第6話 待ちぼうけ

Rさんは彼氏のTさんと駅前の喫茶店でデートの待ち合わせをしていた。


楽しみにしていたデート。


買ったばかりの可愛い洋服を褒めて貰うのが待ち遠しかった。


待ち合わせの時間から10分…少し遅れてるのかな。


携帯を見るけどメールは届いてない。


30分経過…メールを送ってみる。


1時間経過…電話を掛けてみるが留守電に。




今までこんな事は一度もなかったから心配になったが、連絡も取れないので仕方なく帰ることに。


(何か急用…それとも、私の他に女が…?)


Rさんは少し混乱しながら思考を巡らしていた。


家に帰るとシャワーを浴び、通知がない携帯を見るとベッドに放り投げる。


「Tくん…」


彼氏の名前をつぶやき、ゴロンとふて寝をするようにベッドに横たわる。




そのまま少し眠ってしまっただろうか。


薄暗くなった部屋の中で目を覚ました。


身体にぬくもりを感じる。


後ろから抱きしめられているような、懐かしくて優しいぬくもり。


「Tくん……?」


上半身をひねるようにして背後を確認するが、誰もいない。


Rさんは不思議な気持ちのまま再び眠りに落ちた。




彼氏のお母さんから連絡を受けて病院に駆けつけたのが2日後の事だった。


Tさんはベッドの上で眠ったまま。


Rさんと待ち合わせをしていたあの日に、倒れたようだった。


脳出血で倒れたまま、ずっと眠ったままらしい。


Rさんはどこか夢を見ているような気分で、詳しい話を聞いていた。




RさんはTさんのベッドのそばに座りながら、想い出にひたっていた。


~~~~~~~~~~~~


自分の部屋のベッドで寝転がっているRさん。


「なぁ…まだ怒ってるの?」


Rさんの機嫌をなだめるように声をかけるTさん。


「……本当に私のこと好き?浮気なんてしない…?」


Tさんに背を向けたまま吐き捨てるように言う。


「当たり前だろ?」


Tさんはそう言ってRさんを後ろから優しく抱きしめる。


喧嘩をした時やRさんが不機嫌になった時は、いつもこんな感じだった。


~~~~~~~~~~~~


RさんはTさんの無事を祈り、できる限りそばにいて手を握ったり声をかけたりした。


しかしTさんが目を覚ますことはなく…


ちょうど一週間が経過しようかという頃、Tさんは静かにこの世を去った。




あの待ち合わせの日の夜…


たしかにTさんはそばにいて優しく抱きしめてくれていた。


そして今でもどこかから優しく見守ってくれているんだろう。


Rさんはそう信じている。

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