第4話 母のぬくもり

Yさんがまだ小さい頃の話。


父親と母親と三人で暮らしていた。


母は穏やかで優しい性格だった。


父は普段は大人しい性格だったが、酒癖が悪かった。


溜まったストレスを酒で発散し、酔っ払ってYさんや母にたびたび暴力を振るった。


Yさんと母は身を寄せ合ってそんな暴力の日々に耐えていた。




クリスマス・イブのことだった。


Yさんは母の膝枕の上で目を覚ました。


「大丈夫…?」母は心配そうにYさんの頭をなでた。


父の暴力から母はYさんを庇っていたのだが、強い力で突き飛ばされたため、Yさんは壁に頭をぶつけ気絶していたらしい。


それから父はどこかに出掛けていったようだ。


ささやかな料理とスーパーで買ったケーキがテーブルに並べられ、静かなクリスマス・イブを二人で過ごした。


母はYさんを優しく抱きしめながら、言った。


「これから何があっても、ずっとママはあなたの味方だからね」


Yさんは「うんっ」と頷き、母の胸に身を寄せた。




次に目を覚ました時、家の中には誰もいないようだった。


とても不安な気持ちになって、Yさんは母の姿を探した。


寝室のドアを開けると、母はベッドの上で既に冷たくなっていた。


それから父親が母親を殺した容疑で警察に逮捕された。


クリスマス・イブの早朝…暴力の末、勢い余って殺してしまったのだそうだ。


Yさんは遠い親戚のところで預かることになった。




Yさんが毎年楽しみにしていたクリスマス・イブだったから…母は最後の思い出にずっと寄り添ってくれたのかもしれない。


Yさんはクリスマスが来るたび、大好きだった母の胸のぬくもりを思い出すという。

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