第11話 ワンサイドゲーム
「通りすがりの冒険者がゴテゴテの悪者っぽい服装なのは怪しいの! 蜘蛛の紋章って不吉なの!」
妖精のミンミンがごもっともな意見を口にする。
もともとの俺の立ち位置を考えれば、なにも間違っていない指摘だ。
(アラクネ、男の子たちを頼む)
(いいでしょう。任されました)
アラクネが俺から離れ、リュキって言う男の子たちの方に向かった。
「ちょっと! 聞いて――モガガッー!」
ミンミンの口に糸が巻き付き、身体まで縛って逆さ吊りにした。
(羽虫がうるさいので黙らせておきます。そちらの方が集中できるでしょう)
さらに冒険者のおっさんたちも糸で引っ張り寄せ、ひとまとめにした。
その衝撃で気絶したおっさんたちには悪いが、そちらの方が都合いい。
子守はアラクネに任せれば心配はいらない。
あとは目の前の敵――マッシブロッコリー・ゴーレムキングを倒すだけ。
茶番の邪魔をせずに見守っていたのは、俺を挑戦者と本能で認めたからかもしれない。
その心意気は感心するが、やっぱり妙にイラッとするな。
(念のために忠告しておきます。その
(忠告どうも)
マッシブロッコリー・ゴーレムキングが両手を地面に叩きつけ――まだ日が差し込む森が暗く歪み、異界化が始まる。
大地が揺れ、盛り上がり、即席のリングができあがった。
防衛戦に入る気だ。
今のところ俺の戦闘スタイルは肉弾戦。
相手も魔法を使って小細工を弄するタイプじゃない。
殴り合いなら大歓迎だ。
両手に【
「――ひ」
空気に飲まれ、畏れに震えた子どもの吐息をゴング代わりに拳を振るう。
拳と拳が激突し、周囲の木々が吹き飛び、空に舞い上がった。
……ちょっと左手が痺れた。
マッシブロッコリー・ゴーレムキングの右拳は粉砕されている。
今度は俺が右拳に力を込め、相手も片腕を失ったことで
今度は右手が痺れたが、さっきよりも盛大に相手の左拳が弾け飛んだ。
両手を広げ、軽く振るう。
ニードルプレートボアとは硬さが段違いだ。
とはいえ、両腕はもうない。
再生する前に叩いて終わり、ってわけじゃなさそうだ。
冒険者たちの養分を吸って雄大に実ったクラウンブロッコリーが迫ってきていた。
最後まで
「そういうのは嫌いじゃないな!」
こっちも同じ攻撃方法でぶつかってやる。
やかましい音を聞きながら、マッシブロッコリー・ゴーレムキングの頭部を砕ききった。
石頭の自覚はなかったが、拳よりも痛みはない。
アラクネ特製の仮面が頑丈なおかげもあるだろう。
宙を舞っていたクラウンブロッコリーをキャッチする。
円環で連なったブロッコリーの集合体は片手で持つには大きすぎる。
今は邪魔になるので、【アイテムボックス】に収納しておこう。
Sランクの魔物とはいえ、そこまで手こずらなかったと……まだ終わりじゃないらしい。
足下から新緑の芽――多分、ブロッコリーの新芽たちが生え始め、俺に絡みつこうとする。
「やめておけ、と言っても聞こえないか」
もう本体の意思ではなく、別の意思で動いているのが分かる。
マッシブロッコリー・ゴーレムキングの頭部から胸部まで崩れ落ち、内部のコアが露わになっていた。
黒い魔力結晶。
俺から養分を吸い上げて再生する気だ。
戦いに卑怯もへったくれもないが、そっちがそう来るのなら俺にも考えがある。
なにより悪役の戦い方は俺の方がするべきだ。
食材は確保したし、美味しさを気にする必要もない。
糸で新芽を絡め取る。
「そんなに私の養分が欲しいならくれてやる――【ポイズンギフト】」
糸から毒を流し込み、新芽がまたたく間に枯れていき、土で構築された体躯までボロボロと崩れは始める。
新芽を生やす力も失われ、黒い魔力結晶までヒビが入る。
「これで終わりだ」
コツンと黒い魔力結晶を叩く。
今日一番の柔らかさだった。
簡単に黒い魔力結晶が砕け散る。
マッシブロッコリー・ゴーレムキングは大地のリングと共に消失し、異界化じみた景色は元の温かみのある世界に戻った。
(お疲れ様です。難敵ではありませんでしたね)
アラクネが労いの言葉をかけてくれる。
(では、私も一仕事しましょうか)
そう言って糸を一本操り、辛うじて残っていた木の影に
「どうも。こんにちは」
「こ、こんにちは」
重装備の鎧に吊り下げた枝が
「え? ラウィードの兄ちゃん?」
リュキが吊り下げられた者の正体の名を言った。
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