第14話 再起、そして決勝

それから俺たちは残りの予選を見届けた。他の組では特に危険な出来事もなく順調に進み、やはり俺たち2組とは違いどの組も魔法や剣での攻防が盛んに行われた。そして敗者復活戦も含めて剣士2人と魔法士3人が勝ち上がりそれに俺とデイヴィットを加えて計7人の決勝進出者が出揃った。


「「それではいよいよ決勝の準備に入らせてもらいます!!選手の方々はどうぞ移動の方をよろしくお願いします!!」」


決勝準備のアナウンスがなり、俺たちはシンを向かいに行くべく大テントの方へと向かう。

「やっぱりどの組も騎手は皆凄かったな」


「まあさすがは腕に自信のある人たちって感じね。馬を乗りこなせる上に魔法や剣技まで使えるなんて」


俺くらいだな、、魔法も剣も使えないの、、この世界で俺がシンに乗る資格なんてあるんだろうか。


返答がなかったのを不思議に思ったのだろうか、リアがちょっと俺の前に出て顔を覗き込んでくる。


「キョースケ、ところで決勝はどういう作戦で行くの?」


「ああ。その、、攻撃に関しては俺は今はシンを信じるしかないと思う。騎手として情けないことだとは分かっているんだが」


決勝は予選と同じようにいかないことくらい俺も分かっている。もう予選で俺たちの走力は見せてしまったし今度こそ圏外まで抜け出す前に止められてしまうだろう。でも俺にできることがあるわけでもないし現状この作戦しか思いつかない。


予選から、、いやそのもっとずっと前から俺はシンに助けられてばかりだ。正直俺がしてやれてることの方が圧倒的に少ない。騎手としてこんなんで良いんだろうか、、。自分でも分かるくらい暗い顔になり足を止めて咄嗟に俯く。


「そうね。私も今はシンが全て避けてくれるのを信じるしかないと思うわ」


やっぱりそうだよな、、。


するとリアが突然俺の前に出てきて振り返り正面から顔を真っ直ぐと見てくる。


「でもね、キョースケがそんなんでどうするのよ。キョースケがそんな顔で乗っていてシンは全力で走れるの?レースに集中できるの?自信を持てるの?」


「でも、、シンは凄いんだ、、」


「キョースケはずっとシンと一緒にいたんでしょ。シンが走るときには必ずキョースケが乗っていたんでしょ?あなたがそんな気持ちで乗っていてシンがその迷いに気付かないはずないでしょう?」


「ああ、たしかにそうだ。あいつなら気付くだろうな」


「今までそんな気持ちでシンと走ったことはあるの?」


俺はこいつと出会った時から死ぬまでずっと必死だった。自分もシンもデビューしたてで何をやっても勉強続きでそんなことを考える暇なんて一瞬たりともなかった。


「・・・多分、、ない。ずっと必死だったから」


するとリアがさっきよりも少し力を抜いて優しい声音で口を開く。


「そう。じゃあ今までのキョースケのシンへの努力と想いはどうなのよ?」


「え?」


「キョースケは今までシンにいろいろな感情を抱いてシンのために一緒に走ってきたのでしょ?当然シンはそれに気付いているはずよ」

リアの表情が氷を溶かすような優しい微笑みへと変わる。


たしかにリアの言う通りだ。俺はシンと出会ってからずっとシンが一番速く一番強くそして一番気持ち良く走れるようにと、そればかり考えて生きてきた。ゲートもペース配分もコース取りも全てシンのために勉強しなおして何度も練習した。


俺が何かを思い出していることを悟ったのか少し間を置いてから再びリアが俺に問いかける。

「それならその全てが今のキョースケとシンを作っているんじゃないの?」


「!?」


そうか、、なんでそんなことに気付けなかったんだろう。当たり前に走れるようになるまで練習したから気付けなかったけどさっきの予選の2000mだってあっちで何度も練習した通りの完璧なペース配分だった。それにさっきのスタートも位置取りも抜け出し方も、、。


