第8話 依頼、そして魔法

次の日、目を覚ますともう既に髪を整えいつでも出かけられる準備をしたリアがいた。


「おはよう。早いんだな」


「何言っているのよ。もう9時よ」


9時は俺の中で相当早起きなんですけど、、。


それから俺はだらだらと出かける準備を済ませ、俺たちは軽い依頼をこなすべくマントを羽織って再びギルドへと向かった。


「うーーん、なんかなぁ、こんなにいっぱいあると決められないな」

掲示板を前にして俺お得意の優柔不断が発動する。


「んーーそうね、せっかくシンもいるんだしシンと一緒にできる依頼が良いんじゃないかしら、あっ、これなんかどう?」

リアが一枚の依頼を指さす。もちろん紙に引かれているラインの色は緑色だ。


「大荷物の運送か、たしかにシンがいれば余裕だもんな」


「これにしましょ、迷っても仕方ないしとりあえずやってみましょ」


こいうときにスパッと決めてくれる人がいるのは本当に助かる。ファミレスなんかに行くと迷いすぎてよく人を待たせてしまったものだ。


それから俺たちはカウンターへ行き依頼受託の手続きを取って依頼主の元へと向かった。


依頼の内容は至って単純だった。農家の人が遠くに所有している畑のところに新しい器具を導入したいそうなのだがそれを運んでほしいとのことだった。依頼主のところに行くとなんだが見たことのない鉄で作られた機械が乗った荷車が用意されており一枚の地図を渡されてそこに向かうように指示された。


地図を見るところによると荷車を引いて行くと少し長めに見積もっても片道2時間といったところだろうか。かなり城壁の端っこの方である。それから俺たちは少しの注意点を聞いてすぐに目的地へと出発した。


「すぐに出発できて良かったわね、これなら余裕で夕方までには帰れそうね」


「そうだな、スムーズで助かるよ」


「ガフフッ」

一晩休んだおかげかシンも昨日より元気なように見える。


そういえばちゃんとギルドから依頼主へ話は伝わっているんだな。俺らも割とすぐ来たはずなのにもう伝わっているということはこの世界にもちゃんとした通信の手段があるみたいだな。


「そういえば、キョースケは魔法は使えるの?」

考え事をしてボーっとしていた俺にリアが突然後ろから問いかけてくる。そして答えはもちろん決まっている。


「魔法か?もちろん使えないよ」


「あら、そうなの?じゃあ何ができるの?」

何の悪気もなさそうにリアがボソッととんでもないことを言う。


多分純粋にきいていてほんとに悪気はないんだろう、吞気に遠くを眺めている。


ちょっと!リアさん!それじゃ僕が何もできないみたいじゃないですか?!たしかに魔法も剣術も洗濯も掃除もできないけど!でも僕にしかシンは乗りこなせないんだからね!


「ぐっ、たしかに家事全般できないな、、」


「家事全般?何言ってるのよ」

またリアが半ば呆れたような声で返してくる。


でも魔法か、、もしかしたら俺だって使えるかもしれないのか。ここできいておく価値はありそうだな。もしかしてものすごい才能があったりして、、ぐふふ。


「ところで魔法ってどうやって使うんだ?」


「・・・」


「リア、、さん?」

返事が返って来ないので後ろを振り返るとただでさえ大きな瞳がさらにまん丸く開かれている。


「あなた魔法も教わらなかったの!?初等学校で必ず教わるでしょう?ほんとにどんな育ちをしてきたのよ」


「あーー学校か、、ちょっと事情があって行ってなくて」


行ってたよ!!ちゃんと義務教育は受けたし競馬学校だって通ってたんだから!不登校じゃないんだからね!!


