第27話 鮫島
◇
霊事課のオフィスは緊張に包まれていた。
応接室と言っても急遽みんなでそれらしくソファなどを運び込み、押し込んであった祭具などを更衣室へ押し込み体裁を保ったものだった。
「八神の馬鹿のせいで、ただでさえ疲労溜まってんのに疲れたぁ」
霊事課の刑事や結界係、霊視係、そして佐々木他事務職も総出でなんとか間に合ったという状態。
そして八神、陽菜子、課長の3人が、警視庁の鬼刑事 鮫島誠と対峙していた。
そこへなぜか白鷺美冬がスーツ姿でお茶を届ける。お茶菓子は、おやつに食べようと思っていた大福を泣く泣く提供するはめになった。
(後で八神に倍返ししてもらうから!)
恨みがましい目で睨まれた八神は、一瞬ぎょっとしたものの鮫島の前なので覚悟を決める。
「私が課長を務めております
「警視庁 捜査一課 鮫島誠 警部補 です」
両者が起立の上、敬礼で応じる。
課長が着席を促し、両者が対話の状況に入る。
「単刀直入に言いますがね、ありゃなんですか? トリックや手品、そういった類のもんじゃないことは俺だって分かる。突然空中から人の皮膚が降ってきたっていうか、涌いてきたっていうか、とにかく突如現れたんですよ」
「八神、それはお前の目から見ても事実なんだな?」
「はい」
課長はいつになく真剣な面持ちで考え込んでいる。
「八神! お前から説明しろ! というかここはなんだ!? 情報支援室!? 嘘つけこら!」
”
とりあえず、課長たる私から話しましょう鮫島さん。
まあ簡単に言いますと、ここは刑事局 霊事課 霊事課ってこのような字書きますはい。
驚かれるのも無理はありません。
ぶっちゃけて言えば、霊能力を持った捜査官や民間の嘱託職員によって捜査の支援、もしくは捜査そのもの、逮捕を行う部署になります。
無論、警察庁上層部は把握していてむしろ上からの肝いりで設立されたのがこの部署です。
彼ら、そして一部の政治家たちはここをこう呼びます。
霊事警察 と
”
「まじか。噂は聞いたことがあった。FBIに国費留学までさせてもらった八神が閑職に回されたなんて聞いたときはありえねえ! と思ったがそういうことだったのか」
「言えないことも多いんですよ」
「そうだろうがなぁ。大概の事件はお前らが前線でりゃすぐ解決だろうに」
「それがそうもいかないんです。霊ってのは生きてる人間とは違ってコミュニケーション取れるケースが少ないんですよ。恨みつらみ、名残惜しい後悔をただ独り言のようにつぶやくのがほとんどです」
「そんな都合よくはできちゃいねえんだな。それでもよ得られるものってのは大きいのか?」
意外にも食いつく鮫島に課長と八神は質問に答えていく。
「先日、保護責任者遺棄と殺人の容疑で逮捕された母親の件があったでしょう、あれ解決したのがうちの八神と本条です」
「八神ぃ、てめえ、腐ってなかったんだな」
「鮫島さんって、優しいですよね面倒見が良くて」
「う、うるせえな! そんなんじゃねえよ!」
顔を赤くして照れている姿に、思わず陽菜子は笑ってしまった。
「ツンデレって奴ですね」
「お、おい嬢ちゃんまで何言ってんだよ」
課長にお茶をすすめられ、一息入れてから改めて話がされたのだ。
「鮫島さんに提案があります」
「な、なんだよ、俺は生まれてこの方幽霊なんざ見たことねえぞ!」
「そうではなく、捜査一課の中に協力者がいると助かるのですいろいろと」
「俺にスパイになれってことか!?」
「そうではなく、連携してうちら霊事警察が動きやすいように、取り計らったり現場の調整をお願いしたいのですよ。これは捜査一課 小此木課長からも許可をもらってるんで」
「うっあの小此木さんがそう言うなら、まあかまわないけどよ。俺みたいな仕事馬鹿にはそういう器用な調整なんぞできねえぞ?」
「安心してください鮫島さんにそんな器用な調整なんて期待してませんって」
「八神てめえ! 今度柔道で徹底的にしごいてやるからな! 口ばかり達者になりやがってこの野郎め」
そう語気を強めているが、陽菜子には鮫島がとてもうれしそうに八神にヘッドロックをかけているのを眺めていた。
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「おめえらが霊だのお化けだのを相手にしてるってのは分かったけどよ、あれはなんなんだよあれはよ、なんで能代真雪さんの皮膚らしきものが突然現れるんだよ」
八神が鮫島という粗暴で口より先に手が出る前時代的人間でありながらも、どこか憎めず尊敬の念が涌いてしまうのはこういうところにある。
被害者に対し、常に誠実であろうとする姿勢。
必ず誰よりも長く遺体に手を合わせ、何かをぶつぶつと話している。
「必ず、必ず犯人上げてやるからな。痛かっただろうなぁ、辛かっただろうなぁ、俺には犯人逮捕してやるぐらいしかできねえ、すまない」
この言葉を聞いたとき、鮫島という男に尊敬の念が沸き起こったのを覚えている。
そして、被害者の御霊はそんな鮫島に感謝していたことも。
「本条君にも見えたのかな?」
課長の問いに、本条は珍しくうなだれながらこくりと頷いた。
「白鷺君、入ってきて」
こんこんというノック音と共に入室してきたのは、白鷺美冬だった。
「失礼します」
そう言って八神の隣に腰を下ろす。
「彼女は心霊現象の専門家、巫女でもあるので同席してもらいました」
「八神、あんたとんでもない現象に遭遇したみたいね」
「これから説明させてもらう」
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