第18話 告白された

 とある平日の夕方、ファンシーショップの従業員全員(といっても四人だが)を集めてミーティングが行われた。


「毎年のことなので皆さんは既に承知かと思いますが、これから冬が厳しくなるにつれて、積雪量も増えていくと思われます。それに伴い、年末年末の休暇を伸ばすことになりました。具体的には……」


 毎年この地方は雪がたくさん降る。それは住民たちの生活だけでなく企業や店で働く人々にも多大な影響を与える。

 北国に生きる者にとっては宿命のようなものだが、その対応には店長も毎回頭を悩ませていた。


「例年通り客足も遠のくと思われますので、年末から年始以降の業務は雪かきなどの清掃、整備作業がメインになります。路面の状況も非常に悪いので、通勤に無理を感じたら連絡をもらえれば休んでもらって結構ですので」


「やー、去年は大変だったよね。雪かきだけで1日終わっちゃうって日もあったし。あ、誰かさんは結局来なかったんだっけ」


「去年は本当にすみませんでした……。あの頃は自分のことで手一杯だったと言いますか、ばあちゃん絡みの問題もありましたので」


「ごめんって。もう、真面目に返さないでよ冗談なんだからー。篤哉くんが大変だったのはみんな知ってるからさあ」


 去年の冬は、ちょうど静が入退院を繰り返していた時期だ。送り迎えは篤哉と叔父の辰夫で分担してやっていたのに加えて、社会人として迎える初めての冬に篤哉自身戸惑っていたというのもある。


「あの、今年はちゃんと雪かき手伝いますので」


「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。折山さんも去年の冬休みには1日しか出勤しませんでしたから」


「あれえ? ソウダッタカナー?」


「あのう、今年はわたしもお手伝い出来たらなって……」


「お気持ちはありがたいですが、佐倉さんはアルバイトです。本当に大丈夫そうな時だけでいいですよ」


「は、はい。わかりました」


「ともかく、皆さん自分の安全を第一に考えてくださいね」




 ミーティングが終わって帰り支度をしながら何気なくスマホを覗くと、メールを受信していた。

 画面を開いて表示された短い文をなんとなく読む。


『告白された。 fromひかり』


 そのたった五文字に、今晩のおかずを考えていた篤哉の思考は止まった。


 帰り道はどこをどう帰ってきたのか覚えていなかった。気づいたら家に着いていて、いつの間にか夕飯を食べ終わっていた。

 『クラスメイト?』と返信しておいたが、あれからひかりからの反応はない。

 我ながら素っ気なかったかもしれないと篤哉は思った。でも、今から追加のメールをするにもタイミングを逸している。

 そもそも、あまり長文を送ってもひかりが困るだろう。


 なぜ自分はこの可能性を考えなかったのかとふと思う。ひかりはちょっと難しい性格をしているが、年の割には大人っぽくて美人だし、基本的にはいいやつだ。

 中学一年生で告白されるのは早い気もするが、それも時間の問題だったのかもしれない。 


 ひかりに告白したやつはどんなやつなのだろう。

 

 どれくらい親しいのだろう。


 ひかりはどんな顔でそいつの告白を聞いていたのだろう。


 ひかりは告白を受けるのだろうか。



 いつの間にか布団の中にいた。仕事が終わってからの記憶が無い。今日は眠れないんだろうな、と篤哉はぼんやりと思った。


 頭に浮かんでくるのは、ひかりと過ごした日々の記憶だった。



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