第6話 街、そしてギルド

時間帯のせいだろうか街は賑わっているように見える。仕事終わりの晩酌を始めたのか所々の飯屋や家から乾杯の音頭と賑やかな笑い声が聞こえてくる。八百屋や魚屋、肉屋のような店ではいかにも主婦っぽい人たちが慎重に品を見定めている。


こういうところは異世界でも同じなんだな。


と一人で感傷に浸りながら安心しているとふと隣にいたはずのリアがいなくなっていることに気付く。


あれ、さっきまで隣にいたのにどこに行ったんだと辺りを見回すと少し先の雑貨屋の店頭で見覚えのあるフードつきのマントを着た人が何かを熱心に眺めている。


「何見てるんだ?」

後ろから声をかけても反応がない。


「おーーーい」

今度は顔が見えるようにフードの中を少し覗き込むように声をかける。


するとそこには目をキラキラとさせて今にも飛びつきそうな顔をしたリアがいた。見つめる先にはルビー色の石がはめこまれたネックレスが飾られている。たしかに綺麗なものではあるが高級な宝石というわけでもなさそうだ。


王族でもこういうものを欲しがるものなのか。


「えっ、あっ!ごめんなさい!つい、、普段街に出ることなんかなくてこういう店を見るとついワクワクしちゃって」

リアがやっとこっちに気付いて恥ずかしそうに一歩二歩と後ろに下がる。フードの下でも頬を赤らめているのが分かる。


それにしても街に来てからというものリアが楽しそうにしていることが増えた気がする。きっと心の中の辛さが消えることはないだろうが、こうやって少しぐらい楽しい思い出で上書きしてあげられたら良いな。


「これ、欲しいのか」

このルビーのネックレスは、、銀貨5枚か。決して高くはないしここは一つ、、


「いや、良いのよ、今は少しでもお金を節約したいでしょ?銀貨5枚あれば1泊できるしここは我慢しましょ」

リアがそう言うや否や店の外へと歩いて行く。


ほんとはやっぱり欲しいんじゃないのか。でもリアなりのプライドもあるのだろう、ここはリアの意志を尊重しよう。


「あの色好きなのか」


「好き、というかお兄様の瞳の色にそっくりだったの。珍しい色だからつい、、ね」


なるほど、それであんなにあのネックレスを気に入ってたわけか。しかしリアは相当兄のことを慕っているんだな。必ず兄の行方を見つけ出して再会させてあげなくては。




それからさらに中心の方へと進むと今まで建物に隠れて頭の方しか見えなかった城の全体が見えるようになってきた。


「あれがテラルド王の住んでいる城よ」


リアが指差す方を見ると街の真ん中に大きな城がそびえたっている。土地をかさ上げしているのか小高い丘の上に建てているのかまだだいぶ離れているが城の全貌がよく見える。いかにも西洋といったような石造りになっていて大きさでいうとちょうど某ネズミーランドのシンデレラ城くらいありそうだ。


俺がボケーっと感心していると


「あの城の周りは今はよく見えないけど壁と柵に囲まれていてその上見張りもしっかり巡回していてとても簡単には入れないわ。でも私たちはあそこにいる王のもとまで何とかたどり着かなくてはならないの」

リアの凛としたエメラルドグリーンの瞳が城のてっぺんを真っ直ぐ見つめている。


「ありゃあ簡単には忍び込めなそうだな、、」


誰にもばれずにあそこに入るには一体どうすれば良いのだろう。シンに乗って強行突破するのは論外だしやはり何かリアの魔法を使って工夫するしかないのか、、


「リアの魔法でうまく忍び込めたりはしないのか」


「そうね、光の屈折をいじったりして夜なら姿を隠したりできるにはできるんだけど城には大抵優秀な魔法使いが何人かいるわ。城の中でそれくらいの魔法を使えば魔力を感知されてまず気付かれるでしょうね」


なるほどな、となると全てをリアの魔法に頼るというわけにもいかないわけか。


「あ、そろそろギルドが見えてくるわよ」

リアがそう言うと道の先に教会のような建物が見えてくる。


まだ遠くてはっきりとは見えないが、入り口の大きな扉は開いていて中はいくらかの人で賑わっているように見える。


「ギルドっていきなり入っても良いものなのか?」


「大丈夫よ、ギルドって言っても依頼内容は色々でね、冒険者じゃない普通の人でも受けられるような依頼もたくさんあるから」


へぇ、そういうものなのか、てっきり討伐依頼とか素材集めとかそういうものばっかなのかと思ってた。


そんなこんなしているうちに俺たちは扉まで辿り着き中へと入る。


「おぉ!」

そのあまりにも男心をくすぐる光景に思わず声が漏れる。内装は質素で天井は高く何やらカウンターには女性が座っている。所々に木製の机と椅子が置いてありそのいくつかではグループが何やら話し合いや食事をしているようだ。そして奥にはこれぞギルドと言わんばかりの掲示板がでかでかと設置されている。自分に合う依頼を探しているのだろう、何人かは熱心に張り紙を見つめている。


