第2話 見守るもの

Tさんが高校生の頃の話。


学校に幽霊が出るという噂があった。


「校庭の隅っこに立って校舎をジーッと見つめている」


同じクラスの子はみんなそう話しているようだった。


Tさんも授業中、窓際の席から校庭を見てみるがそれらしき姿は発見できず。


(どうせ根も葉もない噂話だろう)と思っていた。




Tさんは当時、不良の仲間たちとよくツルんでいた。


Tさんの母親はまだ小さい頃に亡くなっていて、父親と二人で暮らしていた。


父親は仕事で忙しくなかなか構ってくれないので、その寂しさもあってか少しグレていたらしい。


その日の昼休みも、5人ほどの仲間と集まって校舎裏でタバコを吸っていた。


「うわぁっ!!」


仲間の内の一人がそう叫ぶと、一目散に駆け出して行った。


他の仲間も何か怖いものを見たかのように散り散りに逃げて行った。


Tさんはというと、まるで意味がわからずその場に呆然と立ち尽くしていた。




あとで仲間たちに話を聞くと、女の人の幽霊がこちらをジッと見ていたらしい。


みんながその話題で盛り上がる様子を、自分だけが見えないものだから少しつまらなそうにTさんは耳を傾けていた。


頭の中に妙な引っかかりのようなものを感じながら、Tさんは家へ帰ってきた。


居間にある仏壇の前へ行くと、頭の中のモヤモヤの正体が分かった気がした。


仏壇の中に飾られた母親の写真と、学校の幽霊の特徴がピタリと合致したのだ。




それからTさんは少しずつ変わっていった。


(母親がどこかから自分を見守っているのかもしれない)

そう考えると心が少し温まるような気がした。


不良とツルんで遊ぶことが少なくなり、授業も真面目に受けるようになった。


成績も順調に伸びて行き、担任や父親は喜んでくれた。

母親もどこかで喜んでいるような気がして、ますますやる気になれたという。




高校3年生になり、クラスの雰囲気が受験一色になる頃には、幽霊の話はみんなすっかり忘れ去っているようだった。


「母さん…俺、大学へ行く。いっぱい勉強して立派な大人になるんだ」


Tさんは母親の墓前へ赴き、そう報告した。


草葉の陰から見守っている母親が、そっと優しく微笑んだ気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る