第5話 窮地、そして入国

城壁の前まで行くとその厳重さがよく分かった。まず乗り越えることなどできないだろうし城壁の上には兵士と大砲が見える。門にも内側と外側に計4人の衛兵がいてとてもじゃないけどばれずに突破などできないだろう。


「旅の者です」

俺はフードを外して怪しまれないようにとできるだけ平静を装って通行証もどきを差し出した。


「へー見ない顔だな、どっからだ?」


「えへへ、西の方から」

かなり引きつった笑顔でそう応える。俺こういうの苦手なんだよ!


「へーそりゃ長旅ご苦労さん」

衛兵の大柄な男は一瞬リアの方に目線を向けたが、特に怪しく思っている様子もなく通行証もどきを受け取る。


この時点でばれてしまわないかひやひやしたがどうやら怪しまれてはないようだ。それほどこの通行証のシステムに信頼を置いているのだろう。


するともう一人の細身の衛兵が全面だけ空いた木箱のような物を持って寄って来る。あれが読み取り装置だろう。大柄の男が通行証もどきを木箱の中心におく。


ゴクリ。つい緊張して唾を飲み込む。隣を見るとフードを深くかぶっていて表情は読み取れないが何となくリアも緊張しているのが伝わってくる。さらにその隣を見るとシンまでもがどこか緊張しているように見える。


頼む!

心の中でそれだけ繰り返し唱えていると


キュイーーーーン

通行証もどきの模様に沿って外側から内側に向かって緑色の光が線になって流れていく。やがて光が中心のeの模様に達するとやがて光は消えて箱から


ピンポーン!


という音がする。


おい!!そこだけはやたら原始的なのかよ!!と心の中で一人でにずっこけながら突っ込む。


まあ何はともあれこれで成功したみたいだから良いか。隣をみるとリアから何か得意げな雰囲気を感じる。


「じゃあ通行証をお返ししますね」

そう細身の衛兵が言って木箱を差し出したその時だった。


キュイーーーーン

木箱の中の通行証もどきが再び緑色に光り始める。よく見ると通行証が今にも壊れんばかりに大きく反り返っている。


これ、、まずいんじゃないの?


隣を見やるとリアも驚いているのかフードの下から見える口が大きく開いている。


あ、これダメなやつじゃん、、。


幸いまだ木箱の上の蓋に隠れて衛兵からはばれていないがこれだけ光って曲がっていては取り出したら一発でばれるだろう。


どうするの!!


と隣を見やるがリアもあたふたしているだけで特に打てる手もなそうだ


「ん?どうしたんですか?もう取って大丈夫ですよ」

細身の衛兵がそう言って箱の入り口を自分の方へ向けようとする。


ダメだ!!こりゃばれる・・・


そう思って逃げる体勢を取ろうとした瞬間だった。


「ガフフフフフ!」


目の前に白い馬体が突然現れ驚くことに木箱の中に口を突っ込む。


「!?」


途端にシンはパクッと通行証もどきを口の中に入れてバリバリと嚙み砕く。その後ゴクンと飲み込んで数秒後ゲッとげっぷをしてすぐにすまし顔に戻る。そのとき、ほんの数秒だがシンの馬体が青く光った気がした。


驚きのあまり最初は何が起こったか理解できなかったがようやく理解が追いつき

ナイスゥゥゥゥゥゥッ!!

と心の中でガッツポーズを決める。


「あちゃーーーーーー」

衛兵は二人共呆れたような目でシンの方を見ている。


「うわっ、どうもすみません、本当にこいつ食いしん坊で気性が荒くて」

俺がとっさにシンの頭に手を置きながらそう謝るふりをする。


「ククククッッ」

隣ではそんなやり取りがおかしかったのかリアが必死に笑いをこらえている。そんなにおかしかっただろうか。


「ああ良いってことよ、ちーっとばかり手続きはめんどくさいけど街の役場で再発行できるからそこでしてもらいな、あんちゃんたちも大変だな」

衛兵たちは気の毒そうな目で俺らを見ているが事実は真逆ですっかりシンに助けられてしまった。こりゃどっかでちゃんとねぎらってやんなきゃな。


そんなこんなで俺らはどうにかテラルド王国に入ることに成功した。





この世界の街というものを初めて見たが主要な道は石畳で綺麗に整備されていて、家は木造やレンガ造りのものもちらほら見えるがほとんどは石造りでできている。石の色はきれいな白から茶色、ときには黄色や青など色とりどりで街に明るい空気を印象付けている。


