転生ジョッキー~異世界でも俺たちは最速タッグであり続ける~
冷静パスタ
第1話 転生、そして出会い
史上最年少19歳でGⅠ皐月賞、日本ダービーを制覇し波に乗っていた新鋭ジョッキーの俺、上道恭介と無敗の二冠馬シンクラウディウスは無敗の三冠馬になるべく運命の一戦菊花賞を迎えたのであった。単勝オッズは驚異の1.1倍、まず三冠は間違いないだろうと世間の呼び声は高かった。
ターフへと出た瞬間会場に割れんばかりの歓声が響く。俺の相棒であるシンクラウディウスの美しく白い馬体とシンボルマークである右目の下の黒いしずく模様は見るもの全てを引き付けた。
「シン、、今日もよろしくな」
いつも通りその頭をさすってゲートへと向かう。
そして、ついに運命のレースを迎え、、、、俺、、いや、俺たちは死んだ。
「今日も気持ちよく逃げている!!!! 今日も逃げ切るのかシンクラウディウス快調です!!」
今日も今までと同じ逃げのレースとなった。無尽蔵のスタミナを誇るこいつならこの長いレースも勝ち切れるだろう。今日も余力を残しながら最終コーナーを迎えようとしていた。
「おーーーーっと!! ここでアスメアルド!! 早くもスパートをかけてきた!」
同世代で二番人気の馬、アスメアルドが早くも追い込んでくる。
全く無茶な、、実力で勝てないからとイレギュラーな作戦で来たか。どうせすぐにばてるだろう。ここは自分のペースを乱さず慎重に。
大きな馬体を揺らしながらアスメアルドが前に出て最終コーナーに入る。最終直線が見えてきてコーナーも終盤、一斉に全馬がスパートをかけてくる。しかし、俺たちは今日も強い、最後のスパートをかける。1馬身ほど前、外目を走るアスメアルドは舌を出しながらもう無理と言わんばかりに走っている。
ほら言わんこっちゃない、、そう心の中で毒づいたその時だった、、、、
グラッ、、
前を走るアスメアルドが明らかに普通ではあり得ないバランスの崩し方をした。急激な減速と共に内側によろける。
くそ!! 骨折か心臓発作か、、そう直感で悟った。このまま内側で転倒すればラストスパートをかけている後続は間違いなく大事故になるだろう。
自分一人なら外から躱せる!!大きな期待と責任を負った俺にはこれ以外の選択肢をほんの一瞬考えることが精一杯だった。
俺は目一杯手綱を外側に引っ張った。
「!?」
その時、俺の意思に反して手綱とは反対の向きに強く引っ張られた。俺たちが出会ってから初めて感じる感覚だ。
シンはとにかく賢かった。世間はそのスタミナに注目しているが一番の強さはその賢さにあると俺は知っていた。ペース配分も忠実だし、スタートもいつだって完璧で、本番の前にはまるで本番であることを分かっているかのように落ち着いていた。そして何より、いつどんな時も俺の騎乗に従ってくれていた。
そんなシンが初めて俺に逆らったことが俺は特別に思えてならなかった。こいつは賢いから今の状況を分かっているのだろう。
「しょうがないなぁ」
俺は少し微笑みながらそう呟いて手綱を内側に戻した。
ドンッ!!
次の瞬間今まで感じたことのない鈍く大きい衝撃が俺を襲う。内側に倒れ込んでくるアスメアルドがシンの馬体によって跳ね返され外側に崩れていく。
しかし、そこで終わらなかった。
大きく外にそれようとしていたアスメアルドの後ろ足がシンの前足に引っかかったのだ。
しまった!!!!
そう思った時にはもう地面と空は入れ替わっていた。
ドスッ!!
鈍い音と共に頭が強く地面に打ち付けられた。痛い、苦しい、そして何より息ができない。ふと横を見るとちょうどシンがいる。シンも苦しそうにもがいている。その先に後続の馬たちが無事ターフを駆け抜けていくのが見える。
「ごめんな、、ありがとうな」
俺はシンの顔を見てそう言い、そこで生涯を終えた。
目が覚めると見たこのない天井、、ではなく空だった。いや空は無論見たことあるのだがこんな綺麗な空は見たことがなかった。満点の星に大きな満月、こんな綺麗な空を俺は知らない。
「ガフガフ!」
次の瞬間、今度は見たことのある舌が視界を覆った。間違いない、シンだ。シンは出会った時からよくこうやって顔を舐めて甘えてきた。
「シン?」
見上げると手綱も鞍も蹄鉄もレースに出たままの姿のシンがそこにいた。よく見ると俺も勝負服の姿のままだ。
俺はシンの顔をさすりながらそっと状態を起こして辺りを見回した。
「なんだこれは?」
周りは木々に囲まれていてどうやら森のようだ。そして、背後には神殿のような謎の石でできた二階建ての一軒家くらいの建造物、小さいピラミッドのようなものが鎮座している。どうやらここだけ空き地になっているようで正面には道が見える。
なんだここは、、たしか俺はレース中で、そうだ、、転倒したんだ。
「ってことは死んだからここは天国か、いや、地獄かもな。まあ、シンがいるなら天国か」
そんな冗談を呟きながら俺はシンに微笑みかける。
しかし、シンはどことなく元気がない。シンボルマークのしずく模様がいつもと違って本当に泣いているように見える。きっと、自分のせいで俺が死んでしまったことを気に病んでいるのだろう。
