しみじみ怪談

ポテにゃん

第1話 待ち合わせ

Kさんは彼女とデートの待ち合わせをしていた。


場所はいつもの公園。


Kさんがベンチに座って待っていると、彼女が少し遅れてやってくる。


Kさんの姿を見つけると子犬みたいに駆け寄ってくる彼女。


いつも見慣れいる光景だった。




公園まで駆け足できたのだろうか、彼女は少し息を切らしていたのでKさんは自販機でココアを2本買ってきてベンチで一緒に飲んだ。


大好物のココアをご機嫌な様子で飲む彼女と、何気ない雑談をしばらく交わした。


小一時間ほど話した頃だった。


「ごめん…ちょっとこれから急用が出来ちゃって」

ちょっとうつむきがちに彼女が切り出した。


Kさんは別れを惜しみつつも、彼女と軽いハグを交わしてデートは解散となった。




その日の晩、Kさんに電話がかかってきた。


それは彼女の母親からのもので、彼女の訃報を知らせるものだった。


彼女は公園と家の途中にある道路で、トラックに轢かれて亡くなったのだという。


Kさんは、あのデートの帰り道で彼女が事故に遭ったのかと考えていた。

しかし話を聞いていく内に、どうもおかしいことに気づく。


彼女は家から公園に向かう途中で事故に遭っており、デートの待ち合わせの時間には既に亡くなっていたようなのだ。


Kさんは混乱した頭のまま彼女の通夜と葬儀に参加した。




彼女の死後1週間ほど経って、Kさんは公園のベンチでひとり座っていた。


あの日に見たココアを嬉しそうに飲む彼女の姿も、ハグの感触も確かに記憶に残っていた。


(ちょっとドジであわてん坊なあいつの事だから、死んだことにも気づかないで逢いにきてくれたのかな…)


Kさんは頬を伝って流れてきた涙を隠すようにうつむくと、彼女との想い出を忘れまいと何度も胸の中で反芻していた。

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