第34話 ずっと大切な人なの


 身体が重い。頭痛が酷い。目覚めは最悪だった。

 寝室にも行かず、こたつにも入らずに畳の上で寝ていたらしい。おまけに着替えもしていない。

 風呂に入ってシャワーを浴びると目だけは冴えた。


 12月27日、日曜日。

 本来は今日から長期連休が始まるのだが、仕事が休みでも店長は雪かきをしに出勤しているというのは聞いていた。

 去年は全く力になれなかったし、今年はなるべく店に貢献しようと篤哉は思っていた。


 朝は食べられる気がしなかったのでそのまま家を出た。



 恒例となった雪道は、いつもより歩きにくいと感じた。その原因はすぐにわかった。

 いつもより雪が多いわけではなく、自分の身体に疲れが溜まっているからだ。身体がだるくて真っ直ぐ歩くのも苦労する。


 通勤に時間はかかるかもしれないが、きっと店長なら許してくれる気がした。

 そのままゆっくりと雪道を歩く。




 モールに着くと、既にちらほらと雪かきが始まっていた。自分も早く取りかかろうと足早に店を目指す。


「おはようございます。今日は無理に出勤しなくても良かったのですが。まあ、せっかく来てくれたので手伝ってもらいましょうか」


 店長に挨拶だけすると視界がぐらぐらと揺れていた。話も頭に入ってこない。

 まずいと思った時には、二本の足は既に身体を支えていなかった。


 店長が何か叫んでいた。

 聞いたことのない店長の大きな声を床の上で聞きながら、自分は何をやっているんだろうと思った。

 謝罪をしようと口を開くが、意識が途切れる方が早かった。




ーーーー




 目が覚める。天井。見知らぬ……というわけではなかった。見覚えがある。ここはモールの救護室だ。


 身体は相変わらず重かったが、頭痛はだいぶ治まっていた。代わりに頭がぼーっとする。


 自分はベッドに寝かされているらしい。柔らかい感触が身体を支えてくれていた。


「おはよ、篤哉くん」


 声がした方に目を向けると、ベッドのすぐ傍の椅子に座った美里が、困ったようなほっとしたような顔をしていた。


「あれ、おれ……」


「ああ大丈夫、まだ起きなくていいから。はい、これ脇に挟んで」


 小さな体温計を渡されて言われた通りにする。身体を動かすと節々が痛んだ。


「まったく、そんな身体で出勤するなんて君はおバカさんなのかな?」


「すみません……」


 謝罪の言葉しか出てこない。店のために出勤してきたはずなのに、逆に迷惑をかけてしまっている。


 体温計のアラームが鳴ったので取り出す。

 37度8分だった。


「まだ寝てなきゃダメだねこりゃ」


「あの、俺、今日は雪かきしようと」


「わかってるけどそんな身体で出来るわけがないでしょ?」


「ですよね……」


「まあでも、思ったより酷くなくて良かったよ。出勤したら店長が泣きそうな顔で篤哉くんを抱えてたから、わたしてっきり篤哉くんが逝っちゃったのかと」


 気を遣ってくれているのだろうか。美里はいつも通りの調子でいてくれた。それが少し嬉しかった。


 そういえば店長にはまだ謝罪をしていない。起き上がろうとすると美里に止められた。


「今って何時なんです? 店長は……」


「もうすぐ3時。おやつの時間だね。店長は雪かきしてるよ」


「店長にも謝らないと」


「あーダメダメ。今日はこのまま君は帰宅。しばらくおうちで安静にしてること。オーケー?」


「うう……本当に申し訳ないです……」








 店長は今日は車ではなかったらしく、流輝亜の車で家まで送ってもらうことになった。大きめのジープは思ったより乗り心地は悪くなかったが、後部座席は篤哉には少し狭かった。しかし、文句は言えるはずもない。


