第27話 ううん、そっちじゃなくて
異性に裸を見られるのは恥ずかしいし、異性の裸を見るのも恥ずかしい。二度目だからといってそれは変わらない。
「かゆいところはないですかー」
「ないです」
頭を洗われながら、篤哉は怯えていた。今回はひかりも彩月も最初からタオルを巻いていなかったからだ。全てをさらけ出している二人の肢体にくらくらしていた。
大切にしたいと思っていて、しかも女の子として魅力的だと感じている、そんな二人が一糸纏わぬ姿で至近距離で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる光景は、もはや暴力的な性だ。
しかも、篤哉は大きなミスを犯してこの場に臨んでいた。ここ一週間ほど一度も処理をしなかったのだ。
篤哉の頭を洗いながら、二人の視線はずっとある一点に釘付けだった。もちろんそのことは篤哉もわかっていたが、改めて指摘すると空気がおかしくなってしまいそうだったので、何も言えない。
「流すねー」
「はい」
一方ひかりと彩月は、ずっと篤哉のタオルを押し上げているものから目が離せず、かといって話題に出すことも出来ず、会話もそこそこに作業をこなしていった。
男性がどういう気持ちになるとそういう状態になるのか。それは何となくの知識で知っていたが、その後のことについては曖昧だった。
ただ、鼓動がうるさくなって身体の芯が熱くなっていることだけはわかった。
「じゃあ次は身体だね」
「おねがいします」
ひかりが篤哉の右半身を、彩月が左半身を洗っていく。前回と同じく二人ともスポンジを使っていなかったので、行為事態はもう愛撫と変わらない。その事実に気付いた時に、篤哉のタオルが跳ねた。
もうそろそろ限界かもしれない。意識が遠のく中でそんなことを思った時、ふとひかりの手が止まった。
「あつにぃ、彩月。今日はありがとね」
「どうしたのひかりちゃん。わたしだってひかりちゃんにお礼言いたいくらい今日は楽しいよ?」
「ううん、そっちじゃなくて」
ひかりは篤哉の右腕を掴んで俯く。肩は少し震えていた。
「助けに来てくれて、ありがとう」
その言葉でようやく思い知る。今日中学校の体育倉庫で起こったことは、やはりひかりにとってショックだったのだと。もちろん心に傷を負っている可能性は考えていたが、ひかりがあまりに普段通りだったので、もしかしたらと思っていた。
篤哉は後悔した。なぜ自分はもっとひかりのことを気遣ってやれなかったのか。
「大切な人を守りたいと思うのは当たり前の気持ちだよ。お礼を言われることじゃない」
「でもっ、わたしのせいであつにぃがケガしちゃって……!」
お湯に濡れないようにビニール袋をつけた篤哉の右手を、ひかりは大切なものを扱うかのように両手で包み込む。その手は確かにひかりを凶刃から守った手だ。
「ごめんなさいっ……!」
「ひかりちゃんっ」
彩月がひかりの肩を抱くようにくっついた。
そうだ、ひかりだけじゃない。彩月だって怖かっただろう。わけがわからなかっただろう。知らない年上の人がたくさんいて、大切な友達がなぜかいじめられていて。
篤哉は二人をいっぺんに抱き寄せるように腕を回した。
「怖かったよな。もうあんなことは二度と起こらない。起こさせないよ」
二人の髪から滴る雫に混じって涙が頬を伝っていく。
ひかりはあの時の恐怖と篤哉の手を思って。彩月はあの時の理不尽さとひかりの恐怖を思って。
声を出して泣く二人を慰めるように、しばらく肩を抱いていた。
「はー、久しぶりにたくさん泣いたかも」
「わたしもー。もうしばらくは涙出ないかも」
「復活早くね? まあいいんだけどさ」
二人が声を出して泣いたのは、5分にも満たない時間だった。
全てを吐き出せたのかはわからないが、表情はもう普段の調子に戻っていた。
「ていうかさ、あっくんずっとそのままで平気なの?」
「なにが?」
「その、ほら、タオルの下の……」
彩月が指差していたのは、今もまだ元気にタオルを押し上げているもの。篤哉は特に意識していなかったが、二人が泣いている間もそれはずっと膨張したままだった。
「ええ……まだ大きいままなの? 病気とかじゃないよね?」
「こ、これは別に病気とかじゃなくて一種の自然現象であって。なんか話題の緩急がすごい!」
「じゃあ、ずっとわたしたちに興奮してくれてたってことなんだよね?」
「泣いてるわたしたちにも興奮してたの? それはちょっと引くんですけど……」
「誤解を招くような言い方! 男のこれは自分の意志と関係なく張り切っちゃうの!」
「じゃあ、興奮してくれてないの……?」
「うっ、その言い方はズルい! あの、ほんのちょびっとだけ」
「ほんのちょびっとだけ?」
「いえ……正直ずっと二人の姿にドキドキしてました。変態ですみません……」
その言葉に、ひかりも彩月も嬉しさと恥ずかしさを隠すことなく頬を染める。
「そうだ、出る前に三人で湯船入ろ! ね、あつにぃ」
「う、うん」
「あ、その前にシャワー」
その時、起きてはいけない奇跡が起きた。
油断した篤哉はタオルを押さえずに椅子から立ち上がり、発射準備の整った砲身がむき出しになってしまう。さらにそれと同時に彩月がシャワーを取ろうと右手を伸ばす。絶妙なタイミングで彩月の肘が篤哉の主砲を擦り上げた。
主砲は突如発生した快感を敵襲と勘違いし、脳という司令官を無視して全弾発射。
その結果、シャワーに手を伸ばした彩月の右腕と浴槽を跨ごうとしていたひかりのお尻が被弾することになった。
「なんか、生温かいんだけど……」
「う、うん。それにねばねばするね……」
一週間ぶりの一斉掃射に、快感と罪悪感と絶望で頭が真っ白になる篤哉だった。
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