第22話 パーティーナイト


 そして迎えた12月22日、火曜日。


 篤哉はケーキを受けとるためにモールへ向かうことにした。

 外に出ると相変わらず空気は怖いほど澄んでいたが、遠くに重厚な雲の塊が見える。今日もまたひと降り来るかもしれない。


 先に夕食の買い物を済ませてからケーキを受けとる。そうすると両手が塞がるほどの荷物になってしまった。


 ただ、今日のクリスマスパーティーを迎えるに当たって、あと一つ手に入れなければならないものがある。

 それはクリスマスを彩る重要なものだ。


 篤哉は荷物を抱えたまま服屋へと向かった。



「ウェーイあつをー」


 店内に入るとカケルが出迎えてくれた。軽く挨拶を交わす。


「なんかめっちゃ荷物にまみれててウケんだけど。なに、今日はパーティーナイトなん?」


「まあそんな感じ。あのさ、実は欲しいものがあるんだけど」


「フゥー! 他ならぬあつをの頼みだもんなー。しゃーねえ、オレに任せろやー!」


「実は……」


 店内には他にもお客さんがいて聞かれるのは恥ずかしかったので、そっと耳打ちする。

 カケルは大爆笑した。


「ぶわはははは! サイコーだよお前マジでさー!」


「お、おい、あんまり騒ぐと他のお客さんに迷惑だろ」


 慌ててカケルを宥めようとした時、カケルの背後からにゅっと手が生えてきて、そのままカケルの頭をハリセンで殴った。


「店で騒ぐなハゲ」


 カケルが頭を押さえながら『ハゲてねーし』と言っているのを聞きながら、カケルの後ろから現れた女性を見る。


 金髪に胸元の空いた派手な服装、派手なネックレスを着け、ネイルを付けた爪がキラキラ輝いている。

 肌は黒くはなかったが、まさにギャルの中のギャルといった出で立ちだった。


「てか誰」


 ドスの効いた声で睨まれた。いや、睨んだのかはわからないが、とりあえず篤哉は怯んで声が出せなかった。


「ほら、昨日話したろ? あつをだよあつを」


「んー……あー、アンタがあつをね」


「は、初めまして……」


「アタシは星井流輝亜(ほしいるきあ)。このアホの保護者よ」


 気だるげな表情に微笑みを混ぜながらルキアは自己紹介をしてくれた。あつをではなくあつやだと訂正したかったが、完全にビビった篤哉は言い出せなかった。


「んで何。今日はパーティーナイトなん?」


 カケルと同じことを言われて吹き出しそうになる。


「え……ええ、今日はパーティーやるんですけど、ちょっと欲しいものがあって」


「サンタのコスプレ衣裳が欲しいんだとよー」


「うおおおい! 恥ずかしいんだからもうちょいボカせよおおお!」


 篤哉の突っ込みが店内に響き渡る。お客さんも他の店員もみんなこちらを見ていた。


「うう……お騒がせしてすみません」



「てかさ、サンタの衣裳なんてウチになくね?」


「あったろ確か。ほら、前にヤマさんが売り物に使えそうって持ってきてさー」


「それ結局持って帰ったでしょ。あれ? 持って帰ったっけな」


 あるのかないのか分かりにくい会話だった。


「あのー、ないなら諦めて他の店で探しますんで……」


「あっ、ちょ待てよ。ないなんて誰も言ってないでしょ」


 ルキアに腕を捕まれて引き留められる。“さっきないって言ってたよね?”という言葉は胸にしまう。


「とりあえずちょっと裏見てくるね」


 そう言ってルキアは店の奥へ消えていった。


「なんか、なんというか……変わった人だな」


「だろー? お茶目なのがルキアの魅力なんよなー」


「お茶目……そうなのかなあ。そういうことにしとくか」


 5分ほど経ってルキアが戻ってきた。


「ごめんあったわ。アタシが自分で私物持ち込んだの忘れてた」


「結局あるんかい! 助かるけどさ!」


 我慢できずに篤哉は思いっきり突っ込みを入れた。




 ルキアはカウンターで衣裳を包装してくれた。その手際は流石服屋の店長といったところだ。


「お代はいいや。なんか余計に時間取らせちゃったし。それに、ぶふっ……これ売れるとは思ってなかったからさー」


「そんなに笑わなくても」


「いやだって……あつを今日コレ着るんだよね? ぷくく」


「一応着るつもりではありますけど……」


「なー。だから言ったろ。あつをはおもしれーやつだってさー」


「面白すぎるわ。これでもてなされたらクリスマスパーティーめっちゃ面白くなるわ」


 面白いではなく楽しいと思って欲しい気持ちが強いのだが、いちいち否定するのももう疲れたので何も言わなかった。

 ただ、金額については言及することにした。


「あのー、やっぱり代金は払います。初めて来た店でタダにしてもらうのは気が引けますし、お店にも負担かかっちゃうし」


 篤哉の言葉に、カケルとルキアは顔を見合わせて笑う。


「こーいうやつなんだよなーあつをって」


「ふふっ、わかった。んじゃ半額分だけ貰っとく。残りの半分はこれからウチを贔屓にしてもらうってことで」


 言いながらウインクされて、篤哉は分かりやすく照れた。


 二人に見送られて店を出る。


 財布はすっかり寒くなってしまったが、心は温かかった。

 カケルも強烈なキャラだと思ったが、ルキアもなかなかだ。ああいう二人だからこそ惹かれ合うものがあったのだろうか。

 二人とも昔の自分なら関わることはなかったタイプだが、なんだか二人とは仲良くなれそうな気がする。

 日差しの暖かい雪道を歩きながら、そんなことを思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


星井流輝亜 ほしい るきあ


27歳。翔の働く服屋の店長で翔の彼女兼保護者。気だるげでお茶目なギャル。翔に対して辛辣なこともあるが、意外と愛は深い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る