「んで、少しは熱下がったん?」


「ううん、まだ38度近い」


「本当にすみません。流輝亜さんにまで迷惑かけてしまって」


「アタシはいいけどさ。翔のアホがめっちゃ心配してたから連絡してあげてよ」


「はい……」


 毛布にくるまって縮こまりながら、篤哉は今日何回目かわからないため息をついた。


「まーよかったんじゃね。最初は39度くらいあったんでしょ?」


「え、マジっすか。ほんの数時間寝ただけで下がるものなんですかね」


「無理だろーね。だから奥の手使ったらしいよ。なー美里」


「あはは……うん」


「奥の手って?」


「座薬」


「は?」


 座薬というものの存在は知っているが、実際に使ったことはない。薬を尻の穴に挿入するということだけが知識としてあった。

 それを自分が使った……使った? もちろん篤哉には尻に自分で何かを入れた記憶などない。


「あ、あのー……一体どなたが座薬を?」


「わたしでーす。篤哉くんのお尻、シュッとしててプリッとしててかわいかったよ?」


 後部座席の隣に座っている美里がペロリと舌を出して言う。運転席の流輝亜は笑っていた。

 篤哉は灰のように真っ白になった。




 二人に手を貸してもらい、なんとか家に入る。そのまま布団に寝かせてもらった。


 座薬の件が篤哉に深刻なダメージを与えていた。流石に知り合いの女性に座薬を入れてもらうのは恥ずかしすぎる。いや、知り合いでなくとも恥ずかしいが。


 美里と流輝亜の二人が買ってきた荷物を冷蔵庫へ入れたり何かメモ書きしたりしているのを見ながら、篤哉はもう一度言った。


「あの、今日は誠に申し訳ありませんでした」


「あつをはアホだなー。ダチが風邪引いたからちょっと面倒見た。たったそれだけのことっしょ? いちいち気にすんなって」


「そうそう。それに年上には素直に甘えておくのが年下の心構えってやつだよ?」


 自分は周りの人に恵まれていると改めて思う。これ以上謝罪しても二人を困らせるだけなので、風邪を治したらしっかり働いて恩返ししようと思った。


「さて、それじゃ後の事は後任ちゃんに任せるとしますか」


 美里と流輝亜はなんだかニヤニヤ笑っていた。何か企んでいるんだろうと思ったが、今の篤哉は強く言えない。


「あの、あまり他の人に迷惑かけるのも悪いですし、俺は別に一人でも」


「ダメだよ。一人でいて何かあったら困るでしょ?」


「安心しなー。後任はやべー頼りになるヤツだからさ」


 お大事に、と残して二人は帰っていった。

 精神的にも疲れた篤哉は、そのまま寝ることにした。


 なぜか寝る寸前の一瞬に彩月のことが頭に浮かんだ。







 唐突に目が覚めた。視界は全て真っ暗だった。まだ夢の中なのかと思ったが、違うらしい。既に夜になっていて部屋の電気が消えているだけだった。


 相変わらず身体は重いが、頭痛も治まってだいぶ楽になっていた。

 耳を澄ませてみても、物音は聞こえない。美里と流輝亜も帰ってしまったし、本格的に一人になってしまったようだ。


 一人だということを意識し始めると、途端に心細くなってくる。病で心が弱くなっているのもあるかもしれない。でも、原因はそれだけではない気がした。


 ひかりと彩月は今頃家族と過ごしているだろうか。ふとそんなことを考える。


 クリスマスを迎える前に、家族と過ごす時間は大切だと二人に説いたのは篤哉だ。

 だけど、今となっては二人に会いたい、会いたくない。

