第51話 夢
◆◆
陽菜子は結界班のワゴンでセーフハウスまで送ってもらうと、小林・津村組と交代することになった。
やはり女性がいたほうが何かと都合が良いということだったが、大和田家の様子は会話もなくただぼんやりと過ごしているようだった。
仕方がないので課長がコレクションしていたDVDプレイヤーとDVDの映画を大量に運んでもらい、それを垂れ流すことで過ごしてもらおうということになっている。
小林と津村はひどく疲れた様子で交代していった。
「お姉ちゃん」
妹の真由はとても陽菜子のことが気に入っているようで、交代でしばらく一緒になるということが分かってから隣にちょこんと座って静かに折り紙を一緒にしようと誘ってきていた。
護はコンボの練習成果を見てもらいたいようで、折り紙をしつつ適切なアドバイスを上げると陽菜子に認めてもらいたいようで張り切って練習している。
無論、二人の宿題はきっちり終わらせている。
陽菜子も年下の面倒は慣れたもので、様々な折り紙を作っては真由を喜ばせていた。
真由が作った折り紙を褒めていると抱き着いて甘えてくるのが、陽菜子にはたまらなくうれしかった。
「本条さんは本当に子供の扱いがうまいのね、女性警官はそういった訓練もされるのですか?」
皐月が微笑みながら問いかけてきた。
「いえ、私は児童養護施設出身なので、小さい子の面倒見るのは必然でしたので自然と身についちゃいました」
あっけらかんと、自然なことのように話す内容にしばし受け止め切れていない様子の大和田夫妻であったが、健三が目を逸らし、皐月はお決まりの台詞を口にした。
「あのその、ごめんなさいね」
「いえ」
笑顔を崩さずに答えたが、やはり八神は変わっていると陽菜子は思う。
(色眼鏡で見ないのがあの人の希少な長所なのよね)
「本条、そろそろ夕飯が届く時間だから受け取りに行ってくれ。俺は鮫島さんにちょっと連絡しなきゃいけないことができた」
「了解でーす。真由ちゃん、夕飯受け取ってくるからちょっと待っててね」
「うん! お姉ちゃん、色々ありがとう助けてくれて」
「もう、かわいんだからぁ」
ちょんっとつやつやのほっぺを突っつくと、きゃははと真由は喜んだ。
陽菜子が夕飯を取りに行っている間。
「おい皐月、あいつを真由に近づけないようにしろ」
「ど、どうしてですか? 人見知りの真由ちゃんがあんなに懐いてるのに」
大和田健三は、ふてぶてしそうに不満と怒気を乗せて呟いた。
「育ちが悪すぎる。娘が変な影響を受けたらどうする気だ」
「……」
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一度寮に戻ってシャワーと着替えを済ませてきた陽菜子は、寝袋を持ってセーフハウスへと戻った。
こういう時に女性警官は何かと家族に寄り添えるので、一緒に部屋で寝泊まりすることになる。
「陽菜子お姉ちゃん、お隣で寝てもいい?」
陽菜子は母親の皐月に視線を移すと、穏やかに微笑んでくれたため、「うん」と頷いた。
真由はまるで修学旅行にでも来たかのように喜び、寝るまでいろいろとお話をしてくれた。
護も気になったのか、警察の話を何度か質問してきたので先輩から訊いたおもしろ事件などを教えてあげると目を輝かせて喜んでくれた。
「もう遅いんだ早く寝なさい! 婦警さんもいい加減にしてくれないか」
「あ、失礼しました。じゃあ皆さんおやすみなさい」
(婦警の呼び名はとっくの昔に廃止されて、今は 女性警官 なんだけどなぁ。官僚でもこういう間違いするんだね。わざとかな?)
陽菜子は持ち前のポジティブさを引きずりだすと、さっさと寝てしまうことにした。
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気づくと、夢の中にいた。
霧の立ち込めるお花畑のような場所。とても心が落ち着く空間だった。
正面から人影が近づいてくる。霧で滲んでよく見えないが、どうにも小柄な女性のよう。
3mほどの距離まで近づいたところで、その人が江戸時代ぐらいのお姫様がしているような髪型や着物姿であることに気付いた。
とても凛とした美しい女性だ。だが嫌な印象はなく、穏やかな笑みを浮かべていた。
『当家の者が世話になっております。現当主の不甲斐なさ、無礼な振る舞い言動をお詫びいたします』
綺麗な鈴の音のような言葉でその姫様は頭を下げた。
「そんなそんな、わたしは気にしてませんよ」
『誠、お主はお日様のような娘よの。そしてわらわが守護する真由を守ってもらい、かわいがってくれてありがとう』
「ああ、真由ちゃんが家族を守りたいと思う心に力を貸してくれていたのですね」
『あの呪符は非常に邪悪で強力なものじゃ、お主もゆめゆめ油断することなきよう』
「はい、気を付けて対処します」
『あまり時間がないのでな、最後の忠告じゃ。数に気を付けなさい、あれはなんというものだろう、そこにも……』
霧が深くなる。
姫様の言葉が遠く、残響のように頭で木霊していた。
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はっと気づいたとき、目の前に顔があった。
それは眠ったままで陽菜子のおでこに、おでこをくっつけていた真由の姿だった。
すっと崩れ落ちるように布団にぽてっと転がった真由は、再び布団をかぶってすやすやと眠りに落ちていく。
陽菜子は夢の中での出来事を必死に思い出そうとしていた。
真由を通じて先祖の姫が力を行使して家族を守護し、あの家に貼りつけられた呪詛から守ってくれていたと八神や白鷺美冬が話していた。
姫が最後に言っていた言葉がうまく思い出せない。何に気を付けろって言っていたのか。
再び眠りの海に引き込まれていく陽菜子は既に幸せそうな寝顔を浮かべていた。
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