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「なにか私の顔についていますか」
にっこりと笑って、(視線を感じて、その目を白藤の宮に戻して)若竹姫は言った。
「いいえ。別になにも」
若竹姫と同じようにほほほ、と、にっこりと笑って(怪しさを隠しきれていない顔で)白藤の宮がそういった。
「では、なんでずっと私の顔を見て笑っているのですか?」若竹姫はいう。
「あなたがずいぶんと大きくなったな、と思って」とふふっと笑いながら白藤の宮はそういった。
「ずいぶんと童のころのあなたのことを思い出すのですけど、おてんばで美しい着物をどろんこにしてお庭を駆け回っていた童はもうどこにもいないのですね」
その白藤の宮の言葉を聞いて、若竹姫はその真っ白な雪のような頬をほんのりと赤い色で染めた。(恥ずかしくてしかたがなかった)
「大人になりましたね。若竹姫」
と白藤の宮は言った。
「私は、全然大人になっていません。まだまだ半人前の子供のままです」と若竹姫は自分の本心を、隠さずに白藤の宮に言った。(ここでは、そうする必要はなかったから。どこでだれが内緒話を聞いていて、すぐに秘密のお話がみんなのうわさ話になってしまう都とは違うのだ)
「そんなことはありません。あなたはもう十分に大人ですよ。若竹姫」とにっこりと笑って白藤の宮は若竹姫に言った。(その白藤の宮の笑顔は本当に美しい笑顔だった)
自分の(……、密かに)憧れている女性である白藤の宮からそう言われて、若竹姫はまた、その頬を赤く染める。(いけない。いけない。また白藤の宮に遊ばれてしまっているぞと若竹姫は思った)
若竹姫は照れ隠しのために、そっと横を向いて開いた襖の向こう側に広がっている鳥の巣の美しい庭を見つめた。
そこには長年、この家に住み続けている白藤の宮が丁寧に手入れをし続けている小さな、小さな庭があった。
……、その小さくて、でも、(愛情のあふれている)とても美しい庭が、若竹姫は大好きだった。
緑色の植物の上を小さな一匹の蝶が飛んでいた。
白い色をした綺麗な蝶々。
その蝶は蜜を吸うために、一輪の花を探しているようだったけど、残念なことに白藤の宮の手入れをしている鳥の巣の庭には美しい花は一輪もまだ、咲いてはいなかった。(花たちが咲き乱れるころには、ここはとても美しい景色になるのだろう)
「若竹姫」
と、白藤の宮が美しい声で、そう言った。
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