ファイル3 シリアルキラー 女子高生連続誘拐殺人事件

第13話 COMBAT MASTER

 ※ ファイル3では猟奇殺人がテーマになるため、残酷な表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。

 尚、要望があれば要旨をまとめた規制版的な内容を投降しようかと考えております。




  ゴールデンウィークは、八神たち霊事課にとっては特に連休たる実感もなくただ通常業務の延長で過ぎていった。

 陽菜子だけは、レポート提出などの勉強がかなりあったようだが元々の頭の良さのためにさっさと片付け、霊事課の掃除に駆けつけたりしてくれている。


 しかし、あの事件は未解決のままであった。


 女子高生連続誘拐殺人事件。

 既に7人が犠牲になっている。


 警察が投入できる人員を全て活用しているといっても過言ではない体制にて、必死の捜査が行われていても未だに犯人の手掛かりがまったく掴めていないという異質な事件であった。


 ワイドショーのコメンテーターがろくに調べもせずに警察の怠慢だ、最近の警察はやる気がないと喚いており涙にくれる犠牲者の家族をつけまわして取材する様子は相変わらず下衆な所業にしか見えない。


 そして八神恭史郎と本条陽菜子の二人はが現在課長室に呼び出されたのは、まさに今回の事件に関することだった。


 「上からの命令でね、うちの総力を女子高生連続誘拐殺人事件に注ぐことが決定したよ。ということで、八神と本条君はこれから警視庁の捜査一課に向かってほしい」


「目白署の特捜本部ではなく、ですか?」

「そうそう、特に八神と本条君には捜査一課から直接に頼みたい事があるらしいんだよ。ここで恩を売っておくのもいいんじゃないかな? あっちからの要請なんだし、それに君の古巣でしょ」


「先輩って、捜査一課出身だったんですね、すごい」

「何がすごいか分からないが、一つだけ訊いてもいいですか? 訊きますよ」

「あいかわらずだな、まあ大体想像つくが言ってみろ」


 いつもはすまし顔でだるそうに書類仕事をしている課長が、すごんだ目つきで八神を見つめている。


 「政治をしてこいって言うなら、お断りですよ」

「安心しろ、それはない」

「本当ですかって、その様子だと本当なんですね」

「今回はぶっちゃけて言えば、まじだ。藁をもすがり、どんな手を使ってでも犯人を上げたいと考えている。だからこそ、上層部で一部が毛嫌いしている霊事警察すら頼ろうとしてるんだよ」


 「あのぉ、うちって上層部に嫌われているんですか?」

「安心していいよ。ちょうど霧島審議官なんかはうちらの味方だからね、全部ってわけじゃない」

「ちょっとだけ安心。でも私なんかが特捜本部に出入りしても、何の役にも立たないと思うですけど」

「その自覚があるなら大丈夫だ」

「自覚はあるんですよ、えへへ。って役に立たないって思ってるんじゃないですか!」


「役には立つさ、だが俺の指示には従ってくれ。本条を守るためには必要なこともある」

「よく分かりませんけど、了解!」


 「ではこれより八神、本条は捜査一課へ向かいます」


 課長は頷いた後、八神だけ残るように告げた。


 「キャリア組のお守りは慎重にっていうんでしょ、大丈夫ですようちらが前面に出る機会なんて早々ないと思いますよ」


 「いいや、それがあると青ババ様からのお告げが届いたんだ」


 「青ババ様!? いったいどういう内容ですか?」


 課長は背後にあったナンバーロック式の金庫をピッピッピと入力すると、ピーガチャと

開錠される。


 中から取り出したのは重そうなプラスチックケースだ。

 八神にはこういったケースの形状には見覚えがあった。


 「TTI 2011 COMBAT MASTER ( コンバットマスター ) ……」


 「以前お前に射撃テストをさせた例のあれだ。マトリが装備選定試験用に取り寄せた実銃だが、手続き上の不備やら何かが重なってこっちに回ってくることになった」

 

 「ああ、ついでに捜査一課に届けてくるってことですね。分かりました、さすがに本条には頼めませんね」


 「いいや違う」

 「はい? どういうことです?」

 

 課長はさらに開いていた金庫からケースより少し小さめの布袋を取り出す。


 「お前が装備しろ」


「……は?」


「青ババ様は、八神に銃を携帯所持させるように連絡をよこしてきた。青ババ様の預言はこういった何々をして備えておけという類のものが多いのはお前も知っているな」


「聞いたことはあります」


「そういうことだ。基本はゴム弾装備で携帯し、非常時のみ9mm弾の使用を許可する」


「えっと、それがどれだけ重要な命令かは分かってらっしゃるってことでいいんですね?」

「そのつもりだ。保身まみれの私ではあるが、この件は上層部も了解済みだ。そして本条陽菜子君を絶対に守り抜け」


「それは言われなくても」

「彼女のためにオーダーメイドで仕上げた防刃スーツには防弾性能もあるが、防弾ベストほどは期待できない。だからお前が盾になって守るんだ」


「彼女に危険が、近づいていると」


「青ババ様の件もあるし、上層部は本条陽菜子警部を非常に高く評価し慎重に育成しようと考えている。もしこの件で現場から苦情が来たら秒で私に連絡しろ、すぐに上層部と話をつけてそいつらを処分させる」


 あの保身でことなかれ主義の課長のこの態度に、八神は背筋が寒くなる思いがした。


 「でもよりによってコンバットマスターとは」

「なんだ不満か? グロックやSIGあたりのほうが良かったのか?」


「いえ、こいつの性能は段違いですよ。一度撃ったらもう他の銃では満足できないレベルです。俺はニューナンブも好きですけどね」


「さすがにクアンティコ帰りは違うな」


 八神は布袋を開けるとそこには専用のホルスターが収められている。

 すばやくベルトに装着し、ケースを開けコンバットマスターを手にした。

 

 手に吸い付くようなフィット感と、腕に染み込むような重さが全身に広がっていく。


 スライドを引くと、あまりにも自然でスムーズな動きに感動すら覚えるほどだ。


 「言い忘れていたが、常に携帯しろ。非番でも特例で許可が出ている」


 「そこまで深刻な状況だったとは」


 「青ババ様からの指示だからな、飲むしかない」


 「管理には十分に気を付けます」


 ゴム弾の入ったマガジンを挿入し、予備の9mm弾のマガジンをホルスターに装着した。


 「よろしく頼むコンバットマスター。俺たちは誰かを殺す存在じゃなく、守る存在になろう」

 

 課長はこういったやりとりを馬鹿にしたりはしない。


 ここは日本、そう物に魂が宿ると信じられている国だからである。


 

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