「何よそれ、、それでも普通誰かに教わるでしょ、、」


「す、すみません」


「まぁ良いわ、教えてあげる、ほんとに基礎から何も知らないのね?」


「はい、、」


なんかこのやり取りをしてると中学校の数学の授業を思い出すな、、。


「まず魔法には3つの大事な要素が存在するわ。

 一つ目は魔力ね。これは元々その人個人の中に決まった量存在するもので使えば消耗するし休めば回復する。単純な話ね」


ふむふむ。これは簡単にイメージがつく。この魔力量がめちゃくちゃ高かったりすると強かったりするんだよな。


「2つ目は魔力門ね。これは魔力を体外に放出する能力のことでこの門の大きさが人によって全然違うのよ。この門が大きければ一度で大きな魔力を放出できるし小さければどんな膨大な魔力を持っていても使える魔法に限界が生じるわ」


なるほどな、これもまあイメージできるな。出口の大きさによって出力できる魔力量が違うわけか。


「3つ目は系統ね。これは使える魔法の種類のことね。主に治癒系、強化系、造形系、そしてエレメント系があるわ。出力した魔力はあとは本人のイメージ力で形に変えるのだけれどこれには適性が大きく影響してくるの。この4つの系統にはそれぞれ生まれつき適性があって人によって得意不得意があるのよ、ちなみに私は全般的に使えるけど特に機能見せたような造形系が得意だわ」


ほーーん、まあこれも分かるな。なんとなくゲームで言うスキルを彷彿とさせるな。


「エレメント系ってのはどんなのだ?」


「エレメント系っていうのは色々あるけど代表的なのを言えば火、水、風、地、光といったような自然に関わる魔法のことね。実際攻撃魔法に使われるのはほとんどがこのエレメント系よ」


なるほどな、これが一番魔法って感じがするな。できれば俺も是非とも使ってみたいところだ。


「それで練習したら使えるようになるのか?」


「うーーんそれがね部分的にはノーで部分的にはイエスよ

 まず魔力量と魔力門の大きさに関しては生まれた時から決まっているの。これもねほとんどの人はそのどちらかが小さくて実戦で有効になるほどの魔法は使えないの。そうね、、大体9割くらいの人がこれに該当するわ。それでも日常生活での少しの火とか水とかかすり傷を治す簡単な治癒魔法くらいなら使える人も多いから魔法自体はよく見かけるはずよ」


「なるほどな、それなりの魔法を使うためには魔力量と魔力門のどっちもがそこそこの大きさじゃなきゃいけないんだな」


「そうなのよ、だからまずこの段階で魔法を使える人と使えない人に分かれてしまうのよ。そしてその後が系統ね、これも適性自体は生まれた時に決まっていて得意不得意があるのだけれどこれは本人のイメージ力に依存するところも大きいから訓練を積み重ねることでより洗練されていくわ。まあそれでも適性の与える影響は大きいから、適性の高い系統の魔法を訓練でさらに成長させるっていうのが主流ね」


「うんうん、大体分かったよありがとう、ん?そしたら転移魔法とかはどうなっているんだ?」


俺は発言してからやべっと思う。ここで両親の魔法についてきくなんてほんとに気の遣えないやつだ。ほんとに俺はこういうところがいけないのだ。


「あら、良い質問ね。そういう特殊な魔法は魔法陣や魔導書、詠唱に魔力を注ぎ込むことで使えるのよ。まあ要はイメージで魔力の形を変える過程を物や詠唱に任せてしまうわけね。まあそれでもとんでもない魔力が必要になるから結局ほとんどの人が使えないんだけどね」


「そうかなるほどな、たしかにそういう魔法は形のイメージなんてできないもんな」


どうやらリアは気にしていないようで良かった。こんなところでまた暗い思い出を引き出したりはしたくない。


「そ。そういうことよ。あと、変な気遣わなくて良いから。私気遣われるのあまり好きじゃないのよ。せめてキョースケくらいは自然なままでいて欲しいわ」


「は、、はい」

俺くらい、、か。王族なんだから色々堅苦しいことに囲まれていたのかもな。どうやら俺の安い気遣いなんてお見通しだったらしい。それにやっぱりリアは俺の想像なんか遥かに超える強い子なようだ。


「あと、あなたもね」

リアが優しい笑顔を作りそっとシンの馬体を撫でる。


「ガフッ」

それに応えたのかシンが少しだけ首を横に向けて声を上げて再び前を向いて歩き続けた。


それから俺は道中で魔法の使い方について教わることになったのだった。






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