 みっともない姿を見せたくない。だけど、ひかりに呆れたような言葉をかけてもらいたい、彩月に“大丈夫?”と心配されたい。

 そんな相反した感情が湧いてきて、心の中はぐちゃぐちゃになる。


 また涙が流れてきた。自分が情けなくて消えてしまいたかった。






 その時、いきなり視界が明るくなり、あまりの眩しさに篤哉は目を瞑った。


「あれ、あっくん起きた? ……って、泣いてるの?」


 目を開けていられないが、声だけでわかる。それは篤哉が聞きたかった声で、聞きたくなかった声だった。


「あの、大丈夫、泣いてないから」


 そう言いながら篤哉は手で顔を覆う。

 その篤哉の手は小さな手で優しく包まれた。


「わたしがいるから。もうさびしくないよ」


 しばらく彩月に手を握られながら頭を撫でられていた。8つも年下の子に甘やかされている。

 でも、きっと年の差なんて関係ないんだろうなと思った。

 だって目の前の女の子は、とても優しくて母性に溢れていると感じられたから。


「その、ごめん。もう平気」


「そう? もうちょっとこうしててもいいんだけどな」


「さ、流石に恥ずかしい。今さらだけど」


 彩月は微笑みながら手を離し、立ち上がった。


「お腹すいてる? おかゆ作ってあるんだけど食べられそう?」


 気づけば今日は何も口にしていない。そう思った瞬間腹の虫が鳴いた気がした。


「うん。食べたい」


 篤哉が起き上がろうとすると、彩月が慌てて止める。


「身体だけ起こして待ってて。今持ってくるから」




 彩月は小さな土鍋をお盆に乗せて戻ってきた。土鍋の横には取り皿とレンゲが一つずつ。薄い紙袋も乗っていたが、それは美里が置いていった風邪薬だ。


「彩月はもう夕飯食べたのか」


「ううん、まだだよ。だからあっくんと一緒に食べようと思って」


「ん? でもレンゲは一つしかないぞ?」


「うん」


 自分の頭はまだ寝ぼけているのだろうか。二人で食べるなら取り皿とレンゲは二つずつ必要なはずで。一つのレンゲでどうやって二人で食べるというのだろう。

 そんなことを考えていた。


 土鍋の蓋が開けられると、立ち上る湯気とともにいい香りがした。卵と鶏肉のお粥らしい。


「はい、あーん」


 お粥を掬ったレンゲが篤哉の前に差し出される。断ろうと思ったが、状況的に彩月は絶対に引かないだろう。そう思ったので素直に口を開けた。


「あっつ!」


「あ、ごめんね!」


 慌ててレンゲを引き、ふうふうと息を吹きかける。


「はい、もう大丈夫だと思うよ」


 再び口を開ける。お粥は丁度いい温度になっていた。


「どうかな?」


「ん……うまい」


「よかった」


 彩月は微笑むとお粥をもう一度掬う。そして今度は自分の口へ持っていく。


「え、あの……彩月さん?」


「ほ、ほら、洗い物増やすのもどうかと思うし」


「し、しかし、それは間接的なアレになってしまうのでは。ていうか風邪うつっちゃうから」


「わたしは気にしないもん」


 今度はちょっと拗ねていた。さっきまで母性に溢れていたのにもう年相応になった少女が、なんだかたまらなく愛しかった。


「彩月が気にしないなら別にいいんだ。変なこと言ってごめん」


 篤哉がそう言うと、彩月はほっとしたようにお粥を頬張る。


 そうして彩月と交互にお粥を食べた。


 食後に飲んだ風邪薬が苦くて顔をしかめたら、彩月に笑われた。


 




