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自分の憧れている人から(忘れられるはずもない、憧れている人の声で)自分の名前を呼ばれて、若竹姫はその大きな黒い目を美しい鳥の巣の庭から正面に戻した。
すると、そこには白藤の宮がいた。(夢の中のように、いつのまにか消えてしまったりはしていなかった)
白藤の宮はさっきと同じようにじっと若竹姫のことを飽きることなく見つめ続けていた。(興味しんしんという顔をしていた)
若竹姫は、今日の自分の服装を思い出してみる。
旅をするための薄い水色をした丈の短い着物を若竹姫は身に纏っている。(それは若竹姫が都を離れて旅をするときにいつも着ている愛用の着物だった。白藤の宮から頂いたものだ。若いころにこの着物をきて、白藤の宮も旅をしていたらしい)それに白い足袋と丈夫な草鞋。
帯は薄緑色のものを着用している。
黒くて美しい若竹姫の長い髪にはかんざしがさしてある。(旅の邪魔にならないように、頭の後ろでまとめている)
飾り気のない、蝶のかんざし。(とってもかわいいものだ)
荷物は小さなものを腰のところに紐で巻きつけていた。(今は腰からとって、自分のすわっている横のところに置いている)
……それから、『小さな脇差のような白い刀』。
旅をするための少しの銅銭。
それが若竹姫の今日の服装と持っているもののすべてだった。
森の中にある川のところで水浴びをしたときに、自分の顔や姿を持っていた手鏡で確認している。(白藤の宮に笑われてしまうから)
……、変なところはないはずだ。(顔が土で汚れている、ということもなかったはずだ。お団子も食べたけど、たれで口元が汚れているということもなかった)
「若竹姫」ともう一度、白藤の宮は若竹姫の名前を呼んだ。
「はい」と若竹姫は白藤の宮に答える。
「若竹姫。こっちにいらっしゃい」
と白藤の宮は若竹姫に小さく手招きをして、(……、とっても、甘い声で)そう言った。
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