第2話 過去、そして未来

「私の名前はセシリア・ヴォン・ボーフォート。助けてくれありがとう。」

後ろから透き通るような声が聞こえる。表情を見ることができなかったが彼女が少し微笑んでいるように思えた。


「この距離ならもうどんな魔法も届かないわ、ひとまず安心ね」


「魔法!?」


思わず声に出してしまったが、この世界には魔法が存在するのか、、。幸い彼女は俺が驚いているのをあまり気にしていないようだ。


そして俺はやっぱりここは地獄でも天国でもないことを悟った。地獄や天国にしてはあまりにも生々しすぎる。それに魔法とは、、これはもしかして異世界転生と言うやつなんじゃないか。まさかほんとにこんなことがあるとは、、。とりあえず異世界から来たことは一旦悟られないようにしよう。


「俺は上道恭介。こいつは相棒のシンクラウディウス、シンって呼んでやってくれ。俺たちは、、、、そうだ、旅人だ」

なんて言うものかちょっと迷った。ここはとりあえず旅人ということにしよう。


「キョースケ??変わった名前ですね。出身はこの辺じゃなさそうですね。それに変わった服を着ていますし」


「ああ、小さな村出身でな、珍しいかもな」

慌てて適当な冗談でごまかしながら続ける。


「それで俺はどこに向かえば良いんだ?」


「そうですね、まだ完全に安心はできないわ。きっとあいつらはまだ追ってくるでしょう。とりあえずこのまま東に進みましょう、進めるところまで進んで休める場所を見つけましょう。事情はそこで話します」


彼女もどうやら相当疲弊しているみたいだ。きっと辛いことがあったのだろう、この状況で話させるのも酷だろうな。


「分かった。もう少し我慢して掴まっててくれ」




それから2時間くらいは進んだだろうか、東の空が薄っすらと明るくなっているのが見える。結局あれから俺たちは一回も言葉を交わさなかった。ときおり後ろから彼女がすすり泣く声が聞こえたのが俺の心をチクチクと刺激した。


俺たちは再び森に入り小道を進んでいるとふと森の奥に何か見えた気がした。よく目を凝らすと一軒の家が静かに佇んでいる。あそこなら簡単に見つかりはしないだろうし休憩するにはおあつらえ向きか。


「あそこの家を訪ねてみようと思うんだが良いか?」


「え、、あっ!はい!」

相当疲れていたのだろう、何秒かラグを置いて返事が返ってくる。


正面からもう一度見直してみると質素な造りになっていることに気付く。木造で二階建て、無駄な装飾はなく横には馬小屋と井戸があり奥には畑が広がっている。余生を過ごすならこんな家が良いな。


俺はシンから彼女をゆっくり降ろしてからドアを叩く。

「ごめんください!誰かいますか!」

まだ早朝だが緊急事態だし仕方がない。起きてくれるのを願うばかりだ。


すると予想よりも早く返事が返ってくる。

「どちら様かの?」

しわがれたおじいさんの声だ。


「旅の者で怪我人を抱えています。どうかお助けいただきたいです」

俺がそういうとゆっくりと扉が開いた。声から想像した通りの白髪のおじいさんが出てくる。髭はきちんと整えられ少し細められた目からは優しい雰囲気を感じる。奥には少し離れた位置からこちらを見守るあばあさんと朝ご飯の支度中であろうキッチンが見える。


「朝早くにすみません。私旅の者の恭介と申します。こちら道中で怪我人に遭遇しまして」

知っている限りの敬語を使ってそう言いながら後ろに立つ彼女を見せる。


「な、、なんと!」

するとじいさんが目を丸くしながら彼女の方を見つめる。


「ばあさんやばあさん!大変じゃ!姫様じゃ!」


「え」

姫様ぁぁぁぁぁぁ?たしかにあれだけの部隊に追われていたのだから只者ではないのだろうと思ってはいたがまさか一国の姫君とは、、


思わず彼女の方を振り向くと少し気まずそうにちょこんとお辞儀してくる。


「とりあえず中にお入り」

奥にいたおばあさんも慌てて出てきてすぐに中に入るように促される。


「あの、あとこいつも置いときたいんですけど」


「なんと美しい、、」

後方のシンを指しながらじいさんに言うとなにやらシンの美しい姿に驚いている。


「そこの馬小屋に空きがあるから使うと良い、お二人さんはとりあえず中に入りな」


シンはとりあえず馬小屋の空いているところに置いてもらえることになり、俺らはあまりにも空腹だったためあちらの提案に乗って朝食を取りながら話をすることになった。


20分くらいで4人分の食事が出来上がる。ジャムの乗った食パンに目玉焼きとベーコン、サラダとコーンスープと理想の朝食が机に並ぶ。その間に彼女は包帯と服を貰い応急処置と着替えを済ませ、俺は身体を洗って着替えを済ませた。やっと勝負服を脱げて解放感を覚える。