「とりあえず、あそこ見に行かないか?」

俺は待ちきれんと言わんばかりに掲示板を指差してリアを急かす。


「はあ、分かったわよ」

呆れ半分というようにリアがやれやれという表情を作って掲示板への方と向かう。


実際にギルドの中を落ち着いて眺めると意外にも冒険者らしくない普通の人も多く紛れていることに気付く。今も主婦のようなおばさんが一人掲示板を熱心に覗いている。


「案外みんながみんな冒険者っていうわけじゃないんだな」


「そうよ、むしろ依頼としては庶民向けのものの方が多いわね、荷物運びだったり薬草の採集、ペット探しだったり中にはベビーシッターなんかもあったりするわ」


「へぇ、なんか日雇い派遣バイトのネット掲示板みたいだな」


「ん?なんて言ったの?」

ボソッと言った独り言が聞こえていたらしいリアが怪訝そうに覗き込んでくる。


「あ、いや何でもないよ」

ごまかし方がちょっと適当すぎたかなと思いつつ掲示板を見ると、たしかに半分以上はそういった誰でも出来る類のものに見える。張り紙の上の方に色のついたラインが引かれているが緑色のものはおそらく誰でもできるものなのだろう。中には黄色や赤、明らかに危険そうなどす黒い濃い赤の貼り紙も混じっている。


「でもこれなら俺たちにもできそうだし仕事とお金はどうにかなりそうだな」


「そうね、一先ず生活の目処は立ちそうね」


そんな会話をしていると反対隣から肩にポンと手を置かれる。振り返るといかにも重厚そうな鎧を着た大柄のスキンヘッド男がにかっと笑顔を浮かべている。


「俺はこのギルド拠点に活動しているリゲルだ。あんたらギルド初めてだろ?なんか困ったことがあったら俺を頼ってくれ」


なんて気の良い男なんだ、俺らが初心者っぽいから気にかけて話しかけてくれたようだ。


「ありがとう。俺はキョースケ、こっちは連れのリアだ。二人で訳あって旅をしているんだ」


「そうか、よろしくキョースケ、リア」

慣れているのだろう、スッと差し出してきた手を俺も握り返す。


旅の訳を聞かれたらどうしようとちょっと心配したがそれを聞いてくることもなさそうだ。どうやらこの男は気が良いだけじゃなく気まで遣える男らしい。


「二人はギルド会員登録をしたか?」


「ギルド会員登録?」


「そうだ、依頼を受けるにはそこのカウンターで写真と名前を登録して会員証を作るんだ。依頼をこなしていくと会員証のランクも上がって受けることができる依頼のレベルも上がっていくってわけだ」


なるほどな、この貼り紙のラインの色はそういう意味だったのか。このゴリゴリのタンクっぽいリゲルという男はどのくらいのランクなのだろう。


「ちなみにリゲルさんのランクはどれくらいなんだ?」


「リゲルで良いよ、俺のはこれだ」

リゲルはそう言って懐からおそらく会員証と思われるカードを取り出す。その色は・・・


「赤!?」

思わず声に出てしまい慌てて口に手を当てる。


赤ってことはどす黒い赤を除いてほぼ全ての依頼を受けることができるではないか。


「凄い、、」

隣でもリアが驚いて声を漏らしている。


「そんなこともねえさ、仲間に助けられてばっかだし俺だけの力じゃないさ」


リゲルはほんとに根っからの良いやつなのだろう。正直体育会系の熱血系には苦手意識があったが案外高校の頃のあいつも割と悪い奴じゃなかったのかもなあ、俺の中の熱血系への認識を少し改める。


「おーーーーーい!リゲル!ちょっと来てくれ!」

ギルドの椅子に座っている集団からリゲルを呼ぶ声が聞こえる。みんなによく頼られているのだろう。


「お、わりいな呼ばれちまった、とにかく困ったことあったら何でも聞いてくれ」

リゲルがグッと親指を立てて走り去っていく。本当に気の良いやつだ。


「凄いわ、レッドの依頼は国軍が引き受けることもあるくらい難しい依頼なのよ。あの人多分相当強いわ」


「まあしばらくは俺たちはグリーンの依頼だろうな」


「そうね、それと写真を使うなら私は登録することはできないからキョースケが依頼を受けて私が手伝うことになりそうね」


「そうだな、今日はとりあえず俺の登録を済ませてどっかで飯食って帰ろうか」


それからギルド会員登録を済ませて俺たちは出口に向かった。すると出口の扉の横に貼られている王冠を被った馬の絵がでかでかと書かれている一枚の紙が目に入り俺は思わず足を止めた。


「なんだこれ?」






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