第15話 熱戦、そして決着
ザッ!
一斉に馬が芝を蹴る音が聞こえる。
キューーン
それからすぐさま両サイドから魔法を使う音が聞こえてくる。
よし!この間だ!
俺が勢いよく加速しようとしたその時だった。
「キョースケ!!気を付けて!」
間違いない、リアがそう叫ぶ声が遠くではあるが確かに聞こえた。
慌てて両サイドを見ると左二つ隣の敵と右三つ隣の敵の光の色が強化魔法のそれではない。
しまった!!強化魔法に紛れて攻撃魔法か!!
次の瞬間、二人の手から光が放たれる。片方の光は全体に広がりもう片方の光は俺の前方の地面へと吸い込まれていく。
ダアアアアン!
そんな音と共に視界が一瞬で暗くなる。
「「開始早々仕掛けた!!いきなり場面が動きます!!」」
くそ!煙幕か!それにこのまままっすぐ進むとまずい!
俺は光の吸い込まれていった地面を避けるべく減速し大きく右に進路を変える。
ズズズズ!
しかし次の瞬間左の前方に大きな影が出現する。先ほど魔法を受けた大地が隆起したのだろう。
くっ!ダメだ!避け切れない!
ダン!
右に大きく進路を変えたおかげで直撃は免れたが岩山の端とシンの体が接触する。当然俺たちはバランスを崩してさらに大きく右へとよろける。
このまま走ったら、、転んでしまう!
そう判断した俺は手綱を思い切り左に引っ張りシンを減速させる。シンもすぐに意図を理解したのか右足で踏ん張りながら減速しバランスを取り戻し、すぐにまた走り出す。
煙幕の中を加速を抑えて慎重に走るとやがて煙から抜け出し視界が開ける。
「!?」
そこには遠く前を走る6人の姿が見えた。その距離100、、いや、150mくらい。
「「さあ注目のキョースケ選手だがここで大きく出遅れてしまったー!果たして追いつけることはできるのか!?」」
完全にやられた!俺が最初に抜け出すのを防ぐためにスタート直後に仕掛けられてしまった。しかも2人も同じことを考えていたとは、、。
しかし、不幸中の幸いだったのは素早く発動したため魔法自体は弱めの魔法であったことと加速し始めでスピードはまだ遅かったことだ。これらのおかげでどうにか転倒せずに済んだ。
予選では150mくらい差をつけたんだ。まだ可能性はある!
俺は立て直してからすぐさま加速していたシンをさらに加速させる。
こうなったら逃げのペースで差し切る!
前方を見やるがまだ攻防は始まっておらず淡々と6頭が走っている。
さすがに予選より速いな、、。
とはいえ競馬のために育てられたシンと戦いのために育てられた他の馬とでは走りがまるで違う。その距離は10m,20mとどんどん近付いていく。
そうしているうちに前方の集団がコーナーに差し掛かる。先頭を走るのは当然デイヴィットだ。あそこまでは、、ちょうど100mくらいか、、。
「あっ!」
すると前方でいくつかの爆発が起こる。どうやら攻防が始まったようだ。すぐにコーナーの先で丘に隠れて前の集団が見えなくなる。
シュン!
ズバッ!
丘に隠れて見えないところから魔法と剣の音が盛んに聞こえてくる。
よしっ!今の内だ!
ここまで差がついた俺にはさすがにノーマークだろう、攻撃は飛んでこない。前の展開次第では全然追いつけるぞ。
やがて俺たちもコーナーに差し掛かる。誰よりも綺麗にいつも通りのコーナリングを決め後半の直線へと入る。もう一度前の集団の姿が視界に入る。
先頭のデイヴィットまでは、、80mくらいか。行ける!!
「「さあここでキョースケ選手も着々と追い上げています!展開次第では勝敗に絡んでくるかもしれません!!」」
前ではやはり攻防が繰り広げられている。しかし、、
思ったより前のペースが落ちていないな、、というより、、先頭のデイヴィットが全く減速していないな。
もう既にデイヴィットが他の5人に20mほど差をつけて前を走っている。当然攻撃はデイヴィットに集中するのだがある時はかわし、ある時は剣で切り捨て、ある時は防御魔法で弾き飛ばして全てを捌き続けている。
まずいな、、このままだと追いつけない、、。
前方との距離は着実に詰まっているが、その詰まり方は少しずつ緩やかになっていく。終盤に入るにつれて他の馬も皆加速しているのだ。
あれを、、やるしかないのか、、。
「「さあいよいよ最終直線も半分!!残り500mだ!デイヴィット選手がこのまま逃げ切るのか!!」」
デイヴィットとの距離は、、まだ40mってとこか、、。
でもこんな場面でしかもこのスピードのシンの上でできるのか?ただでさえ落ち着いて静止して極限まで集中した状態でやって半分の成功率だってのに。
「「さあもうすぐ400mだ!!デイヴィットはさらに後方に差をつける!!」」
迷ってる時間なんてない!もう、、やるしかない!
