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「はい」
と若竹姫は言って正座をして座っていた足を崩すと、紺色の座布団の上から、とてもいい匂いのする(森の匂いがした)畳の上に立ち上がって、それからゆっくりと囲炉裏の周囲を回るようにして、自分の正面にいる白藤の宮のところまで移動をした。
……、ぱちぱちと、火の弾ける音が聞こえた。
白藤の宮は若竹姫のそんな動きに合わせて、やっぱりずっと、その大きな黒い美しい(どこか子供っぽい)瞳で、若竹姫のことを見続けていた。
(そんな白藤の宮の姿が一瞬だけ、若竹姫には小さな童のように、見えた。どうしてだろう? さっき白藤の宮に自分の童のころのお話を聞かされたからだろうか?)
若竹姫が白藤の宮のところまでやってくると、白藤の宮はぽんぽんと自分の綺麗な太もものところを白い着物の上から小さく二回だけ叩いた。
「ここに頭を乗せなさい。膝枕をしてあげます」
と、にっこりと笑って(にやにやしながら)白藤の宮は若竹姫に言った。
あなたは大人になりましたね、とさっき言われたばかりなのに……、と思いながらも、若竹姫はそんな白藤の宮の言葉に「……はい」と恥ずかしそうな声で言った。 (膝枕はしてもらいたかった)
それから若竹姫は白藤の宮の柔らかい太ももの上に自分の頭をそっとできるだけゆっくりと、優しくのせた。(まるで親鳥が生まれたてのたまごを割らないように気をつけて巣の中で置くように、……)
若竹姫の視界にはぱちぱちと小さな音を立てる小さな火があった。
白い(きっと若い木だったのだろう)薪の上で、少し橙色をした赤い小さな炎。
「……あったかい」と若竹姫は言った。
若竹姫の感じている温かさは囲炉裏の小さな火の温かさだけではなかった。(ずっと、求めていた温もりがあった)
白藤の宮は黙ったまま、そっと若竹姫の黒い髪を撫でてくれた。
……、ただそれだけで、若竹姫のぽっかりと穴が空いたような、空洞のような心は(まるで魔法のように)満たされる。
若竹姫はなんだかとても優しい気持ちになった。
それから若竹姫は、……私はやっぱり、まだまだ子供なんだ、と本当に心のそこから、そう思った。(背が高くて、大人っぽい顔や容姿をしているけど、若竹姫は数え年でまだ十六だった)
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