第8話 お小言

Yさんの夫の母、義母はなかなか厳しい人だった。


結婚して夫の実家で同棲するようになると、それを痛感した。


料理、洗濯、掃除…様々なことで細かくお小言を貰った。


正直、口うるさい人だな…というイメージだったという。


それでも険悪な雰囲気にはならないように、なんとか上手く合わせてきた。


そんな義母が病を患って、闘病の末に亡くなった。


もちろん悲しい気持ちはあったが、それより解放されたという気持ちが強かった。




義母の幻影が枕元に現れるようになったのは、亡くなってから1年は過ぎた頃。


寝ているYさんの枕元に正座して、厳しい目つきで見つめてくる。


口元がパクパクと動き、何か話しているようなのだが聞き取れない。


まるで生前に家事のことでお小言を貰っている時のようだった。


(なにも化けてまで出てくる事なんてないのに…)


Yさんは目をきつく閉じ、無視することにした。




それから義母は毎晩のように枕元に現れた。


相変わらず話の内容は聞こえなかったが、何かをブツブツと呟いているようだ。


(もう…いい加減にしてよね)


Yさんは少しムキになって義母の姿を睨むように凝視した。


義母は呟くのを止め、手をゆっくりと動かしYさんのお腹の辺りを指さした。


(いったい何なんだろう…)


意味がわからないまま凝視していると義母の幻影はスッと消え去った。




Yさんは夫に相談してみた。


義母は何かをYさんに伝えたいようだった。


そしてお腹の辺りを指さす仕草の意味…


二人でいろいろ考えた結果、Yさんは病院で検査を受けてみることにした。


その結果、Yさんの胃に癌があることが判明した。


幸い発見が早かったため、手術で無事に切除することができたという。




(義母はこの事を必死で伝えようとしていたんだ…)


Yさんは夫に気持ちを打ち明けた。


「私…お義母さんは私のことを嫌っているものだとばかり…」


夫はそれを優しく否定した。


「いや…お母さんは、お前のことをずっと気にかけてたよ」


Yさんは思わず目頭がジーンと熱くなるのを感じた。


それから義母はもう姿を現わさなくなったという。

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