第31話 ネッド

 バルマーは八神たちが想像していたよりも、陽キャに見える人物だった。

 髪はライトブラウンに染めたロン毛でおしゃれには相当気を使っているように見える。

 こういう男が陽菜子に近づこうとしていると思うと、どこか親心的な気分で心配になってくる八神。


 「陽菜子ちゃん、ああいう見た目にエネルギー全振りな男はやめときなさい」

「やめときなさいって、ゲーム上で同じチームってだけですよ」

「ん~思ったより生霊はない……あら? 子供の霊がいっぱいついてる? なんか懐かれてるじゃない」

 白鷺美冬の霊視に思わずびくりとする陽菜子だったが、そういえば将来は保育士になりたいと話していたことを思い出した。

 「そういえば保育士資格を取るための勉強してるとか」

「へぇ見た目に似合わず……」


 RINEで通話しながら近づいてきたバルマーという大学生は、見た目はチャラついた男に見えるもののひどく怯え気味だった。


 それはそうだろう。

 八神が妙にきつい表情で睨みつけているからだ。


 「おい、俺たちに何か言うことはあるのか?」

「ひぇ! な、何もないです、怖いです! い、命だけは!」


 怯えて腰を抜かしかけているバルマーを見る限り、何も知らなそうというのは八神にも伝わる。

「大丈夫よバルマーさん、えっと少し話せる場所に移動しましょう。


 すぐ近くの遊歩道沿いに公園があったので、バルマーを取り囲む形で話を聞くことに。


「え!? ええええええええ!? ブラッディーホープさんって警察の人だったんですか!」

「大きい声で言わないの」


 八神は強引にバルマーのお尻ポケットから財布を抜き取ると、手慣れた手つきで学生証を取り出した。

「何々、小西昭こにしあきら  19歳 大学生1年生 住所は……」


 カシャカシャとスマホのカメラで黙々と撮影する姿に、その場は静まり帰っている。


「えっと、バルマーさん、バルマー小西くん 君が連絡してくれたあのメッセージは本当に心当たりがないのね?」

「ないですよ、だってただの迷惑メールとか嫌がらせのメッセージと思ってましたから。でもブラッディーホープさんを名指しでコメントしてくるのが続いてたんで、一応連絡しといたほうがいいかなって」


 すると八神はスマホで連絡を取る。相手は増田だ。

「増田さん、バルマーという大学生は無関係でただの中継地点で間違いないようです。白鷺もそう言ってますんで」

『分かりました。こちらも独立系のシステムで返信してみますから、反応があり次第また連絡してみます』


 「あの、僕何かとんでもないことに巻き込まれてたりしますか?」

 顔色が悪くなってきたバルマー小西を見ていると、なんだか気の毒になってくる。


 「巻き込まれてはいないが、通過点として利用された可能性はある。まあ問題ないだろう」


「そ、そうですか。えっとブラッディーさん、俺大丈夫ですかね? このことは口外しませんからどうか助けてください」 

 不安なのか既に半べそをかいている。


 「君さ…… ねえ、父方の実家って何してるの? なんでそんなに恨まれてるのよ」

「ええ!? えええええ!? な、なんで知ってるんですか! 調べたんですか!?」

「母方のおばあちゃんがすごく心配してるのよ、ひどく恨まれている一族でお父さんが昨年亡くなったのも突然だったでしょ?」

「えええええ! ま、まじですか!?」


 白鷺は小西をベンチに座らせると、肩に手を置いて祝詞を唱え始めた。

 時間にして5分少々。


 「もういいわよ、これで不運体質は少し改善するはず。対処法はおばあちゃんが言うには、母方のお墓参りを欠かさないようにして母方の血筋から守ってもらうしかないそうよ」


 「た、たしかに、おばあちゃんはずっとお墓参りだけは欠かさないようにってママによく言ってたけど」


「明日は土日だから実家に帰ってお墓参りに行ってきなさい。できるだけ全員で」

「わ、わかりました! えっと、お姉さん……」


 そこでようやく白鷺の顔をまじまじと見た小西は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


「何よ!?」

「えっと、そのありがとうございました」

「分かったならすぐ帰りなさい」

「は、はい! え、えっと、そのブラッディーホープさん、またよろしくお願いします。めっちゃかわいかったのはみんなには内緒にしときますね!」


「そのブラッディーホープって呼び方はもう辞めてよね!」

「では! ありがとうございました!」


 小西が帰っていったのを見送った八神達は、ちょうど増田から連絡が来ていた。


 『八神さん! あのメッセージを送った人物は自らをディビアントと名乗ってます。意味は逸脱者ってところでしょうか』


 「ディビアントね、奴の狙いは目的は分かったか?」


『アンプティーの居場所を知っていると。教えてほしいと返信しましたが、条件があると』


「条件は?」

『それが……、会って話がしたいと』


「それは好都合だが、日時は?」

『豊島区目白にある喫茶店ハニーブロンド に14時 を指定してきました。二人で来ることを条件にしています』


 「二人とは、本条ともう一人ってことか?」

『本条警部と、八神警部補 の二名を指定してきました。八神さんの名前も把握しているので、もしかしたら警察内部の情報が漏れている可能性が考えられます……』


 「行くしかないだろう。白鷺は離れた場所で待機してくれ」


「分かったけど、大丈夫なの?」

「ここまで膠着状態になっているなら、ガセであっても真偽を確かめないわけにはいかないだろう。本条はどうだ? 嫌なら拒否してもかまわないぞ。そのために白鷺に代役で来てもらったんだ」

「いえ! 行きます。指名してきたってことは、前からマークされてたってことですよね。ストーカーみたいで気持ち悪いのできもいと言ってやります!」


 陽菜子は車内で美冬から色々とアドバイスや身だしなみのチェックをされていた様子を見ていると、覚悟は決めているようだ。


 「増田さんはスマホを繋いだままにしておくんで、ナビ、サポートお願いします」

『はい! なんだか緊張してきましたけど、うれしいです。憧れてたんですよね椅子の人!』


「椅子の人?」

『24だと、CTUのクロエ、スパイダーマンだと親友みたいなね』

「ああ、頼りにしてるよネッド」


『了解!』

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