第20話 祝杯、そして無常
俺たちはまず閉まる前に八百屋に行き紙袋いっぱいに果物を買った。もちろんこれはシンのためだ。
「ねえ、何食べる?」
八百屋を出たところでリアがつぶらな瞳でこっちを見てくる。お腹が空いているのかいつもより目力が1.5倍増しな気がする。
「それなら、、一つだけ気になるものがあるんだが」
俺が恐る恐るリアにそう鎌をかけると
「もしかしてやっぱりあれかしら?」
リアが少年っぽい笑みを携えて返してくる。
「ああ、あれだ」
俺も思わず少年心で笑みを浮かべる。
「「特選グルメ盛り」」
俺たちは息ピッタリでハモり、お互いに見合わせて笑ってしまう。やっぱりあれが気になったのは俺だけじゃなくリアも同じだったようだ。さてはリアも良い感じに少年心を持っているな。
それから俺たちはさっきよりも少し速足で例のフィッシュアンドチップスの店へと向かう。
「ここね、、」
リアはもう今か今かと店のドアを開けようとする。
「あ、リア。ちょっと先に入っててくれないか。すぐに行くから」
実は俺には八百屋の他にもう一つ閉まる前に行かないと行けない店がある。
「あら、そうなの?分かったわ」
良かった、空腹のあまりリアはさほど気にしていないようだ。リアが店内へと入っていくと俺はその店へと走って向かった。
「お待たせしました!特選グルメ盛りになります!」
「「おお~~~~~~~!」」
店員が豪華な揚げ物がたくさん乗った皿を2つ持ってくる。もちろん白身魚のフライがあるのは言うまでもないが他にもカツに大きなエビ、それにこれは、、カキに似たなにかの貝のようなものが揚げてある。なんと贅沢なのだろう。横には付け合わせの大量の野菜とタルタルソースのようなものまで乗っている。それから付け合わせのご飯とスープが届く。それから最後には、、ビールだ。
ゴクリ、、どうやらこの世界では15歳からお酒が飲めるらしい。リアが平然とビール2つをコールしたときは驚いたものだ。
「それじゃあ、、」
「「かんぱ~~~い!」」
俺とリアはグラスを合わせるとゴクゴクと渇いた喉にビールを流し込む。
うっ!なんだこれ!にがっ!大人があまりにうまそうに飲んでるから大いに期待したがどうにも俺にはまだこれのうまさは分からなかったようだ。
一方目の前のお姫様はプハーー!とか言ってる。おっさんか。
まあ良い、、メインはやっぱりこれだ、まずは味を思い出すべく白身フライを口に運ぶ。
これこれ!まさに求めていた味だ、やはり揚げ物はいつだって期待を裏切らない。リアも白身フライからがっつきしきりにビールを口に運んではプハーだのこれこれ!だの言っている。
ん?たしかに揚げ物を食べるとビールが少しおいしく感じるな。なるほど、少しだけ楽しみ方が分かった気がする。
それからはあっという間だった。揚げ物を口に運んではビールで口の中の脂を浄化しまた揚げ物を口に運ぶ、その繰り返しだった。俺たちは最後に残りのビールを飲み干してもう一度プハーと唱える。俺は初めての飲酒ということでベロベロに酔ってしまうことを心配したが少しふわふわして気持ちが良い感じはするくらいで大丈夫そうだ。
「は~~~美味しかった」
正面では空っぽになった皿を前にリアは満足そうにお腹をさすっている。リアの方はちょっと頬が赤い気がするがやはりベロベロになっている感じではない。
それにしても、、リアってどれだけ食えるんだ?今のグルメ盛りだって普通の男子の俺がけっこうお腹いっぱいになる量だったぞ。思い返してみれば今までもずっと俺と同じ量を平気で平らげてたような、、。
「よし、じゃあそろそろ行くか。シンも待ってるだろうしな」
そう言って会計へと向かうと店主の奥さんが小声で話しかけてくる。
「あんた、キョースケさんだろ。お代は良いよ。優勝祝いってことで」
「え?」
どうやらばれていたようだ。ちゃんとフードはしてたのに。ちょっとはしゃぎすぎたかな、、。
「お気遣いありがとうございます」
これはもちろんお代についてもだが、周りのお客が気付かれないように配慮してくれたことも含めての感謝だ。
