第10話 声明、そして祭り
「ミワ王国で革命!新革命国イスナ帝国誕生」
新聞の見出しにはそうでかでかと書かれていた。リアは淡々とした表情で読み進めがらもその新聞を持つ手は震えていた。そして最後に唇をグッと噛みしめて俺に新聞を渡してきた。
そこには元国王一族が処刑されたこと、新しい国が発足したこと、近々新帝王をお披露目することといった事実だけが淡々と書かれていた。そしてそこにはおそらく声明発表の時の写真であろう、何かを大勢の人に向かって話している40歳くらいの男の写真が載っている。目つきは鋭く冷淡で写真越しでも何か恐怖を感じてしまうような男だ。
「こいつが、、」
「そう、、カラムよ」
リアの口元に再び力が入る。
「それに帝国だなんて、、領土を広げる気満々じゃない」
「帝国、、か」
たしか歴史の授業で習ったな、帝国は多数の国や民族を支配するものだったっけか。
「あらかじめ宣戦布告して混乱を誘っているのね。いかにもあいつのやりそうなことだわ。それに新帝王なんてお飾りだわ。どうせカラムの傀儡政権になるに決まってるわ」
リアの顔には隠し切れない悔しさが滲んでいる。
正直こんな顔のリアはあまり見たくないものだ。そう思った矢先、リアの表情がスッと緩む。
「でもこれ父上の悪い話は全く書かれていないわ。きっとカラムはここで奴隷売買の話も含めて父上の偽の悪行をでっちあげているはずなの。テラルド王が報道から削除したに違いないわ。テラルド王には頭が上がらないわね」
やっとリアの表情が和らいで微笑みが浮かぶ。
「テラルド王はお父さんのことを信じてくれたんだな」
「ええ、父上の優しさはしっかりここで生きていたわ」
リアが目じりに涙を浮かべながら空を仰ぐ。俺も思わず一緒に空を見上げてそして表情を引き締めてリアの方に向く。
「じゃあテラルド王に直接お礼言わないとな。こんなところで負けるわけにはいかないな」
「そうね、行くわよ」
「ガフッ」
勝気な表情の俺にまるで伝染したかのように同じく勝気な2人が応える。こうして俺たち3人は大会会場となる大草原へと向かった。
「受付はこちらになりまーす!」
人混みの先のテントからそんな張りの良い声が聞こえる。
「こりゃあとんでもない人だな」
「それはそうよ。なんせ三大大会のうちの一つなんだから。祭りみたいなものね」
リアの言う通り雰囲気は大会というより祭りだ。あちこちに食べ物やらなんやらの出店が出ているし、ところどころで歌っている人や踊っている人、ジャグリングしてる人までいる。
「みんな楽しそうだな。こりゃあ良いイベントだ」
「良い国の証拠ね」
リアが少し遠くを見ながらそう呟く。ミワ王国もこんな日があったのだろう。
「おーーーーい!キョースケ!」
良く響く声が遠くの方から聞こえてくる。
声の方向を見るとギルドで見かける時とは違い装備もつけずちょっと派手目なシャツを着ているリゲルがこちらに向かって走ってくる。右手にはフランクフルト、左手にはビールジョッキを持っている。
「リゲル、ずいぶんと今日はお祭り装備だな」
「ん?あーーこれか。あたりめえよ!今日はとことん楽しまなきゃな!」
リゲルが満面の笑みを浮かべながらフランクフルトにがっつく。
「もう十分楽しそうだな」
俺はやれやれというようにそう言いやる。
「いいや、一番楽しみなのはやっぱり大会さ。今日はキョースケが俺を楽しませてくれよ」
「ああ、任せてくれよ」
ポンと肩に手を置いてくるリゲルに俺は自信に満ちた笑みを浮かべて答えると、リアがちょっといたずら交じりな可愛らしい笑みを浮かべて覗き込んでくる。
「これだけの人に観られてるのよ。緊張しない?大丈夫?」
「これって大体どれくらいの人が集まるんだ?」
俺は辺りを見渡すがあちこちに散らばっていてとても見当がつかない。
するとリゲルが顎に手を当てながら答える。
「そうだな、、毎年大体1万人くらいの人が集まるらしいぞ」
「それくらい全然大丈夫だ」
なんせ俺はシンと日本ダービーで10万人の観客の前で走って快勝したんだからな。あれを超える舞台なんてもうおそらくないだろう。
それに待ちに待ったようやくの俺が活躍できる場だからな。この世界に来てからというものシンとリアに助けられてばっかで大した活躍もできていない。ここが騎手としての腕の見せ所だ。
「それは心強いな、期待してるよ」
リゲルがビールジョッキを持ったまま拳を突き出してくる。リアは隣で満足そうな雰囲気を出している。
「おう」
