第16話 ねぎらい、そして戦友

目を覚ますと病室の天井でも無く、見知らぬ空でも無く、真っ白い布の天井が見えた。


「いたた、、」

ベッドから起き上がるとちょっとした頭痛が襲ってくる。


「キョースケ!」


視界の端からリアが心配そうな顔をして覗き込んでくるが俺が目を覚ましたのを見て安堵の表情を浮かべる。


「ほんとに無茶して、、。1時間以上は寝ていたのよ。あなたレースが終わった瞬間に気失ったの」


「そうか、、すまんな。心配かけて」


「ほんとよ!でも、、よく頑張ったわね。ありがとう」

リアの美しいサファイアブルーの瞳が少し湿っていてより美しく見える。


「それにしてももの凄い魔力量だったわね。凄まじい強化魔法だったわよ」


「俺、、マナブレイクしたんだよな。ちゃんと制御したつもりだったんだけど」


「その通りよ。おそらくレース中だったのが原因だと思うわ。魔法っていうのはその人の心の状態、もっと言えばその奥の深層心理に強く影響されるのよ」


たしかに、いくら表面上では冷静にと考えていてもあの歓声にあの接戦、そこで感じる緊迫感とアドレナリン。そして何よりその中でシンと走っているという高揚感は俺の心から到底消せるものでは無かった。事実、俺たちはあの時楽しんでいた。


「そうか、、なるほどな」

俺は少しその高揚感を思い出し納得の笑みを浮かべる。


リアがこんな時にまで何をという顔でハァとため息をつく。


「まあこれで分かったわね。キョースケはおそらくかなりの魔力量を持っているわね。今回だけの魔法ではどれくらいか詳しくは分からないけど普通の魔法士はおそらく超えているわ」


「そう、、なのか」

思わず自分の手の平を眺める。たしかにあの魔法を発動する一瞬自分の腕を大きな流れが流れ出していくはっきりとした感覚があった。


でも、、

「魔力門は小さいんだよなぁぁ」

男なら誰でも転生したら魔法で無双する展開を夢見るだろう。ところがそう上手くはいかないらしい。魔力量が多いだけに非常に残念だ。


「だからこそ注意しなきゃだめよ。今回は安全な部類の強化魔法でしかもある程度のところで発動して止められたからこれくらいで済んだから良かったわ。これがもっと規模が大きかったり危険な魔法だったら大事故になってたわよ」

腕も組んだリアが普段よりは幾分か優しい口調で注意してくる。


「ああ、分かった。もしかして魔力量が多くて魔力門が小さいっていうのは一番危険な状態なのか、、」


「そう、その通りよ。明日からまた練習ね」


「はい、、頑張ります」

あんな盛大に暴発したのがだから当然である。


明日からまた、、か。

思わず微笑みが漏れる。


「あと、、」

リアが一瞬だけ恥ずかしそうに目をそらしてから再び目を真っ直ぐ見つめてくる。


「優勝おめでとう。そしてありがとうね」

こればっかりは隠しきれずに嬉しそうに笑顔を浮かべてリアが素直に伝えてくる。


「うん。こちらこそありがとう」

こういうのには素直に応えるのが筋だろう。真っ直ぐリアの目を見返す。


「それに、、キョースケにもできることいっぱいあったじゃない。あなたとシン二人の立派な勝利よ」


「うん、少しは役にたてて良かったよ」


「ええ、少しはかっこ良かったわよ、、」

リアが今度ははっきりと目をそらして恥ずかしそうにして言う。


「あ、ありがとう、、」

俺も吊られて恥ずかしくなり目をそらしてしまう。こ、こういうのには相手に合わせて応えるのが筋ってだけだからね!


それから2,3秒沈黙が続いてさてどうこの沈黙を打ち破ろうかと考え始めた時だった。


「キョースケ!」

声のする方を見るとさっきまで共闘していたデイヴィッドが駆け寄って来る。


ナイスタイミングだ!デイヴィッド!


「大丈夫か?」


「ああ、もう大丈夫だ」


「そうか、それなら良かった。いやお礼が言いたくてな、ありがとう。最高の勝負だったよ」

デイヴィッドがにかっと笑顔を作り手を差し伸べてくる。その表情の奥に一瞬だけ悔しさを感じたのは俺の気のせいだろうか。


「こちらこそありがとう。最後の最後まで分からなかったよ」

こちらも笑顔で握り返す。これもまた素直に応えるのが筋だろう。


「まさかあんなところから抜かされるとはな。凄いスピードだったよ。これだけ凄いやつに負けたならって心残りはないよ」


「そっちこそ、あの魔法裁きは凄かったよ。俺にはできない」


「おお、ありがとうよ。じゃ!そろそろ表彰式も始まるみたいだし長居しても悪いから俺は行くな。ちゃんと話すこと考えとくんだぞー!」

そう言うとデイヴィットは後ろ姿のまま手を振って入り去って行った。


「良いわね」

デイヴィットがいなくなると突然リアが呟く。


「え?何が?」


「彼ね、負けた直後はそれはもう立派な男泣きだったのよ。相当悔しかったのね。それでもこうして相手をねぎらえるのね」


「そうだったのか、やっぱり凄い奴だな」


やっぱり平気なふりをしていたのか。彼があれほどまでの強さを持つ理由が何となく分かった気がした。


「こういうの私好きだわ。皆良い目をしているもの。本気で、真摯に、報われるかは分からないのにただひたすらに努力する。そういう人にこそ本当の強さが宿ると私は思うわ」


「ああそうだな、俺もそう思うよ」


俺も勝負の世界を見てきた人間だ。どういう人が勝ち残っていきどういう人が負けていくのか、その多くを見てきた。どうやらこの世界でもそれは全く変わらないようだ。


あれ、そういえば今日のMVPの姿が見えない。

「ところでシンは?」


「シンならあっちのテントで表彰式のために控えてるわよ。キョースケが倒れた時全然離れようとしなかったんだから」


「そっか。後でいっぱいねぎらってやんないとな」


「そうね」


「よし、じゃあ俺たちもそろそろ行こうか」


俺は慎重に立ち上がり表彰式の舞台となる仮設ステージの方へと向かった。俺はそこでシンに手荒いお迎えを受けて二人でステージへと向かった。







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