 食事が終わると、彩月は土鍋をキッチンへ下げに行った。戻ってくる時にはビニール袋を持っていた。どこかで見たような袋だ。


「これね、昨日うちの前に落ちてたんだけど」


「う、うん」


「あっくん、昨日の夜うちの前にいたよね?」


「ど、どうだったかな。もう覚えてないなあ」


「あっくんが走って行くの見たよ。その後でこれを見つけたの。これあっくんのでしょ?」


「はい……」


 そのビニール袋の中身は見なくてもわかる。きっと篤哉が昨日コンビニで買った洗剤だ。


 昨日の醜態を彩月に見られていた。あんな自分の醜い部分を知られたら、愛想を尽かされるに決まってる。そう思うと、目の前が真っ暗になる。


「なんで声かけてくれなかったの? 近くまで来たならちょっとだけでもお話したかったのに」


「あー……えーっと。ほら、知らない人がいたし」


「そっか。あっくんはまだ知らなかったよね。あの人は坂詰さんっていって、お母さんとお付き合いしてる人だよ。わたしも昨日初めて会ったんだ」


「なるほどー。じゃああの人が彩月の新しいお父さんになるかもしれないのかー」


「なんで走って逃げたの? わたしの声、聞こえてたよね?」


 誤魔化そうとしたが、彩月は真剣な目で問い詰めてくる。普段温厚な彩月にしては珍しい顔だ。


「声かけようと思ったんだけどさ。三人で楽しそうだったから、邪魔しちゃ悪いかなと思って」


「じゃまなわけないよ。あっくんはわたしの大切なお友達だもん。坂詰さんに紹介したい」


「でも、家族……いやまだ家族じゃないか。将来家族になる人なんだから、水入らずで過ごした方がいいかなと」


 篤哉が何か言う度に彩月の顔はどんどん悲しそうに歪んでいった。それはわかっていたが、自分の醜い部分をどうしても彩月に知られたくなかった。


「走って逃げたのはなんで? これ昨日買ったものなんだよね? 落としていっちゃうほどあわててたってことでしょ?」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。篤哉は忘れていた。彩月の勘が鋭いことを。


 既に泣いてしまいそうな彩月を見て、もう逃げ場はないと悟った。


「これを言ったら嫌われるかと思って言えなかった」


 彩月は篤哉の目をじっと見て先を促す。


「その、俺はあの場所に必要ないかなと思って。彩月と神菜さんが幸せなら、俺はいなくてもいいかなと思ったんだ。そう思ったら悲しくなってきて、いてもたってもいられなかった」


「あっくんのバカ!!」


 ついに彩月は涙を溢した。初めて見る彩月の激情に篤哉は怯む。平手打ちでもされるかと思ったが、彩月は抱きついてきた。


「いなくていいはずない! あっくんはわたしにとって大切なの! この先ずっと、ずっと大切な人なのっ!」


 昨日から今日にかけてもう何度目かわからない自己嫌悪を感じていた。こんなに彩月は想ってくれているのに、なぜ自分はあんなことを考えたんだろう。


「いなくなったらいやだよ……!」


 泣かせてしまった。こんなに優しくて健気で自分を想ってくれている女の子を。


「ごめん」


 そっと彩月の背中に手を置いて、頭を撫でてやることしか篤哉には出来なかった。






 ひとしきり泣いた後、彩月はまず頭を下げた。


「ごめんなさい。わたしあっくんをお世話しに来たのに、責めるようなこと言って困らせちゃった……」


「いや、今回のことは全面的に俺が悪い。彩月が謝ることじゃない。そ、それに、彩月がどう思ってるか知れて嬉しかった」


「えへへ……実はわたしも、あっくんがどんなことを考えてたか聞かせてもらえてうれしかったりするんだ。あっくんのことは単純に気になるし、あっくんの気持ち、何を考えてるのかはいつだって知りたいから」


