第19話 魔術師長、そして暴露

俺たちは馬車の前についた途端啞然とし、開いた口が塞がらなかった。


「それでは護衛を務めさせていただきます、アミレア・アミオットと申します。どうぞよろしくお願い致します」


な、なんたって魔術師長様が直々に俺たちの護衛なんか、、


隣のリアもぽかーんとしている。それにしても、、


とてつもなく美しいな。可憐という表現が的確だろうか。初めて近くで見たがその瞳に曇るところは一切なく鼻はすっと高くその表情は常に引き締まっている。とても齢20には見えない風格が漂っている。


「それでは行きましょう」

彼女が馬車の方を指し合図をする。


「あの、、シンはどうすれば?」


「ガフッ」

シンも軽く声を出してこっちを見る。


「少々失礼しますね。このままでは道中で大騒ぎになってしまいますので」


すると彼女はシンの前に出て片腕を前に出す。手の先に小さな光が現れてシンの体へと吸い込まれていく。シンの方は平気な顔をしてその魔法を受け入れている、人の悪意には敏感なシンがこの感じなのだから万に一の事態もないだろう。


やがて光はシンの体の表面を包み込む。一瞬馬体が光を発して弾ける。そのあとの姿を見て俺たちは驚愕する。


「すごい、、」

「どうやっているの、、」


そこには美しい白い馬体ではなくどこにでもいる茶色の馬体をしたシンが立っていた。はじめはほんとにシンなのかと疑ったがその仕草と顔を見間違えるはずはない、間違いなくシンだ。


「ガフッ!」

シンもちょっと普段と違う自分になれたのが嬉しいのかそわそわしている。


「彼の周りの光の屈折を調節しているんです。これで周りにも気付かれないでしょう」

彼女は平然とそんなことを言って馬車へと向かう。


「凄いわ、簡単そうに見えるけれどとても精密に計算と調整を重ねないとこんなに綺麗にはできないわ」

リアがシンをまじまじと見つめながら感心している。


それからシンは馬車の後続の騎馬隊の馬に紛れて一人で歩くことになり、俺たちは屋根と壁に囲まれて周りからは見えない馬車へと乗り込んだ。


「シン様を一人で歩かせる無礼をどうかお許しください」

向かいに座る彼女が片手を胸に当ていかにも王国軍というような礼をして謝る。


「いえいえ!仕方のないことですし。むしろここまでお気遣いいただきありがとうございます」

ここまでの人物に謝れると何だかこっちがとてもむずがゆくなる。


「毎年こうしているの?」

リアが馬車の中を見回して不思議そうに尋ねる。


「はい。秩序を守るのが私共の役目ですから。ただ例年は魔術師隊と騎馬隊の者に任せているのですが今年は私の希望でこうしてお供させていただきました」


「え?」

俺は思わず声を漏らしてしまう。


本来は魔術師長はついていないのか、なんでまた、、。


「実は私キョースケ様に謝らなくてはならないことがあります」


「謝らなくてはならないこと、、?」

そうは言われてもどうにも心当たりがない。大体ここで初めて話したんだぞ。


「あの予選の時の魔法のことです。あの火の矢の魔法が放たれた時それが命に関わるものだということはすぐに分かりました。本来なら私があの場であの魔法を防ぐべき、いや、防ぐのが私の役目なのです。しかし、なぜか私には確信がありました。あなた方ならば必ずあの魔法をしのぐだろうという。私はそれ見たさにあの魔法を防がず、傍観を選びました。私の好奇心と傲慢をどうかお許しください」