「ああ、また来てくれよ」
奥からは店主らしきおじさんがにこにこ顔でこちらに力こぶポーズを取って合図してくる。ここまでさえれては断るのも何となくあれだろう。今後も通って売上でお礼することにしよう。
「はい!もちろんです!俺たちここの料理が一番のお気に入りですから、今日来たのもそういうことです」
「そうかい!ありがとう」
おばさんは一度驚くとどびきりの笑顔で頭を下げた。俺たちももう一度お礼を言って店を後にした。
ビールで火照った体を夜風に当てながら歩くのは格別だった。その特別感を楽しみながら歩くと宿屋まではあっという間だった。その頃には良い感じに酔いも覚めちょっとだけ名残惜しい気持ちになっていた。
それから俺たちは直接宿屋の馬小屋に行きシンの元へと向かった。他の宿泊者は馬を連れていないのだろう、馬小屋にはシンだけである。馬小屋には月明かりが差し込み、シンを煌々と照らしている。
俺が来ると何かを悟ったのか嬉しそうに尻尾を振りながら寄って来る。
「シン、よく頑張ったな。ご馳走買ってきたよ」
俺はシンの頭を撫でで紙袋の中身を見せる。シンには大分我慢させちゃったからな、これでも申し訳ないくらいだ。
「じゃあ私たちも一緒に食べましょうか」
「え?」
思わずリアの方を見るともう既に手にリンゴを持っている。なんてお姫様だ、、。まあ食後のデザートに1個くらい俺たちも良いだろう。そう自分に言い聞かせて俺も中から梨を取り出す。それからシンの前に大量のフルーツを並べる。
「じゃあ」
「「いただきまーーす」」
「ガフッガフッ」
それに合わせてシンがフルーツにがっつき始める。やっぱり腹は満ちてると言っても美味しい物を毎日与えてやろう。お金も入ったことだし。
「キョースケ、明日おそらく騎馬隊に勧誘されるわよ」
リアが月を見上げながら切り出してくる。月に照らされる顔はとても美しいがどこか儚げだ。
「え?そうなのか、、?」
「ええ、間違いないわ。去年の優勝者もそうだったらしいし、何ならデイヴィットも去年勧誘されたそうよ。まあ彼はこの大会で勝ってから騎馬隊に入りたいからって断ったらしいけど」
リアが口元に手を当てて微笑む。
「なんか彼らしいな」
「それにね、テラルド王は意味もなく人と会ったりしないの。あの人は優しいけれど凄く合理的なの。だから呼ばれたってことはそういうことなのよ」
「そうなのか、、」
俺は誘われたとしてその誘いを受けるべきなのだろうか、、。たしかに騎馬隊に入れば生活も安定するだろうしシンと一緒に活躍できるだろう。でも、、
俺はリアの方をちらっと見るが彼女も考え事をしているのかうつむいている。
「それで、、明日どうテラルド王に話すかは決めてるのか」
俺は心の中を隠すように梨にかじりついて問いかける。
「ええ、とにかくまずは起こったことを正直に話そうと思うわ。それから私、、魔術隊に志願しようと思うの」
「魔術隊!?でも、、どうするんだ?いくら何でもばれるだろ?」
「私もね、そう思ったんだけど今日のアミレア様の魔法を見たでしょ?髪型は変えるにしてもあの魔法で髪と瞳の色を変えれば大丈夫だと思うの」
「なるほど、、たしかにあれなら普通はばれないな」
「そうね、、それにアミレア様のあの魔法、、悔しいことに一切の魔力の流れを感じなかったのよ。あそこまで極めれば熟達した魔法隊の人たちにもばれないと思うの。必ずあそこまで極めて見せるわ」
「そうか、、魔術隊か、、」
「ええ、それにあそこに入ればカラムに近づける気がするの。おそらく近い将来この国と革命国は必ず敵対関係になるわ。その時に私は必ずこの手であの国を取り戻したいのよ」
リアの瞳には一切の揺るぎもない。彼女にとってそれは絶対の目的なのだろう。
「それに、、そんな危険なことにあなたをこれ以上巻き込めないわ」
前から薄々は気付いていた。王に会うことになればどんな形であれ俺たちは離れ離れになると。同じ王国軍にいれる可能性があるだけで良いのかもしれない。
