第3話 甘噛み

都内でOLをしているSさんは、体の不調に悩まされていた。


仕事が多忙な時期で、終電に近い時間に帰ることが多かったため疲れがたまっているのかな…などと考えていた。


念のため休日に病院で診察を受けたが、特にこれといった異常は見あたらず。


(たまには栄養のあるものでも食べないとね…)


そんなことを考えながらスーパーへと立ち寄った。



家へ帰ってスーパーで買い物したレジ袋の中身を取り出す。


「…あれ?」


Sさんは思わず声をこぼした。


肉や野菜などの食品に混じって、猫用の缶詰が出てきたのだ。


(私、いつの間に…間違えて買っちゃったのかな?)


少し考えを巡らせて、ハッと気づいた。慌てて部屋にあるカレンダーを見て、ほぼ確信に至る。



「コウタ(飼っていた猫の名前)の命日、一週間前だった…」


部屋の隅にチョコンと置かれた小さい仏壇に缶詰をお供えする。


「最近忙しくて構ってあげてなかったね…ごめんねー」


生前のコウタにしてあげたように、仏壇に飾られた写真を優しく撫でてあげた。


(生きてた頃は、あまり構ってあげないと指をカプッて甘噛みしてきたよね…)


Sさんは懐かしく思い出していた。


次の日から、Sさんの体調はすっかり良くなったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る