「ありがとうな、シン、また助けられちまった」

衛兵たちからは十分離れたところまで進んだのを確認していつも通り頭を撫でてやると、シンは嬉しそうにして俺の顔を少し舐めて応える。シンはほんとうに賢いやつだ。


プフッ

隣からそんな音が聞こえてくる。


「アハハハハ!ほんとにおかしい!」

隣でもう我慢できないという風にリアが吹き出す。フードの下でも頬を赤らめているのが分かる。


これだけ辛いことがあったのだから当然だが俺と出会ってからリアはずっとどこか張り詰めた表情をしていた。この子は本来こんな風に笑うんだな、こうしていた方が彼女にはよく似合うなと思った。


「まさかあそこであんな解決方法があるなんて!私うっかりしていて札の外側を魔力で保護するのを忘れていたわ」


「なるほど、それで通行証もどきがはじけそうになっていたのか」


「シンに助けられたわね、ありがとう」

今度はリアが優しく微笑んでシンの頭を撫でる。シンは俺の時より少しだけ恥ずかしそうに目をつぶって応えた。





それからとりあえず俺たちは拠点となる宿屋を見つけた。決して広い宿屋ではなかったが比較的安かったのと何よりも馬小屋がついていてシンを置いておけることが決め手だった。そこで俺たちはいったん休憩しながら次の作戦を練ることにした。


「うーーん、ちょうど1週間ってとこだな」


見つけた宿屋の机の上でじいさんが持たせてくれた銀貨を宿代と食費と照らし合わせて計算する。


どうやらこの世界では金貨、銀貨、銅貨が主に出回っているらしい。宿は2人で1泊銀貨5枚、食費はどれだけ節約しても2人で1日銀貨2枚は必要になる。じいさんからもらった銀貨は40枚だから余裕を持って見積もってそんなもんだろう。それにしても結構なお金を持たせてくれたもんだな、今度それに見合うだけの成果と土産を持って行こう。


「それまでに何とかテラルド王に会うか、定期的にお金を稼ぐ方法を見つけなくてはならないわね」


「そうだな」


「それにあまりゆっくりもしていられないわ。遠目だったからキョースケとシンの個人までは認識できてないでしょうけど、私が白い馬を連れた男に助けられたことくらいはおそらく伝わっているわ。しばらくは大丈夫だと思うけどいずれかはこの国にも調査の者が入り込んでくると思うの」


「たしかにな、おめおめと生活し続けるのも危険ってわけか」


「そういうことよ」


そしてさらに、今現在既にここに大きな問題が2つ存在する


1つ目はシンのことだ。この宿は馬小屋併設でシンを置いておくことができるが、シンの餌と水をどこかで調達しなくてはならない。この費用のことも考えると実際にあと1日くらい猶予は短いかもしれない。


そしてもう一つは、、この部屋が相部屋であることだ。費用節約のためではあるがやはり16歳の少女と同部屋というのは圧倒的な後ろめたさがある。チラッとリアの方を見やると特に気にしていなさそうにマントを外している。


「ほんとに良かったのか?相部屋で」


「仕方ないでしょ、お金もないんだし、それに、、ううん、なんでもないわ」

ちょっとうつむきがちに応えたリアがパッと後ろを向いてマントを壁にかける。


それに、、なんだ?まあいいや、リアがそう言うならばこれ以上俺が気にするのも野暮だろう。


「とりあえず少し休んだら街に出ようか、収入や王様に会う手がかりを見つけたいし」


「そうね、ギルドに行けばこの街や仕事の情報が手に入るわ、そこに向かいましょう」


ギルド!?やっぱりこの世界にもあるのか、この響きを聞いてワクワクしない日本男児はいないだろう。


「何よ、気持ち悪い顔してるわよ」

おっとっと、思わず頬が緩みすぎてしまった。両手で頬を無理矢理持ち上げて真顔に戻す。


「まあとりあえず少しだけ休んで街に出ましょう」


「そうね」

俺たちは少しだけベットで横になって仮眠をとり、日が沈んだ頃に再びマントを羽織って街へ出た。





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