彼女は今度はさっきと違って深々と頭を下げる。


そうだったのか、、たしかに大会の安全管理上あういう事態に陥った時の対策を考えてないはずはない。本来はその魔法が届く前に防がれるべきものだったのだ。


ただ、もう時間もたっているしロイ君とのこともあり負の感情は一ミリも湧いてこなかった。隣のリアもあらそうなのくらいの涼しい顔をしている。


それに、、こういう見方は良くないかもしれないが明日には王に真実を話すことになるのだ、王の側近である彼女に良い印象を持ってもらった方が良いだろう。


「頭を上げてください。別に俺たちも無傷だったわけですし、むしろ光栄ですよ。あなたのようなお方にそれほどの予感を感じさせることができたわけですから」

俺はできる限りの柔らかい表情と声を作り彼女にそう応える。


「ありがとうございます。そう言ってもらえると私の心も少し楽になります」

彼女はそう言って胸をなでおろしている。


その姿を見てしめしめと思っている自分の打算的なところが少し嫌になる。


「ところでどうしてキョースケはあの魔法に当たらないって確信したの?」


「ええ。実は私ある時から何度も''予感''を感じるようになったんです」


「予感?」

何のことか分からず思わずきき返す。


「はい。何か重要な物事が起きるときに漠然とそのことの結果の良し悪しを感じるのです。ただ具体的に起こることは全く何もわからないんです。それは勘なんて曖昧なものではなく必ず当たるんです。今回もあの魔法が放たれた時良い予感がしたのです、、。」


「そう、、。不思議なこともあるものね。でもあなたくらいの人物だとそれもあり得る気がしてくるわね」

リアが呆れ半分に微笑を浮かべて言うと彼女も少し虚を突かれたような顔をする。


やがて少し間を置いて同じように彼女が微笑んで応える。


「ふふ。それは買いかぶりすぎですよ」


初めて見せる彼女の微笑んだ顔は普段とのギャップのせいか少しだけ子供っぽく見えた。






「それでは明日、お待ちしております」

宿までの時間はそんなに長くはなく軽いお互いの身の上話や街の話をしていたらあっという間に宿に着いていた。俺たちは馬車を降りると騎馬隊と魔術隊の数名にも挨拶をしてしばしのお別れをした。


「あれ、シンの体そのままだぞ、、おぉぉぉ!」

言っているそばからシンの体が美しい白の馬体に戻り思わず腰を抜かす。隣でそんな俺の姿を見てリアがクススと楽しそうに笑っている。何となくちょっといたずらっぽい笑みを浮かべている魔術師長の顔が浮かぶ。


「しかし、立派な人だったな」


「ええ、あの若さで魔術師長に選ばれたのも納得ね。実力だけじゃなく人間性まで買われたんでしょうね。それに、、彼女両親を亡くしたって言ってたわね」


そう、お互いの身の上の話をしたとき彼女は子どもの頃に両親を亡くして王国軍に拾われたと言っていた。まぁ、もっともこちらの身の上の話は終始ごまかしっぱなしだったが、、。


俺はどう答えれば良いものか考えあぐねて無言でうなずく。


「私も見習わなきゃね!ねぇ、シン」

リアはそう言ってシンをわしゃわしゃと撫でる。シンも嬉しそうに目をつぶって応えている。


あの、、いつの間にそんな仲良くなったんですか、、?


リアが少しの間シンとじゃれてからポンとシンの背中を軽く叩く。

「よし、じゃあ荷物を置いたら何かパーッと食べに行きましょう!」


「そうだな!今日はごちそうだ!」


そう言って俺たちは部屋に向かい汗だくになった体をシャワーで流した。浴室から出てきたリアはどこで手に入れていたのか質素なゴムで長い髪を後ろで一本にまとめている。何というか、、めちゃくちゃ良いな、普段は綺麗におろしている艶やかな髪を急に雑に一本にまとめるこの日常感というか生活感が素晴らしい。そんなことを考えながらボーっとリアを見ているとまた呆れられる。


「なにボーっとしているのよ。早く行くわよ。あんたも今日はこれ被りなさいよ」

そう言ってリアが俺にマントを差し出してくる。


「あ、ああ、ありがとう」


俺は先に部屋を出ていくリアを見てこんな日常がもう少し続けば良いとそんなことを思ってしまった。







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