「そう、、なのかな」


「ええ、そうよ」

不思議だ。リアは俺たちの過去なんて何も知らないはずなのになぜかその自信満々な顔を見ていると、間違いなくそうなのだろうという確信に近い自信が湧いてくる。


たしかに今俺にできることは少ないのかもしれない。でも、、


「今までの俺がしてきたことはたくさんあったんだな」


その途端シンとの出会いから今日この日までの努力が走馬灯のように頭をよぎる。当時はがむしゃらで気付かなかったけどシンと俺は一緒に成長してきたんだな。


「そうよ、それにね、、」


「それに、、?」


「相棒を信じてやることも騎手の一つの大事な役目だと私は思うわよ」


この子はなんて優しい顔をするのだろう。俺の暗みがかっていた心が温かく優しく照らされていく。自然と心の憂いが晴れ、俺の表情も柔らかくなっていく。


そうだ、大事な場面はいつもそうだった。最終直線で俺はお前ならできるとそう何度も唱えながら手綱を握っていた。元々そうだったんじゃないか。なら、せめて信じることくらい全力でやらないとな。


「ありがとう。リア」


「行けそう?」


「ああ、もう大丈夫だ。さあシンのところへ行こう」


次の瞬間、俺の心の中にあった迷いと悔しさはもっと大きなものに潰されていた。自分たちがやってきたことへの自信と次も勝ちたいというその必死さを俺は思い出した。


リアも安心したのかもう一度微笑んでから振り返りテントへと歩き出した。俺は少しだけ立ち止ってからリアの背中を小走りで追いかけた。











「「さあついに決勝となりました。今年も予選から熱戦が繰り広げられ勝ち抜いた猛者たち7人がここに集います」


ドワーーーーー!

会場からはまだ整列すらしていないのに大きな歓声が上がる。予選の時よりも明らかにその数は増えているように見える。


「やあ、よろしくな」


「ああ、こっちこそよろしく」

俺より少し後に馬を連れて入ってきたデイヴィットが簡単にそれだけ告げ自分の枠へと向かっていく。俺の方も余計な言葉は交わさず簡単に応える。


思い出すなぁ、あっちの世界でのレースを。


どんなに普段仲良くしている相手でもレース前はいつもこうだった。これが相手への礼儀でもあり敬意でもあると俺は思っている。俺はこのレースという世界だけで味わえる緊張感と特別感がたまらなく好きだった。


やっぱり本気の勝負ってのは良いな。


「「それでは決勝の整列の前に皆さんお待ちかね!!我らがテラルド王国の王様、テラルド王の登場となります!!どうぞ!!」」


ワァァァァァァァ!!

今日何度目になるだろう、再び観衆から大きな歓声が上がる。


しかし凄い歓声だな、この国も王もきっと愛されているのだろう。


すると運営テントの裏から両サイドに騎馬隊長と魔術師長を付けてテラルド王が姿を現す。その顔は彫が深くきれいに揃えられたあごひげを生やし厳しそうな第一印象を受ける。体はずっしりとしていて服は所々装飾はあるものの決して派手な色は使われず質素な印象を受ける。やがてテラルド王は一際立派なテントの真ん中にある椅子にそっと座り両サイドには騎馬隊長と魔術師長が立ったまま控える。その途端、今度は観衆から大きな拍手が送られる。


あれがテラルド王か、、俺たちはいずれか必ずあの人に会わなくてはならない。


「「はーーい!!それでは皆さん準備は良いですかー!?選手たちはスタートラインの方へ移動お願いしまーす!」」


抽選の結果5枠目になった俺は自分のスタート位置へと向かう。


「シン、頼むぜ」

シンの体を軽く上から撫でで呟くとシンが答えるようにこちらを向いてすぐに向き直る。


よし、とりあえずスタート集中だ。あとはみんなが強化している間に離せるだけ離す!


「「さあ準備ができたようです」」


さっきまであんなに盛り上がっていたのが噓かのように会場が静まり返る。会場全体の緊張が俺の皮膚をチクチクと刺激する。


「「それではスタートです!!」」


パアアアアアン!





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