そしてその次の一瞬だった。
シンがほんの、ほんの一瞬だけ首を横に向けてこちらを見てきた。俺には、いや、俺たちにはその一瞬で十分だった。シンの俺を信じる想いが体の中に流れ込んでくる。
ありがとう。お前もずっと俺を信じてくれてたんだな。
俺は覚悟を決め両の手の平を前に出した。何度も練習したとおり全身から手の平に向けて流れを作るようにイメージする。丁寧に、、確実に、、。
たちまち両の手の平に青い光が現れる。
「「おーっと!ここで後方のキョースケ選手がついに初めて魔法を使います!」」
光はどんどん大きくなり手の平くらいの大きさまで成長する。
よしっ!ここまでは順ちょ、、、
「えっ?」
このくらいの大きさで抑えなくてはならない光がそこで止まることはなくさらに大きくなっていく。
何でだ、、!?止まってくれ!ちゃんと止めるイメージはしているのに!
しかし、そんな感情とは裏腹に光の膨張するスピードはどんどん速くなっていく。たちまち光は俺の背丈を超える。会場からは一際大きいどよめきが聞こえる。
くそっ!止まらない!
光の球はいよいよ地面にまで達しようとしている。ここまで大きくなった魔法の扱い方を俺は知らない。どうすれば、、。いや、もう考えてる時間もやり直す時間もない。もうすぐ残り300mを切ろうとしているがデイヴィッドはやはり40mくらい先にいる。他の選手も魔力が尽きたのかはたまた諦めたのかデイヴィッドへの攻撃もまばらになっている。
やるしかない!
「ハアァァァ!」
俺は全力の雄叫びと共に強化魔法を発動した。半径2m近くはありそうな光の球がすっぽりとシンの体を包み込む。
頼む!
パリーーーーン!
次の瞬間、光の球はシンの体に吸い込まれ無数の光を散らしながら四散する。今まで見たことないほど強い青色の光がシンの体から放たれている。
よしっ!成功だ!
シンの地面を蹴る音がより速くそして強くなる。シンがとてつもない勢いで加速する。練習で強化魔法が成功したときとは比較にならない速さだ。
「「ここでキョースケ選手が来る!何という速さだ!信じられません!」」
たちまち前方にいたデイヴィッド以外の5人を抜き去る。抜かされた選手たちは信じられないという顔でこちらを見ている。残りは200mでその差は30!
これは、、行ける!
そう思った矢先だった。
「えっ?」
今まで感じたことのない宙に浮かぶようなそんな感覚が急に体を襲う。
あれ?体に力が入らない、、。
前傾を保っていた体幹から力が抜けていく。気付けば踏ん張っていた脚にも力が入らなくなっている。
これが、、マナブレイクか、、。当然だ、いきなり大きな魔法を使ってしまったのだから。
くっ!意識が飛ぶ!
視界の端がどんどん白くなっていく。息づかいは荒く、体は熱くなっていく。
残りはもう100mを切っている。デイヴィッドはすぐ前に迫り彼の馬は強化系のエフェクトで包まれている。
あと少し!あと少しだ!
「うおおおおおお!!」
俺は声になっているのか分からない雄叫びを上げ手綱を握る手に全力の集中力を捧げる。もう他の部分に力は入らないが体が覚えているラストスパートの体勢を必死に作り上げる。
ここで落ちるわけにはいかない!
もう視界はほとんど正面しか捉えておらず首を横に向けることもできない。
まだだ!もう少し!!
「「さあ!最後はこの二人のデッドヒートだ!!」」
頼む!!ウォォォォォォォォ!!
次の瞬間狭まった視界の端で何かを置き去りにしていくのが見えた。
「「抜いた!!ついに抜き去った!!キョースケ選手だ!!凄まじいスピードだ!!」」
やった、、。
実況の声とあっちの世界でのレースを彷彿とさせる歓声を聞いてわずかに笑みを浮かべる。
「「そして今!!ゴーーーーール!!勝ったのはなんと今大会のダークホース!!キョースケ選手です!!」」
その時にはもう視界が失われてゴールラインなど見えなかった俺はそこで初めて勝ちを確信した。俺は手探りでそっとシンの馬体に手を伸ばした。
「やったな。シン。俺たちの初めての差し切り勝ちだな」
その次の瞬間にはもう俺の意識は無くなっていた。
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