第48話 調査
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霊事課が所有するセーフハウスとは、地脈や風水、家相、その他様々な守護結界や神仏の加護が働くように用意された霊的な意味でのセーフハウスであった。
それは都内某所のごくありふれた一戸建て住宅ではなく、ある雑居ビルの3階であった。
ここは龍脈や気の流れが素晴らしく、並みの悪霊程度ではビルを認知することすらできない見る人が見れば最高の物件ではある。
だが築数十年であまり綺麗とは言えず、さらには住居として使える部屋は少なくそこを風水的処置や結界などを考慮すると、絶対的に安全なのはこの3部屋になってしまう。
こういった部屋に押し込められた大和田家、特に大和田健三氏のイライラはかなりのものだった。
「首のあたりが妙に違和感があるのは、その憑りつかれた影響なのかね?」
「ああ、多分そうです」
津村がごまかし、小林がうんうんと頷く。
妻の皐月が一瞬気づいたものの、はっとして口をつぐんだ。
0時近くになり、子供たちが疲れて寝てしまった頃、スーツやらを抱えた八神と陽菜子がやってきた。
「心配したぜ八神」
「そっちも問題ないですか?」
「今のところはな、このセーフハウスは対したもんだぜ」
「あの、お手数おかけしてすいません」」
妻の皐月が申し訳なさそうに頭を下げる。
常識のある人で良かったと、八神が抱えていたスーツを手渡した。
「とりあえず一階のクローゼットにあったスーツとワイシャツは全部持ってきました。それとメモにあった子供たちの荷物類は」
「こっちでーす」
「ああわざわざすいません。女性の方がいてくれて助かりました」
皐月は何度も頭を下げてお礼を言ってはいるが、大和田課長は憮然とした表情で気に入らないという感情が漏れ出ていた。
「そんなにスーツを持ってくるとは、どういう了見だ! こんなところに長居するつもりなんてないぞ!」
「自宅の状況はかなり悪いです。今戻れば安全は保証できませんよ」
「それをなんとかするのがお前たちの仕事だろ!」
小林が舌打ちをし、津村が露骨なあきれ顔。八神は表情を変えず立ち尽くし、陽菜子は……
「奥さん、荷物の整理手伝いますね」
「あ、ええありがとう」
「しかし大変ですねお子さんが多いと」
「男の子と女の子だから、好みとか違って色々大変ですね」
リュックに入った着替えなどを備え付けの箪笥に移しながら、陽菜子は持ち前の明るさで場を和ませていく。
「しかしだな、なんでテレビもないスマホもだめ、固定電話もないんだ! さすがに監禁というレベルじゃないのか」
大和田は何かとケチをつけたいらしく、疲れ気味の小林がお手上げポーズを八神にしてみせた。
「ああいう奴らは、ネット回線や電話回線、テレビからだってやってくるんです。あなたたちを守るためには必要な措置になります」
「なんでうちがこんな目に合わないといけないんだ」
「それは明日、専門家と共にご自宅を調査させてもらいますが、かまいませんね?」
「どうせ売るしか道がない家なんだ、好きにしたまえ」
そう言い捨てると、大和田課長はそそくさと自分の布団へ潜り込んでしまった。
夜間はこのまま小林と津村が護衛についてくれるとのことなので、陽菜子と八神は翌朝交代として対応することになる。
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翌朝、課長から受けた指示は別の物になった。
「じゃあ本条、護衛というか見張り役を頼むぞ」
「うちからゲーム機持ってきたんで、真由ちゃんと護君と一緒に遊んでおきますよ」
何やらゲームができることがうれしいようだが、買い込んできたおもちゃや画用紙、折り紙などもあるから子供たちと遊ぶこと事態が楽しみなのかもしれない。
「ほどほどにな本条警部」
「先輩たちも気を付けてくださいね」
「陽菜子ちゃん、くれぐれも通信はさせないようにね」
「はーい! ゲームもオフライン徹底しますから」
片手をあげて八神の車が発進する。
陽菜子はこの日、子供の相手が苦手な浅野と桐原の助っ人として急遽担ぎ出されたのだ。
八神は早朝から大和田課長のために特製の護符を持ってきた白鷺美冬とともに、大和田家に向かう。
「あんたの車に乗るのも久しぶりね。まったく朝から大変だったわよ」
「文句は課長に言ってくれ、そして成果の有無は来年の予算を見て判断してくれ」
「世知辛いはねまったく。それにしても、陽菜子ちゃんはよく納得したわね」
「あいつが現場経験を積みたいのは本心からだろうが、今回は子供たちと遊べることに食指が動いたらしい」
「無邪気よね、だからこそあんな陽の気が発せられるのかな。まあ今回に限っては陽菜子ちゃんがいないほうが良かったかもしれない」
「?」
美冬はコンビニで買ったカフェオレを飲みながら答える。
「その家にあった例のステッカーだかシールね、陽菜子ちゃんの陽の気があると光が強すぎて見つけられない可能性も出てくるのよ」
「そういう弊害もあるのか」
「ほんの些細な弊害だけどね、今回はそのステッカーの正体を確かめてあれかどうかを判断しないとね」
「だとしたら厄介だが」
「大丈夫、たいていのものは私が対応できるから」
「まじで、いつも助かってる」
「い、いきなりお礼言わないでよ、ばか」
窓の外を見てカフェオレーをじゅーじゅー言っている美冬に、八神は首をかしげながら昼飯の相談を始めた。
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八神と白鷺美冬、そして遅れて応援に来た結界班が3名。
5人が大和田家の捜索を開始する。
「ん~みんなはどう?」
「えっと、多分12かな~」
「私も12」
「八神はどう?」
「俺の感覚は弱いからな、正確な数を言い当てるまでは厳しい」
「なら12前後ってことで宅内を探しましょう、まずは場所の特定。八神は二階に行く子たちの護衛ね」
「了解した」
白鷺美冬は嘱託の職員のため、霊事課での仕事の他に一般からの依頼もこなしている。
時折事故物件の調査やお祓いなども頼まれるため、こういった作業に慣れており結界班の皆も美冬に全幅の信頼を置いていた。
実力的には美冬の能力は卓越しているのだという。
時間にして30分ほど。
探索と言っても霊能である程度の当たりがつけられるため、一戸建ての中はそれほど時間がかからなかった。
「剥がす作業は後にしても、12か所特定できたわね。なんというか分かりやすい場所に貼ってあって意外だったわね」
「箪笥の上とか、冷蔵庫のドアとか、比較的目立つ場所にばかりありました。後は下駄箱とか」
八神はこれらの場所を確認してみてあることに気付く。
「中沢さんは身長いくつぐらい?」
「え? 私ですか?155cmです」
「どうしたのよ八神」
いきなりまだ19才の中沢に関心を示した八神に、白鷺美冬からの強烈な念が飛んだ。
「いや、ちょうど大和田皐月さん、つまり大和田課長の奥さんと同じぐらいの身長だと思ってな」
「どういうこと?」
「中沢さん、12か所で手が届きにくい場所がないかもう一度確認してもらえないか?」
「ああなるほどそういうことですね」
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