 セリフの後半部分に既視感を覚えた。前にどこかで聞いたことがあったような。


「それ……前に俺が彩月に言った言葉だ。覚えててくれたのか」


「うんっ。あっくんが言ったこと、言ってくれたことは全部覚えてるよ」


 嘘か本当かはわからない。でも、物覚えの良い彩月ならあり得るかもしれない。

 今後は発言に気を付けようと篤哉は密かに思った。




 それから彩月はシャワーを浴びに行った。部屋の電気は彩月が消したので真っ暗だ。

 寝てるように言い付けられた篤哉だが、今日をほとんど寝て過ごしたので全く寝つくことが出来ない。


 仕方がないので羊を数えてみることにした。


「羊が1匹、羊が2匹……」


 もともと篤哉は寝つきの良い体質なので、気休めのおまじないでしかないこの羊カウントは全く信頼していない。


「羊が15匹、羊が16匹……」


 でも、彩月に寝ろと言われたし、これ以上悲しませたくない。だから気休めに頼ってでも眠ろうと思った。


「羊が89匹、羊が90匹……」


 今日は彩月を泣かせてしまった。嬉し泣きは今までにもあったが、悲しくて泣かせたのは今回が初めてだ。


「彩月が246匹、彩月が247匹……」


 もうあんな顔をさせたくない。彩月にはいつでも笑っていてほしい。もっとしっかりしなければ。

 

 そう思っているうちに寝室の扉が開いた。


「も~、あっくんやっぱり寝てなかった」


「彩月が587匹……って早かったな」


「なんでわたしを数えてたの?」


「あれ? なんでだろう」




 その後、篤哉が風邪で風呂に入れないということで彩月に身体を拭いてもらうことになった。普段なら断っていたが、今日だけは頭を下げられてしまうと断れなかった。


 身体を拭いてもらったら洗面所に歯を磨きに行って、トイレも済ませ、再び寝室に戻ってくる。

 その全てに彩月が付き添ってくれた。流石にトイレの中までは入って来なかったが。


 寝る前にもう一度熱を測ってみると、37度3分だった。


 布団をぴったり並べて敷いて、彩月と並んで床に就く。


「結構下がった。明日には治ってるかもな」


「よかったあ。わたしが来てあっくんの風邪が悪くなったら、ひかりちゃんに顔向けできないところだったよ」


「そういやひかりは今日来なかったな」


「美里さんはひかりちゃんにもメールしたらしいんだけど、今日はわたしに任せてしっぴつにせんねんするって言ってた」


「ああ、例の絵本の」


「ほら、昨日メールであっくんが“駆け込み寺はお休み”とか送ってきたから」


「う……あれはまあ、そういう気分だったというか……」


「わかってる。ちょっとさびしくなっちゃっただけだよね」


「う、うん」


 彩月が手を握ってくる。布団に入って来たりはしなかったが、手をにぎにぎされてくすぐったい。なんとなく、こちらの布団に潜り込むのを我慢しているような気がした。


「あのさ、前に言った年末は家族と過ごすってやつなんだけど」


「それもわかってるよ。年越しの瞬間をあっくんと過ごせないのはちょっとさびしいけど」


「そのかわり、年始以降はたくさん遊ぼう。ひかりも呼んで。あ、俺の仕事がない時に」


「うんっ」


 彩月がこちらを向いた。両手で手をにぎにぎされる。


「でも、その……ね。たまにでいいからあっくんと二人でまたデートもしたいなって」


 二人で会いたいと彩月に言われたのは初めてかもしれない。心臓が跳ねたのを感じた。


「じゃあ、タイミングを見て行こうな」


「うう~……ひかりちゃんを仲間はずれにしてるみたいでもやもやする~」


 彩月のセリフを否定できない。篤哉も同じように思っていたからだ。

 ひかりと彩月のどちらかを贔屓するようなことはしたくないが、希望があるならそれを出来るだけ叶えてやりたいとも思う。

 また受け身の考えになってるなと自覚した。


「ね、あっくん。わたしがまんできないよ。そっちに行ってもいい?」


 非常にギリギリなセリフを言われて篤哉は焦った。もちろん彩月は純粋な触れあいを求めているだけというのは理解しているが、どうしても邪な考えがむくむくと頭を上げてくる。

 邪念を断ずるように深呼吸をした。


「彩月に風邪をうつしたくないのでダメです」


「む~……わたしがぜったいに病気しない身体だったらよかったのになあ……」


「それもう人間じゃないよね」


 その後も他愛のない会話を続けていたが、いつの間にか二人の意識は途切れていた。

 でも、手はしっかりと握られたままだった。


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