第4話 関所、そして作戦

「姫様、それで俺たちはどこに向かえば良いんでしょうか」

東の隣国テラなんちゃか王国を目指すとは言っていたが俺にはどっちがどっちなのかもさっぱり分からない。


「あちらです、あそこに山が見えるでしょう、あの山の右側の麓に城壁が広がっています」


なるほどその国も城壁に囲まれているのか、どうやらこの世界では都市全体を城壁で囲っているのが普通らしい、それほど戦争が多いということなのだろう。とりあえず目算でもあそこまでは3時間くらいか、どうやら昨晩移動し続けたおかげか既に相当国境付近にいたらしい。


「一国の姫様だったんだな、あんた」


「その、、名前」

後ろから小さな声でそれだけ聞こえてくる。


「え」

思わずまぬけな声が出てしまう。


「その、、私のことは名前で呼んでくれませんか。姫様とかあんたとかそうじゃなくて、、」


「あ、そうか、すみません、、」


「それに、、敬語だったりタメ口だったりさっきからめちゃくちゃですよ。もうずっと普通の口調で良いですよ」


ったく痛いところを突かれたものだ、女の子を名前呼びするのなんて慣れてないし、教養がないのもバレバレじゃないか。しかもそれをおそらく年下の少女に指摘されるのもまた心に刺さる。しかし、常に毅然として落ち着いていると思っていたが意外にこの子もこだわり強かったりするんだな、意外な一面を見れた気がする。


「じゃ、じゃあ、セシリアさん」

恐る恐るそう言うと


「リアで良いわよ、セシリア呼びだとどっかで正体がばれるかもしれないし」

少し不満そうな返事が返ってくる。もしかしたら名前の呼び方を指摘する当の本人も少し恥ずかしいのかもしれない。


「分かったよ、リア」


極限状態から脱したからか俺に少しは気を許したからなのか分からないけど出会った頃よりも感情を見せてくれる。意外と歳相応の女の子なのかもな。


「それで王国に着いたらどうするんだ、いきなり王に会える訳でもないんだろ?」


「はい、まず城壁を抜けて王国に入らなくてはなりません。城壁の門は東西で二つ、そのどちらを通らなくては入国は不可能です、身を開示すれば可能ですができればテラルド王に会うまでは誰にもばれたくはありません。私が隠れていることがばれたらテラルド王国に迷惑をかけることにも繋がりかねませんから」


たしかに、それもそうか、それにリアは気を遣って口に出さないがテラルド国がリアの身柄を拘束して革命国に引き渡す可能性だって十分考えられる。誰にも会わないように国王に会うのが一番だろう。


「それで、、関所を通る手段と王様に会う方法は何か考えてるのか?」


「関所はおそらく私の魔法でどうにかなると思います。ただ、、テラルド王には簡単には会えないでしょうね」


「そうか、まあそっちの方は時間もあるしゆっくり考えよう」


「はい、そうしましょう」


「あとさ、そっちも敬語」


「はい?」

それだけじゃあまりにも言葉足らずだったことに気付く。


「敬語じゃなくて良いよ、こっちだけタメ口だとなんか変だし」


「あ、、普段はほとんど敬語だったから。分かりま、、、分かったわよ!!」


クススス、、思わず笑いがこみ上げてくる。後ろで顔を赤くしている姿を想像する。やっぱり思ったよりも歳相応なのだろう。


トスン・・

可愛らしく後ろから拳を背中に軽くぶつけられる。さすがにこれ以上何か言うと嫌われそうだから話題を変える。


「ところでリアはいくつなんだ?」


「16歳よ。キョースケの方こそいくつなの?」


16歳か、たまに可愛らしいところもあるものの16歳でこの落ち着きと聡明さはやはり大したものだ。とても俺の3つ下とは思えない。


「俺は19だ。3つ年上だな」

ほんの少しだけ得意げに言うと、今の発言こそがまさに子供っぽいことに気付いて後から恥ずかしさがこみ上げてくる。


「19!?同い年か、せめて1個上かと思ってたわ」


おいおいマジかよ、、まあたしかに顔も幼いし小柄だから割と年下に見られがちだったから文句は言えないけど。そもそも小柄なのはジョッキーとして俺の大きな武器だったし。


お兄さんって呼んでくれても良いんだぜ。と言う冗談を言いそうになったが、リアの本当のお兄さんの行方が分からなくなっていることを思い出してぎりぎりのところで引っ込める。


