバルは親友の西宮葵、彼女だ。
希は……まぁ違うでしょ。
「私に勝てると良いね……萌音?」
「勝てるに決まってるでしょ……この貧乳」
「……」
あっ地雷踏んだかも。
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