もうこんな日常も終わりか、、。他愛もないことで笑って、安いジャンクフードをがっついて、たまに怒られて。たった一週間だったけど俺にとってはそれがこの世界の全てなのだ。
「そんな顔しないでよ」
リアが天使のような微笑みを浮かべながら覗き込んでくる。月明かりに照らされて際立つ透き通るように白い肌は今にも消えてしまいそうな儚さを感じさせる。
俺、そんなにひどい顔してただろうか。
「私ね、キョースケを信じて良かった」
俺は一瞬リアの方を見るがすぐに目をそらして俯く。
「あの森で出会った時ね、あなたの目を見て思ったの。この人に付いて行けばどうにかなるかもって。それはすぐに確信に変わったわ」
「俺の目、、?」
「ええ、キョースケはね、とても良い目をしているの。自信に満ちていてそれでいて優しくて謙虚な、、何というか努力家の目よ」
そうかな、、。
俺は少しそれが不思議でリアの方を見る。
リアは一度俺の方に微笑んでから月を見上げる。
「私にはすぐに分かった。この人は自分が積み上げてきたものに自信と誇りを持っているんだって。この人はたくさん努力をしてきてたくさん敗北もしてきてその度に自分と真摯に向き合ってそして強くなってきた人なんだって。だから人の痛みが良く分かるし、本当の人の強さも知っている。この人になら自分の、、国の命運を預けても良いとそう思ったわ」
夜風のせいか少し冷え込んでいた体に、、いや、心に熱が伝わっていくのを感じる。
「まあ、勝手な話よね。勝手に頼って勝手に信じてたなんて。ごめんなさいね」
リアがこっちを見てたははと笑う。
違う、違うんだ。俺に自信を取り戻させてくれたのはリアなんだ。俺の努力も過去も全てを今に繋げてくれたのはリアなんだ。助けられていたのは、、俺の方なんだ。何も分からない、何も頼れないこの世界で俺はリアに出会わなかったら、、。
「こっちの方こそ、、」
リアの方を見てお礼を言おうとすると思わず言葉が途切れてしまう。月を見上げるリアの目尻の雫が強く月明かりを反射している。その姿はまるで天使そのものだった。
しかし次の瞬間、リアはいつも通りの笑顔ではにかんで見せてこっちを見る。
「まあ今生の別れってわけじゃないんだし!城ではいつでも会えるだろうし何なら任務だって一緒になるかもしれないし!」
気丈に振る舞うリアを見ているとこっちも少しだけ笑顔になる。
「そうだな。その時はまた頼むよ」
「それにキョースケには返さなきゃいけない恩が山ほど溜まってるんだから。勝手にいなくなったりしないでよ」
「ああ、分かったよ」
俺はしっかりとリアの目を見てそう答えた。リアが辛いことを乗り越えて前に進もうとしているんだ、俺ばっかくよくよしているわけにもいかないだろう。
「あ、それと、、リアには渡すものがあるんだ」
「渡すもの、、?何?」
俺はポケットの中からそれを取り出してリアに差し出す。
「あ!これ!良いの?」
そう、リアがあの時雑貨店の店頭で欲しそうに眺めていたルビー色の石のネックレスだ。
「ああ、お金もいっぱい入ってきたしこれくらいは良いと思ってな」
「ありがとう」
リアは俺の手から慎重にネックレスを受け取るとそれをゆっくりと首につけ、ギュッと優しく両手で握った。
「うん、良いと思うよ」
「ありがとう、大切にするわね」
その時のリアの表情は夢のような時間の終わりを告げるのにはぴったしなほど綺麗だった。
それから俺たちは他愛もない話をしながらシンがフルーツを食べ終わるのを待ち、部屋に戻ったらシャワーを浴びてすぐに床に就いた。体は疲れているのに寝付くのに少し時間がかかってしまったのはきっと月明かりが眩しすぎるせいだろう。
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転生ジョッキー~異世界でも俺たちは最速タッグであり続ける~ 冷静パスタ @reiseipasta
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