「まあ、、とにかくこれからもよろしくね」

そんな間を嫌ったのかリアがボソッと後ろから呟いてくる。


それから俺たちは色んな話をした。お互いのこと、この国と隣の国のこと、これからのこと。


そこでこの世界について様々なことが分かった。


まずはこの世界には魔法が存在するがほとんどの人は小さな魔法しか使えず攻撃や防御、回復魔法といった魔法は特別な才能を持つ者しか使えないということだ。どうやらリアの家系は代々魔法適性が高く差はあれど皆魔法を使えたそうだ。そうすると魔法の適性は血筋なんかが大きく影響してくるのだろうか。


あとはこの世界には魔物が多く存在することだ。この辺は人と魔力が少ないから発生することはほとんどないが場所によってはとてつもなく強力な魔物が出現するらしい。


それにもう一つはリアのことだ。どうやらリアの家は厳しくもあったがとても優しさと愛にあふれた家庭だったらしい。特に2個上の兄とは良きライバルでもあり遊ぶだけでなくお互い競い合って成長してきたらしい。家族の話をしてくれたが所々でリアの声が優しく震えていた。




途中で道端の大きな木の下でじいさんからもらった軽食のパンと水をいただきながら休憩を取り、やがてそこからさらに進むと城壁がうっすらと見えてきた。その中心には門が開いており馬車のようなものが入っていくのが見える。上を見上げるともうすっかり西日が空を赤く染め上げている。


「それで、、あれどうやって通るんだ?」


「ちょっと待ってて」

そう言うと彼女は両手の平を前に突き出してグッと力を込める。すると手の平のすぐ前に白い光が現れる。


これが魔法なのだろう、当然だが生まれて初めて見た。


やがて白い光が消え、中からいくつものレンズが姿を現す。やがてレンズはぷかぷかと浮かび一定の距離を保って宙に並ぶ。


「望遠鏡かぁ」

あまりに感心してつい声が漏れる。


「そうよ、覗いてみて」


言われたとおりに覗くと門の様子がよく見える。これだけの距離をピントをきれいに合わせてこれだけこれだけの倍率で拡大するなんて一体どれだけ精巧な技なのか俺には想像がつかない。俺なんか高校の授業でレンズが二枚出てくるだけでお手上げだったのに。彼女はきっと数え切れない練習と失敗を積んできたんだろう。


どうやらちょうど馬車が門の横にいる衛兵と何かやり取りをしている。


「あれは何をしているんだ?」


「通行証の確認よ。テラルド王国ではね、簡易的な魔法を組み込んだ通行証を発行してその魔法を専用の装置で読み取ることで出入国を管理してるの」


はえーーー現代日本のIC技術にも引けを取らない便利な技術だな。たしかに何か箱のようなものを衛兵が持ってその上に札のような物が乗っている。


「それで、あれをどう突破するんだ?」


「ん」

リアが門よりも少し後方を指差す。そこには門に向かってゆっくりと歩いている別の馬車の姿がある。


「そうか!奪えば良いのか!」


「違うわよ!そんな野蛮なことしないわよ」

リアがはあとため息をつきながら少し呆れながらそう言ってくる。


「で、、ですよね、、これは失礼しました」

俺が頭をポリポリかきながらじゃあどうするんだろうとわざとらしく目線を上にそらしていると


「複製するのよ」


「え、そんなことできるんですか?」


「あれくらいの術式なら読み取りの時の魔力の流れを注意深く観察すればできるわよ、多分、、」


多分ぅぅぅぅ?本当にそんなんで大丈夫なのかと思いつつまあでもそれしかないんだろうと納得する。まあ俺にできることもないしな。


「だからこれでよく観察するのよ、あんまり近くで魔法を使うとばれちゃうからね」


ひょいと俺よりも少しだけ小さい体を俺の前に割り込ませてレンズを覗き込む。ふんわりと花のような良い匂いが香ってきて一瞬ドキッとする。なんで女の子っていつも良い匂いがするんだろう、っといけないいけない。


そこから5分くらい彼女はレンズをじーっと覗いていた。どうやら門での次に来た馬車の通行証の読み取りを終始観察していたようだ。


そして馬車が門の中に入ると得意げにこちらを見て

「大体分かったわ!まあまあな術式だけど多分問題ないわ、任せて」

とポンと右手を胸に当てる。ほんとに大丈夫かな。


するとまた彼女はさっきと同じポーズを取りさっきよりもオレンジがかった光が現れる。そしてやがてなにやらグルグルとした模様の中に小文字のeに似た模様が描かれた木の札が現れた。


「これを持って検問にかざせば大丈夫よ」


ちょっと不安なところもあるがリアが言うのならば大丈夫なのだろう。自信ありそうだし。


そこから俺たちはグッとフードを深くかぶりなおして城壁の門へと向かった。





======================================

初執筆初投稿になります!どうぞよろしくお願いします!

毎日投稿頑張るので応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る