俺は控えめに拳をコツンとぶつけて受付の方へと向かった。
受付の方法は至って簡単だった。冒険者カードを提出し事前に登録していた内容と照会して受付完了となった。その際「2-3」と書かれた番号札を渡される。どうやらこれは2組目の3枠目という意味らしい。今大会は参加者39人で予選は6~7人の全6組で各組1位と後の敗者復活戦を勝った1名が決勝に進めるらしい。
受付が終わると次に俺たちは出場馬の待機場所となる大テントの方に案内された。
「うわぁ、こりゃ凄いな」
外から見たときも大きかったが中に入るとその広さがより協調される。スペースがしっかりと木の枠で区切られていて一体どれくらいだろう、ざっと30,40頭分ぐらいのスペースがありそうだ。
「たしか受付のときどこでも良いって言ってたよな?あの辺とか目立たなそうで良さそうだな」
授業で席が自由なときの選び方の癖がつい出てしまったのか入り口から離れた陰になっているブースを真っ先に目指す。
「まあそうね、私たちは目立たないに超したことはなさそうね」
リアはなんか俺とは違う意味で捉えてそうだがまあ納得してくれたなら良いか。そう思ってそのブースに向かって足を踏み出すと唐突に横から声をかけられる。
「おお、こりゃあ随分と良い馬だなあ」
声の方を見ると赤い短髪のまだ若い一人の男が思わずシンに見入っている。
「あ、どうも」
咄嗟に褒められて肯定とも否定とも取れない中途半端で無愛想な返事をする。
「あんたが乗るのか?」
「はい、そうです、、」
どうもこの世界で初対面の人と話すのはどんな距離感が普通なのか分からなくて慣れないものだ。いや、こっちの世界に限った話ではないんだけど、、。
「あ、名乗るを忘れてたな。俺もこの大会に出るんだ。俺はデイヴィットだ。よろしく」
「ああ、俺はキョースケでこっちはシンです。よろしくお願いします」
「ガフッ!」
「すまんな、あまりにも良い馬だったから思わず声をかけちまった。えーっとキョースケは2組か、良かった俺は1組だから当たるなら決勝だな。今年こそは俺が優勝させてもらうぜ」
「今年こそ、、去年も出場していたんですか?」
「ああ、去年は決勝でな、カリナっていうとんでもない化け物女騎士に完敗したよ。あいつはあのまま王国軍に入ってもう騎馬隊副隊長様だとよ」
デイヴィットはこりゃかなわんというようにやれやれというポーズを取る。
しかし決勝に行ってるのであれば相当の腕の持ち主なのだろう、要警戒である。
「とんでもない人がいるもんですね、、。俺も頑張んなきゃですね」
「ああ、お前らとやれるの楽しみにしてるよ」
「ありがとう。お互い頑張りましょう」
お互い拳をこつんとぶつけるとデイヴィットは大テントの出口の方へと走り去って行った。
「なぁ、リゲルといいデイヴィットといい戦士って気が良い奴が多いのか?」
「うーんそうね、、やっぱり誇りを持っている人は多いから気が良い人が多いんじゃないかしら。でももちろん世の中には卑怯だったり協調性が無かったり悪意を持っていたりする戦士もいるわ。そいつらには気をつけなさいよ」
それはそうか、卑怯と協調性に関しては少しドキッとしたが気のせいだろう。そりゃあこっちでもいろんな人がいるか。そう考えるとまずこの街でリゲルとデイヴィットに出会ったのは幸運なんだろうな。
「ああ気を付けるよ。んでここからあと開会式までは1時間半くらいあるけどどうする?」
大テントの壁に掛けられている時計を見上げるとちょうど10時半を指している。
「そうね。せっかくだし出店を見て回るのはどうかしら。あんまり買ったりはできないかもだけど」
リアが俺の鞄にちらっと視線を向けて言う。
「まあそうだな。ウィンドウショッピングと行こうじゃないか」
「はぁ、あのね、祭りでウィンドウショッピングなんて聞いたことないわよ」
グッと親指を前に突き出した俺にリアはまた呆れたようにそう返したが、フードの隙間からは笑みがこぼれている。言うや否やすぐ出口の方へと歩き出すその後ろ姿からは隠しきれないワクワクがあふれ出いている。
せっかくだし少しくらいはお金を使っても良いだろう。俺はそんなことを考えながら先を歩くリアの背中を追いかけた。
======================================
初執筆初投稿になります!どうぞよろしくお願いします!
毎日投稿頑張るので応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます