第3話 本当に勉強熱心なようですね
「それで? これからどうするんですか?」
「鍛える。徹底的に」
食事をしながら答える。
七日も毒にうなされ、飲まず食わずだったから喉が痛かったり、内臓に負担があると思ったが、なんなく食べられている。
そういえばイサナって性格はひん曲がって最悪だったけど、基本スペックはかなり高かったんだよな。
素のステータスもその時点ではかなり高く、弱点は光属性のみで他は耐性持ちだ。
ただスキルは毒関係ばかりで、攻撃は基本物理攻撃のみ。
毒対策をしておけば、あとは強烈な一撃の対応をすれば楽に倒せる。
とにかく神獣代行者戦の基本動作を覚えろ的な位置づけで、チュートリアルを兼ねていた。
本来ならもっとできることもあったんだろうが、第一章のとりを務めるボスとあって手加減されていた。
そして律儀に俺が食べ終わるのを待ってから、アラクネが続きの質問をした。
「それはつまり私の願いを叶えるために、表舞台に上がると認識していいですか?」
「表舞台……神獣戦争か。創造神の
確か、そんな小難しい話だった気がする。
「神獣戦争……ええ、言い得て妙です。私は他の神獣を蹴落としてでも自分の願いを叶えたい。そのためなら新たな星の神核として、世界の理を変えてみせましょう」
「毒をもって毒を制す――全ての悪を殺し、綺麗な世界に作りかえる。お前の司る属性は毒だったよな」
現存する神獣は十二柱まで存在し、それぞれ固有の権能、属性を宿している。
「ほう。星の知識だけでなく、私のことも知っているとは驚きです。見た目に反して勉強熱心ですね」
アラクネは珍しく心の底から感心しているようだった。
「まあ、な。
「な!?」
アラクネの冷淡な態度が珍しく変わったのを見て、つい嬉しくなってさらにかつての記憶を掘り起こす。
イサナのことはただのボスキャラとしか思っていなくて興味がなかった。
だけど、神獣の設定集を読むのは好きだったから、アラクネのこともよく覚えている。
「綺麗好きで神獣形態の身だしなみには気を遣い、最高級オイルで毛並みを整えて――」
「その辺にしておきましょうか」
俺の口を生暖かい糸が塞いだ。
ふがふが、としか俺は喋れなくなってしまった。
「ええ、ええ。本当に勉強熱心なようですね。感心します。しかし、口は災いの元。考えなしに吐き出すのはいただけませんね」
(……悪い。調子に乗りすぎた)
契約したおかげで、念話でも話せるのでどうにか許しを請う。
俺の反省を聞き届けてくれたのか、俺の口から糸が離れていく。
「ええ。分かればよろしいのですよ、契約者」
俺の謝罪を聞き入れてくれたからといって、聞き分けのいい奴かといえば違うのだろう。
アラクネの願いは――星の浄化。
アニメやゲームでたまにいる星が死にかけているのは人類のせいだろ、そうだ、滅ぼそう的な極論に至るラスボス的思考のキャラだ。
人類全て、ではないのはまだマシなのかもしれないが。
過激で最悪でもの凄く面倒くさい神獣。
ただまあ、それだけでもない。
わざわざ死んでもいい相手に上質な寝具を用意してくれるんだから。
それでも。
「悪かったよ。まあ、話を戻すか。俺は世界を変える器なんかじゃない。神獣戦争に参加する気は、少なくとも今はない。近い将来俺は死ぬかもしれないからな」
「【未来視】のスキルでも保有しているのですか? 私の権能にそのようなものは存在していませんから」
「ある意味、そうなのかもな。とにかく一年過ぎたくらいにその時が来る。それまでに死なないための力をつけたい。
考えるのはその後だ。もちろん俺を殺そうとする奴とは戦うし、やり返す。必要なら殺す。どうする? やっぱり今俺を殺すか?」
後々言うよりは、今のうちにお互いの立ち位置を明確にした方が分かりやすい。
神獣の権能を借り受ける契約者――神獣代行者との契約は、俺が死ねば途切れる。
アラクネはまた新しい契約を結べるようになる。
神獣が契約するのは創造神の教えである生きとし生けるものを守り、導け、という教えからだ。
解釈は神獣それぞれで違うが。
アラクネの神力は封印されていたことで全盛期よりも弱まっているが、今の俺を殺すのは簡単だ。
今しがた殺された奴らみたいに。
もちろん俺も無抵抗で殺される気はない。逃げるので精一杯だけどな。
アラクネの返答を待つ。
「……いいえ。やめておきます。私も神獣が一柱。たった一人の下等生物との約束を
「ありがとな。これからよろしく頼む、アラクネ」
アラクネに手を差しのべる。
俺が強くなるためにはアラクネの協力が必要不可欠だ。
今回は友好的な関係になれるよう
なるべく俺から歩み寄ってあげるべきだ。
――原作の俺はアラクネのことをこいつ、お前、挙げ句にはクソグモなんて呼んでいたしな。最期までアラクネ、と名前で呼ぶことはなかった。
「……私の名を
最後まで握ってくれないだろうと思っていた手に、毛むくじゃらな脚が触れた。
「いいでしょう。事態が事態なだけになあなあで許してきましたが、特別に、私の名を呼ぶことを許可しましょう」
言葉は冷たいけれど、触れる脚は温かい。
俺の記憶が正しければ、神獣戦争と呼ばれる戦いが起きるのは一年後。
本格的に世界が荒れるのはまだ先だ。
それまでに力をつける。
「しかし、神獣戦争を勝ち抜く前提で鍛えます。異論はありませんね。私の毒で世界を変革させるために、貴方と契約したのだから」
「分かってるさ。覚悟はできてる。容赦はしなくていい。バシバシ鍛えてくれ。ただ、その前に一つ手伝ってくれるか?」
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