第一章 ラブコメ的存在

第1話 ラブコメ的存在

 突然だが、僕はラブコメ的存在が大嫌いだ。

 朝起こしてくれる幼馴染や、陰キャだけど実はめっさ強いとかいう者達を

 僕は”ラブコメ的存在”と呼ぶ。

 

 僕の通う高校、夜想豪高等学校には三大美女と呼ばれる者共がいる。

 彼女たちは紛うことなき、ラブコメ的存在代表だ。

 だから僕は接触する前から彼女たちを嫌いな人リストに入れてある。

 まぁ一応だが、その三大美女を紹介しようか。

 

 一人目:白雪萌音

 二人目:神埼希

 三人目:西宮葵

 

 三人目の西宮葵はかつての親友を振った張本人である。

 悪いが名前くらいしか知らない。いや、知るべきではない。

 興味のない人にこれ以上近寄るべきではないからだ。

 それに彼女達に近づいて、良からぬ噂を流されでもしたら僕は一気に

 ラブコメ的存在となってしまう。

 それだけはなんとしてでも避けたい。避けぬばならぬ。

 

 とかなんとか脳内で語っているが、今は一時間目の途中だ。

 そろそろ意識を現実に戻そうかな。


 「ふぅ……」

 

 「どうしたの? そんなため息ついて」


 今話しかけてきたのは、三大美女が一人白雪萌音だ。

 彼女とは隣の席で、事あるごとに話しかけてくる。

 

 「あれ? 聞こえてない?」


 「・・・・・・・」

 

 「おーい」


 今日は粘り強いな。

 いつもだったらここらで引いてくれるのだが……

 

 「聞こえてるよね? だって隣の席だよ? あっもしかして難聴?」


 良からぬ誤解を生まないでもらいたい。

 これ以上無視するのはキツイか? 仕方ないな……

 不本意だが、僕は彼女に話しかけることにした。してしまった。


 「なに? 白雪さん」

 

 「あっよかったぁ〜無視されてるのかと思ったよぉ〜」


 実際してたんだが……。

 

 「で、なんでため息なんかついてたの?」

 

 「授業中に話しかけてくる隣の席の人について考えてた」

 

 「授業中に話しかける人なんかいないでしょ」


 「・・・・・・」

 

 これは……どっちだ? ツッコめばいいのか?

 めっちゃニコニコしてるし……

 

 「白雪さん」

 

 「なぁに?」


 「……前向こっか」


 周りを見渡せば、クラスメイトの視線がこちらに集中していた。

 僕は比較的小声で話していたから、急に白雪さんが話しだしたと思っているらしい。この人音量調整できないのかな?

 

 「あっ」


 白雪さんはテヘペロ☆なんて言って誤魔化している。

 もういいかな……話しかけてこないでね。

 これ以上話していたら、男子から向けられる視線のせいでラブコメ的存在に成り下がってしまう。最悪。

 

 「ねぇ神楽くん」

 

 この人は……

 さっきよりかは声を小さくしたみたいだが、それが原因ではない。

 僕は君と話したくないのだけれども。

 

 「今日の放課後空いてる?」

 

 「空いてないです」


 この流れはまずい。非常にまずい。

 放課後に告白でもされてしまったら一気にラブコメ的存在になってしまう!!!

 ここは何が何でも断るのじゃっ!


 「嘘つかないでよ、今日はバイトないでしょ」


 なんで知ってるんスか。

 シフトの日変えさせてもらおう。

 僕の中で白雪さんの好感度がマイナスになった。

 

 「今日は……妹のお世話をしなくちゃいけないので」


 「えっ妹いたの?」


 「はいいますよ、義妹ですけど」


 義妹がいる時点でラブコメ的存在だろって?

 馬鹿言うな。義妹というのは名前だけだ。実際にはただの他人。

 つまり白雪さんと対応は変わらないのである。

 義妹はラブコメ的存在だけど僕は違う。一緒にするんじゃない。

 

 「義妹って……結婚できたよね」


 「結婚? するわけないじゃないですか」


 なんでラブコメ的存在と結婚なんかしなくてはならないのだ。

 僕が結婚したいのは普通の女の人。言うなれば平凡な人だ。

 生まれながらにして人生勝ち組みたいな人とは結婚したくないのだよ。

 

 「よかったぁ〜なんか安心」


 なんであなたが安心するの。

 ラブコメならここで主人公が『えっもしかして◯◯さん俺のこと……』とか思うのだろうが、僕は決してそんなことは思わないぞ。

 あと現実的に考えて、すぐそんな思考になるなんてチョロすぎるだろ。

 

 「ですので、今日の放課後は空いておりません」


 「そっかぁ……ん?なんで神楽くんが義妹さんのお世話するの?」


 変なところで勘付くなよ。これだから勘の良いガキは……。

 

 「特別な事情があるのです」


 「ふーん」


 あっやっと興味を失くしてくれたか。

 なんでこの人は僕なんかに話しかけてくるんだ。授業中に。

 せめて休み時間に頼む。いや、むしろ話しかけてこないでくれ。

 

 「いつ空いてる?」


 「ん?」


 「だから、いつだったら空いてるの? 放課後」


 逃がしてくれないパターンか。

 

 ん? これラブコメ展開じゃん!

 ならぬ! あってはならぬ! 今すぐ拒絶せねば!

 

 「今日以外ずっとバイト――「明日も休みでしょ?」

 

 そうだった。この人なぜか僕のシフトの日覚えてるんだった。

 これストーカー被害で訴えたら勝つだろ。

 バイトが使えないし、義妹での言い訳もちょっと……だしなぁ。

 どうしたものか。

 あっそうだ!

 

 「明日はですね……デートの約束があるんで!」


 「うそっ……」


 こんな陰キャからデートという単語が出てくるとは思わなかったろうに。

 呆気に取られてやんの。

 

 「そういうことなのd――「誰?」


 「誰とは?」


 「その相手の女の人!」


 言うわけ無いやろがい。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る