「わしの名前はピート。こちらは妻でメアリーじゃ。この森で余生を過ごしてるしがない老夫婦じゃ」


「助けていただいてありがとうございます。私の名前はセシリア・ヴォン・ボーフォート。ご存知の通りこの国、ミワ王国のクリス国王の娘です」

なるほど、、この国の国王の娘ってわけか。その娘が追われていたってことはなんか大きな事件でもあったのだろう。老夫婦も察しているのだろう、特に何も言うことなく話を聞いている。


「端的に言います。先日、ミワ王国で革命が起きました。私の両親は殺されミワ王国は革命軍の手に落ちました。王子である兄は当時外出しており行方は分かりません、、。」


俺には想像もできないほど辛いのだろう、声は震え目には涙が溢れている。俺たちは黙って話を聞くことしかできなかった。


「両親は私を命に代えて逃がしてくださいました。優れた魔法士であった両親は最後の力と全ての魔力を使って最高難度の魔法である転移魔法を私に使い城の外に逃がして下さいました。本当は自分が逃げることもできたはずなのに、、。」

振り絞るような声で彼女がそう言う。


「そんな、、革命なんて、私たちは皆国王様を支持していて大好きなはずです。一体なぜ、、」

おばあさんが涙を浮かべながら信じられないという風にそう言う。


「それも全部ずっと信頼していた重臣のカラム・リー・リーパーという男の策略にはめられたのです。

彼はとても野心家で狡猾な男です。今世界各地では戦争が勃発しています。しかし、父上は平和主義者であり決して戦争を是とせず話し合いの姿勢を崩しませんでした。しかし、自分の国の勢力をもっと拡大したいと考えていたカラムはそれが気に入らなかったようです。彼は領土と国力の拡大を望む臣下を味方に引き入れました。


 彼はさらにひどいことをしました。つい半年ほど前に西の諸国で大きな戦争があったのはご存知でしょう。その際、亡命してきた奴隷を父上は保護なされたのです。しかし、カラムはそれを財政難を解決するための奴隷売買だという噂を裏で流しました。もちろん大半の国民はそれを信じませんでしたが、カラムはそれに反感を覚えた一部の人々を協力者として集めました。そして昨晩城にカラムの手引きにより革命軍が攻め込みその奇襲と数に圧倒されて私たちは追い込まれました。両親は魔法によってその身を焼かれましたが防御魔法も使わず私のための転移魔法を最期まで唱え続けました。城壁の外に飛ばされた私はそのまま城とは反対の森の中に逃げ込んだところでこの旅人キョースケに助けていただきました。


 半年も前から計画は動いていたというのに私たちは彼を信用していたために全く気付くことができませんでした。彼だって父上と母上にはたくさんお世話になったはずなのに、、」


悔しさと悲しさの現れだろうか、所々語尾が震えている。それにしてもひどい話だ、恩義も義理も忘れて仇で返すとは、、。カラムという男には強い憤りを覚える。


「そんな、、革命が起きていたなんて、、あんなに優しいお方が」

優しい目をしたじいさんの顔が悔しそうに歪む。


「この後はどうするつもりなんだい?」

心配そうな目でおばあさんが尋ねる。


たしかに、、革命軍はまだ探してくるだろうしずっとここを危険にさらすわけにもいかないだろう。


「東の隣国テラルド王国を目指そうと思います。テラルド王と父上は非常に交流が深くとても良い関係を築いてきました。私自身も何度か訪れたことがあります。それにテラルド王には父上と母上のことも報告しなくてはなりませんから、、」

両親のことを話す度に彼女のエメラルドグリーンの瞳がかげる。


しかしそれも一瞬で、彼女はパッと顔を上げて凛とした表情で続ける。


「そして私は絶対に私たちのミワ王国を取り戻します。決して裕福ではなかったかもしれませんが、民は優しく、心は豊かで、とても温かい、私はそんなミワ王国が大好きでした。そんな王国をあいつらの好き勝手にはさせません」


彼女のその固い決意に俺たちはただ固唾を飲んで聞き入ることしかできなかった。思いを馳せているのだろう、彼女が胸に手を当てて目をつむっている。


少しの時間が経ち、さぁもう大丈夫よ、というように彼女が目を開けるとやっとじいさんが口を開く。


「分かった。ではもう少しだけここで休んでいくと良い。この家は分かりづらいところにあるしそうそうすぐには見つからんじゃろう」


「ありがとうございます。一眠りすれば使い果たした魔力も回復して傷も癒せると思います。本当に何から何までありがとうございます」


そうか、両親が魔法を使えることを考えたら彼女も魔法を当然使えるのだろう。ただ魔力なるものが切れていたから今まで使えなかったのか。


それから俺たちは今後の方針について軽く話し合いながら朝食を食べ終え、それぞれ用意された来客用の寝室へと案内された。とりあえず俺たちはもう少し休んでから日が暮れるまでには街つけるよう昼過ぎに出発することになった。俺も夜通しで走って疲れたしここは甘えさせてもらって眠るかと寝室に入ろうとしたところ


「キョースケといったかのう、ちょっとだけ良いかの」


「え、あ、はい」

じいさんに急に呼び止められ俺は足を止めた。




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