「ごめんな、シン。お前に重要な決断をさせちまって。正しい決断をするのはジョッキーである俺の役目なのにな、、ありがとう」
俺が微笑みかけながらまた頭を撫でてやると少しだけ元気を取り戻したように見えた。
それにしてもおかしいな、天国にしても地獄にしても誰もいないじゃないか。天使様だの閻魔様だのの一人や二人いても良いじゃないか。
とにかくこのままじゃ埒が明かないし探索してみるか。こうして俺たちは正面の道へと向かった。
月明かりが明るく道はまあまあ整備されていて土ではあるが起伏は少なく、俺もシンも歩くのには苦労しなかった。どうやら森はそんなに大きくはないようだ、道の先には大きな平地が見える。
あそこをこいつと走ったらめちゃくちゃ気持ち良いだろうな~
そんなのんきなことを考えた次の瞬間だった。
ザザッ!という音がしてすぐ横の茂みが動いた。
何かいるのか? いよいよ閻魔様の登場かなやれやれと冗談交じりに思いながらのぞき込むとそこにはそんな冗談とは真逆の光景だった。
長く美しい金髪、まだあどけなさの残る顔立ち、月明かりを強く反射するエメラルドグリーンの瞳。まさに天使がいるとしたらこの子だろう。
ただしそれは彼女の全身がぼろぼろなことを除けばの話だ。
そこには高校生くらいの女の子がしゃがみながらこちらを警戒し、怯えていた。
白いワンピースはとことどころ破け体の擦り傷が露わになっている。どうやら脚もケガしているようで右脚を両手で抑えている。
そして、彼女は透き通るような声で
「必ずあなたたちには天罰が下るわ!!絶対に許さないから!!」
とそう言い放った。
やっぱ俺地獄行きかーーーと心の中で泣きながらとりあえず状況を確認しようと口を開いたその時
「あっちだ!!あっちから声が聞こえたぞ!!」
遠くから馬の足音と共に怒号が聞こえる。
どうやら彼女は追われている身であり万事休すのようだ。俺がこなしてきたゲームとアニメの経験上選択肢は一つしかなかった。
「こんなこと急に言われても信じられないかもしれないが、俺は君の敵じゃない。俺に賭けてみないか」
「え?」
彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたがすぐに表情を引き締めて無言で頷いた。
「急いで乗ってくれ」
俺は彼女の体を支えてシンに乗せて、その前に座って手綱を握った。
もう道の後ろにはぼんやりと追手の姿が見えている。
「あそこだ!急げ!」
遠くから追手と思われる者の声が聞こえてくる。
「しっかり掴まっててくれよ、行くぞ!シン!」
彼女は俺の腰に手をまわしてしっかりと掴まる。少しドキッとしたのはどうやらばれていないようだ。
強く手綱を引くとシンは静かに平野の方へ走り出した。
道は所々曲がっていて追手を直視することはできないが響き渡る足音と怒号から大体距離は100mといったとこだろうか。道が曲がりくねっていて木々に囲まれているおかげで飛び道具が飛んでくる心配はないがシンのスピードを出し切れない。
「あそこ!分かれ道になっています!あそこを右に曲がって森で撒きましょう」
彼女が後ろから必死に叫ぶ。
だがそれではこいつの全力を出せない。俺は平野へと続く左の道へ手綱を引っ張った。
「なんで!!相手は革命軍の精鋭の騎馬隊なんですよ!!まともに逃げようとしたら追いつかれるに決まってる!」
次の瞬間、森を抜けて平野へと飛び出る。眩しいばかりの月明かりがシンの美しい馬体を照らす。シン自体が青く光っているように見えるのはきっと月明かりのせいだろう。
「大丈夫だ。俺たちに追いつける奴なんていない」
俺は微笑みながら彼女にそう言う。
「え?」
精鋭の騎馬隊なんて初耳なんですけど、、でもまあそんなの関係ないな。
ーーーーーーーーーーーーーーーなんせお前は最強の逃げ馬なんだからーーーーーーーーーーーーーー
俺はにかっと笑いながら言い放つ。
「さあ、思う存分走れ、シン!」
それを聞くや否やシンが一気に加速する。
「キャッ!」
予想以上の加速に驚いたのか彼女の腕に入る力も強くなる。これにドキッとするのもさすがに不謹慎か、などとあほなことを考える。
シンは森の中で思い切り走れていなかったもやもやをはらすように気持ち良さそうに加速する。
「うそ、、信じられない、、王国のどんな馬も騎士もこんなに速くは走れないわ」
後ろとの距離はぐんぐん離れていく。
「凄いわ、、これなら余裕で逃げ切れるわ、、」
チラッと後ろを見るともう追手は200m以上は後ろを走っている。火矢か何かだろうか、炎の飛び道具をこちらに向けて飛ばしているようだがこの距離ではまるで届かない。
「よし!!このまま行くぞ」
彼女には悪いが今の俺には彼女を助けるとかは関係なかった。ただ、シンとこうやってまた思う存分走っていることが楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
俺たちはもう一度思い切り一緒に走れる喜びに身を任せて走っていた。そして、追手の姿はどんどん小さくなりやがて見えなくなった。
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