19 夏の宮の姫
夏の宮の姫
若竹姫が障子を開けたことで、薄暗い部屋の中は(雨降りの曇り空だったけど)少しだけ明るくなった。(うん。これでいい。こっちのほうが白藤の宮ににあっている。と若竹姫は思った)
若竹姫はさっきと同じようになるべく足音を立てないようにゆっくりと緑の畳の歩いて自分の席まで戻ると、静かに鈴蘭の模様のある座布団の上に座った。
それから若竹姫は一度、白藤の宮の顔を見て、小さく笑ってから、箸を持ち(若竹姫の端は飾り気のないけど、味のある形をした竹を加工した箸だった)ご飯を食べ始めた。
「美味しい」
粒のたった真っ白なお米を口の中に運んで、にっこりと笑って若竹姫は言った。(それは若竹姫の本心だった。白藤の宮の住んでいる鳥の巣で食べるお食事は、いつも、いつも本当においしかった。都で食べる味気ない御前よりもずっと、ずっと美味しいと思った)
「それはよかった。お世辞でも嬉しいです」
と、いつものようにふふっといじわるな顔をして笑って白藤の宮は若竹姫に言った。
「お世辞じゃありません」と若竹姫は(子供みたいに)ほほを膨らませて言った。
そのあとで二人はお互いの顔を見てころころと笑い合った。
それから少しの間、二人は、鯛のお刺身を食べて「美味しい。身がぷりぷりしてます」と若竹姫が目を大きくして驚いて言ったり、「当然です。大変だったのですよ。あなたを驚かせるために鯛を用意するのは」と白藤の宮が笑いながら言ったりしながらお食事を続けた。
それから、しばらくしてから白藤の宮がふとなにかを思い出したかのように(もぐもぐと口を動かしている)若竹姫の顔を見て、「そういえば、夏の宮は今、どうしていますか? すくすくと育っていますか?」とそんな珍しい話題を若竹姫に言った。(本当に珍しいことだった)
若竹姫は夏の宮の姫のお話が白藤の宮から急に出てきたので、(内心、本当に、どきっとするくらい)とても驚いたのだけど、それをなんとか顔に出さないように我慢しながら、「はい。とても元気に、わんぱくに、すくすくと育っていますよ」と白藤の宮に明るい声でそう言った。
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