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夏の宮の姫は都の宮中で暮らしている白藤の宮の一人娘だった。
白藤の宮は夏の宮を産んでからすぐに森の中に隠れるようにして暮らし始めてしまったから、夏の宮のことを本当の生まれたての赤ん坊としてしか、見た記憶がないはずだった。(どうしてそんなことを白藤の宮がしたのか。くわしいことは若竹姫は知らなかったし、誰も教えてはくれなかった。このことは都ではすべてなにも語ってはいけないことであり、誰にも聞いてはいけないことになっていた。つまり禁忌とされていたのだ。それは夏の宮の姫の父親にかかわることだった。どんなに禁忌とされていても人のうわさは広がるものだった)
夏の宮の成長を見ることができないことが、私のたった一つの森で暮らすことを始めたことの後悔ですね、といつかの森の訪問のときに、ふと白藤の宮が若竹姫に言ったことがあった。(白藤の宮は笑っていたけど、本当はとっても悲しかったのだろうと若竹姫は思った)
ただ、姫として生まれた夏の宮は本当のお母さんである白藤の宮と会えないという不幸はあったものの、それ以外のことでは、不幸なことはなにもなく、なに不自由なく、幸福に宮中の中で(名高い問題児として、……これは白藤の宮には秘密だけど)すくすくと成長していた。(白藤の宮に似て、とてもうわさになる姫だった)
今年で確か……、十三歳になるはずだ。
夏の宮の姫は本当に美しい姫として成長した。(いまでも、男の子まさりの悪戯好きのわんぱくな姫のままだったけど……)
夏の宮は母親の白藤の宮に(当たり前だけど)本当によく似ていた。
それは外見だけではなくて内面もそうだった。(若竹姫から見ても、夏の宮の姫はぎゅっと白藤の宮を小さくして、呪いで子供の姿にしてしまったかのような、そんな不思議な感じのする女の子だった)
「夕凪さんという宮中にお使えしている女性に育てられています。今年の夏も、黄泉送りの花火を街中にお忍びでお出かけしてみるんだってわがままを言って、夕凪さんをとても困らせているようです。宮中のうわさ話でそんな話を聞きました」と若竹姫は言った。
「まあ、そんなことを。誰に似たんでしょうね。本当に困ったものです」と惚けた顔をして、そんなことを白藤の宮はふふっと笑いながら、若竹姫に言った。
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